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常識を疑え!

消費者心理はなぜ冷え込んでいるのか?

香山リカ(医師)

 消費者心理の冷え込みが止まらない。

 内閣府がこのほど発表した2011年4月の消費動向調査によると、消費者態度指数は前月比5.5ポイント低下の33.1。この指数は「消費者の暮らし向きなどの意識」をあらわすもので、下落は3カ月連続、下落幅は過去最大となった。どうやら「買い控え」などの傾向は、一時的なものではなくこのまま定着していきそうだ。

 一方、1年後の物価見通しについては、「上昇する」と答えた人の割合が73.2%と高水準であった。長く「デフレ」が問題だと言われていた日本だが、ここに来て物価の上昇を感じたり予測したりしている人が増えている。しかし、景気が悪化の兆しを見せている中での「物価上昇」なのだから、これを「デフレ脱却」とすぐに喜ぶわけにはいかない。とくに、原油価格、食料品、そして公共料金の値上がりは、人々の暮らしに直接、打撃を与えそうだ。

 世の中にあふれるかけ声は「心をひとつに、がんばろう」「強い国に向けて復興を」と勇ましく、「経済を回すためにもどんどんモノを買おう、旅行や外食にも出かけよう」という声も聞かれる。しかし、実際の人々の生活では、物価の上昇などを懸念し、ますます買い控えや外出控えが進んでいる、ということだろう。

 頭では、「こうしちゃいられない。なんとか経済を活性化しなくては」と思っているのに、それが実際の行動に移らない。旅行やマンションのパンフレットを見ても、高級ブランドのブティックの前を通っても以前のようには心が躍らず、どこか「私には無関係」と思ってしまう。自分の中でも、「やるぞ!」という気分と「でも、やりたくない」という気分が両方、存在しているのだ。

 このようなふたつの異なるメッセージが常に自分を縛る状況を、心理学では「ダブル・バインド二重拘束状況)」と呼ぶ。ダブル・バインドにさらされた心は、たいへんなストレスを受けて、それが心の病の原因になることもあると言われる。

 では、どうすればこの恐ろしい拘束状況を脱することができるのか。それは、なるべく自分の心をそのときどきでシンプルにしておくことだ。「買わなきゃ…でも買えない」ではなくて、消費する気になれないときは、そんな自分の気持ちを認める。しかし、「よし、今日はお金を使おうか」という気になったときは、できる範囲で迷わず実行。とにかく、常に「どうしよう…こうしたほうがいいか…でも…」とふたつのメッセージのあいだで宙ぶらりんになっているのが、いちばん強いストレスになるのだ。

 もちろん、「心をシンプルに」と言ったところで、それを実行するのはむずかしい。「こうしよう…いや、やっぱり」という迷いのループは、この時期、どうしてもまた始まってしまう。しかし、「ダブル・バインドは危険」とわかっていれば、ループが始まりそうになった時点で、「よし、とにかく今日はこちらにしておこう」とどちらかひとつに決めよう、という気になるのではないか。

 こういう事態では、ものごとに正解も不正解もない。消費に協力したいと思う気持ちにも、やっぱりしたくないという気持ちにも、それぞれに理があり、常にどちらか一方にしなければ、ということではないのだ。

 おそらくどんな人の消費者心理も、24時間ずっと冷え込み続けているわけではない。「あれ、なんだか買ってみたい気が」という意欲が出てきたら、そのときを逃がさずに買えばよい。冷え込んだ心理に無理やり火をつけよう、と無理をしすぎる必要はないのだ。

著者情報

医師

香山リカ

かやま りか

1960年北海道生まれ。東京医科大学卒業。学生時代より雑誌等に寄稿。その後、精神科医として臨床に携わりながら、一般読者向けの著作活動を行う。著書に『女は男のどこを見抜くべきか』(集英社)、『執着 生きづらさの正体』(集英社クリエイティブ)、『「いじめ」や「差別」をなくすためにできること』(ちくまプリマー新書)、『61歳で大学教授やめて、北海道で「へき地のお医者さん」はじめました』(集英社クリエイティブ)など多数。

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