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常識を疑え!

「こども園」はなぜ問題なのか?

香山リカ(医師)

「幼稚園に行った? それとも保育園?」。小学生時代、こんな会話を交わした記憶がある人もいると思うが、これからはその区別がなくなるかもしれない。政府が両者を「こども園」に一本化する、という方針で作業を進めてきたからだ。

 ただ、ここに来て完全な一本化はせずに、「こども園」「保育所」「幼稚園」が併存する“三本化路線”で行くことが決まった。一部のいわゆるブランド幼稚園からの反発が強かったから、といわれる。

 少子化で子どもが集まらず、経営が厳しい状態になっていた幼稚園は、政府から補助金が出る「こども園」に進んで移行すると見られている。無認可保育所も、ある程度の条件をクリアすれば「こども園」になることができる。

 ただ、「こども園」は子どもや保護者にとってどんなメリットがあるのか、といういちばん重要な点がややはっきりしない。政府は、「幼保一体化」により長時間保育と幼児教育の充実が両立できる、と言っている。また、現行では保育所入所を希望する場合、保護者は自治体に届けを出して割りふられることになっているのだが、「こども園」の場合、直接、園に申し込みをすることになる。保護者自身が園を選べる、というわけだ。

 現在、申し込んでも保育所に入れない、いわゆる待機児童が社会問題になっている。「こども園」ができればそれが一気に解消して、逆に利用者が園を選べるようになるのだろうか。幼稚園のうち何割が「こども園」に移行するかわからない現状では、その保障はもちろんない。逆に「一部の園に希望者が集中し、より入園がむずかしくなるのでは」という声もある。「選べる」というのは、逆に「選ばなければならない」ということにもなり、「どの園がよいのか、どの園が入りやすいのか」と保護者の負担が大きくなる可能性もある。

 さらに、本質的な問題がある。それは、いくら子どもの保育、教育のサービスが充実したとしても、おそらく誰もが利用できるようにはならない、ということだ。現状では、最優先されるのは、母親がフルタイムで働いている場合。ところが、正社員の場合、企業内託児所あったり実家に余裕があって母親が手伝ってくれたり、と利用できる手段がほかにもいろいろあるケースが少なくない。有料のベビーシッターを頼む経済力がある人もいる。

 一方、パート勤務者あるいは病気などのためにごく短時間しか働けない女性の場合は、どうだろう。「保育所もダメ、もちろん企業託児もないし、高額なベビーシッターなどとんでもない」と、あっという間に「どこにも保育の手がない」という状況に追い込まれてしまう。診察室でも、心身の病気で育児ができなくなっている女性に会うことはめずらしくないが、「保育所は働く女性のための施設と言われるし、夫は多忙、実家の親は無関心で…」と涙に暮れる人の前で、こちらも言葉を失ってしまうことになる。

 本来であれば、仕事がある、ないにかかわらず、助けを必要としている人が気軽に保育を頼める場が「こども園」であるべきだと思う。しかし、日本ではまだまだ「子どもが小さいうちはなるべく母親のもとで」といういわゆる三歳児神話も根強く、「フルタイムで働いているわけでもない親が、なぜわが子を預けなければならないのか」という無言のプレッシャーが母親たちにのしかかっている。

 孤立した状況の中で育児ストレスに苦しむ母親こそが、「こども園」で救われなければならない。その点を踏まえた改革でなければ、意味はない。そう思うのだ。

著者情報

医師

香山リカ

かやま りか

1960年北海道生まれ。東京医科大学卒業。学生時代より雑誌等に寄稿。その後、精神科医として臨床に携わりながら、一般読者向けの著作活動を行う。著書に『女は男のどこを見抜くべきか』(集英社)、『執着 生きづらさの正体』(集英社クリエイティブ)、『「いじめ」や「差別」をなくすためにできること』(ちくまプリマー新書)、『61歳で大学教授やめて、北海道で「へき地のお医者さん」はじめました』(集英社クリエイティブ)など多数。

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