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常識を疑え!

政治家はなぜタフなのか?

香山リカ(医師)

 民主党の小沢一郎元幹事長をめぐる「政治とカネ」の問題が、なかなか決着しない。東京地検特捜部の強制捜査、事情聴取から、検察審査会へ、そして衆議院政治倫理審査会、さらには証人喚問の可能性も…と、舞台を次々に変えながらもいっこうに終わる気配がない。

 このいつまでも幕が閉まらない“小沢劇場”に対して、有権者たちはもはやうんざりしている。テレビの街頭インタビューでも、「小沢氏はきちんと身の潔白を釈明して」などと白黒つけることを強く求める声は減り、「いいかげんにしてほしい」「重要な問題がほかにもたくさんあるのに」と力なくつぶやく声が増えてきた。

 それにしても驚くのは、当事者である政治家たちが少しもうんざりした様子を見せずに、それぞれの思惑に従って次の手を考えている、ということ。菅直人首相とふたりで会談したあとの小沢氏など、ニコニコと笑顔さえ見せ、90分以上、待たされていた記者たちのほうが疲れ気味。ふつうの人間なら、ここまで長く「限りなく黒」などと言われ続けたら、ストレス性の胃潰瘍(いかいよう)になるか、うつ病などのメンタル疾患になるか、であろう。

 一般に、政治家はうつ病などのストレス性疾患になる確率が低い、と言われる。たしかに、「うつ病で1年休職」といった話はまず聞かない。私が知るかぎり、ストレスが関連した病気に倒れたのは、自ら命を絶った数人を除けば、「機能性胃腸障害」の安倍晋三元首相くらいだ。

 では、なぜ政治家はメンタル的にタフなのか。

 この問題を検討するにあたっては、「もともと打たれ強く、タフな人が政治家を目指している」のか、「政治家として働くうちに、次第にタフになっていく」のか、その二方向の因果関係を考えていかなくてはならないだろう。

 まず、前者の「もともとタフだったのだ」という仮説だが、これは簡単には証明がむずかしい。ただ、必ずしも「子どものときからリーダーだった」というタイプが政治家になるわけではないようで、ときどきインタビューで昔を振り返り、「引っ込み思案だった」「物静かで泣き虫だった」と語る人もいるところを見ると、みながみな、強気でストレスに強いタイプだったとは考えられない。

 だとすると、やはり政治家として活動する中で、次第に落ち込んだり自分を責めたりしなくなっていくのか。おそらくそういう人も少なくないと思われる。

 では、政治家の仕事や役割の何が、人のこころを鍛えていくのか。ひとつは、「これだけの票を得たからにはがんばらなければ」という役割意識や使命感だろう。そしてもうひとつは、多くの有権者の陳情などを受けたり何かをして感謝されたりして、「やはり自分は必要とされている」と自分の価値や意義を強く感じる場面が多い、ということだろう。さらに、自分の指示で官僚が動くのを見ているうちに、能力が高まったような気になるのを感じることもあるかもしれない。

 いずれにしても、「自分はこういう人間である」という自我の意識が拡張されるのが、“政治家というお仕事”なのだ。もっと言えば、うつ状態の逆、軽い躁状態が続いているようなもの、とも言えるかもしれない。

 しかし、ここには落とし穴がひとつある。拡張された自我は、「落選」という憂き目にあったときに行き場がなくなり、そこからうつが始まる危険性もあるのだ。「落選後の国会議員のこころの状態」の追跡調査が行われたことはないはずだが、精神科医としてはとても興味がある。そのうち、誰か共同研究を持ちかけてくれないものだろうか。

著者情報

医師

香山リカ

かやま りか

1960年北海道生まれ。東京医科大学卒業。学生時代より雑誌等に寄稿。その後、精神科医として臨床に携わりながら、一般読者向けの著作活動を行う。著書に『女は男のどこを見抜くべきか』(集英社)、『執着 生きづらさの正体』(集英社クリエイティブ)、『「いじめ」や「差別」をなくすためにできること』(ちくまプリマー新書)、『61歳で大学教授やめて、北海道で「へき地のお医者さん」はじめました』(集英社クリエイティブ)など多数。

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