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常識を疑え!

芸人ブームはなぜ続くのか?

香山リカ(医師)

 年末年始のあとは、1月の3連休。家でテレビを見る機会も多い時期だ。久しぶりにじっくりテレビを見た人たちは、どんな番組にもいわゆる“芸人”と呼ばれる人たちが大勢、登場しているのに驚いたのではないだろうか。

 この芸人たちが登場するのは、お笑い番組だけではない。情報バラエティーにクイズ番組、最近は硬派な討論番組から時代劇にまで、ありとあらゆる番組に漫才や漫談、落語などを本業とする芸人たちが出演して、大活躍。芸人がここまでテレビに出ていなかった時代は、いったい誰がこの役をしていたの、と不思議になることもあるほどだ。

 芸人たちの魅力は、なんといっても打てば響く、反射神経のよさ。それに守備範囲の広さと柔軟性もかなりのもので、本業のギャグやおしゃべりはもちろん、演技力、運動神経、広い教養、オタク的な趣味など、独自の個性や得意ワザを持つ人たちも多い。

 そして、女優や識者に比べるとなんといっても敷居が低いので、共演者も遠慮なく“ツッコミ”を入れることができる。「アイドルのストーカーやりすぎて、気持ちワルイって言われてるんじゃないの?」「ちょっと、かんべんしてくださいよ、バラすのは…」。情報番組の司会者とこんなやり取りができる出演者は、芸人だけと言ってもよいだろう。さらに、低いのはその敷居だけではない。不況といわれるテレビの世界では、その知名度に比べてかなり低めに設定されているといわれるギャラも、大きな魅力のひとつなのだろう。

 あと、忘れてはならないのが、視聴者たちがいわゆる「芸能人」とは違う、「芸人」というキャラクターを求めている、ということ。はれものにさわるように扱うのではなく、「なにその服、ダサイじゃない」「まったくアホだな」と遠慮なく茶化したり笑ったりしても、角が立たない。あこがれのスターではなくて、仲間感覚でいられるか、さらに微妙にこちらのほうが優越感を抱くことさえできる。

 あるとき就職活動中の学生たちが、「あの芸人、売れてるように見えるけど、ギャラが安くていまだに風呂なしアパートなんだって。私のほうがマシかも」「それで寒中水泳なんかやってるのはツライよね」「いや、その仕事だっていつまであるか、わからないしね」と笑っていたが、誰もがしんどい時期だからこそ、芸人は「自分よりもっとたいへんな人がいる」と思わせてくれる貴重な存在なのかもしれない。

 しかし、「芸人のほうが自分よりツライ」というのは幻想で、実際には経済的にも恵まれた生活をしたり華やかな交友関係があったり、という“セレブ芸人”が多いことも、学生たちは当然、知っている。それにもかかわらず、彼らはテレビの中で恥ずかしい姿をさらけ出し、「アイツ、おかしいよな」と笑われる対象でいてくれる。そこにまた、ぐっと共感を寄せるのかもしれない。

 また、テレビの関係者たちは、芸人は何といっても下積み期間があったり、厳しい上下関係をくぐり抜けてきたりしているから、礼儀正しく仕事もしやすい、と評価する。つまり、プロ意識を持った体育会系なのだ。いざ仕事となると、どんな設定でも拒まずに、求められている役割を粛々とこなす。制作側からすると、これほど使いやすい人たちもないだろう。

 このように、「不況」と「閉塞感」が業界でも世間でもキーワードになっている今、芸人たちほど現実的にも心理的にも求められている人はいない、と言ってもよいだろう。そういえば、はるか昔、戦争中も戦地を訪問するお笑い慰問団が各地で大人気になったという。そう考えれば、芸人が人気の時代というのは、世の中の状況としてはあまり良くない、と言えるのだろうか。テレビ界を席巻する芸人たちが、今年こそ本物の笑いと福を呼び込んでくれることを期待したい。

著者情報

医師

香山リカ

かやま りか

1960年北海道生まれ。東京医科大学卒業。学生時代より雑誌等に寄稿。その後、精神科医として臨床に携わりながら、一般読者向けの著作活動を行う。著書に『女は男のどこを見抜くべきか』(集英社)、『執着 生きづらさの正体』(集英社クリエイティブ)、『「いじめ」や「差別」をなくすためにできること』(ちくまプリマー新書)、『61歳で大学教授やめて、北海道で「へき地のお医者さん」はじめました』(集英社クリエイティブ)など多数。

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