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常識を疑え!

薬物乱用がなぜ若年層に広がっているのか?

香山リカ(医師)

 北海道の旭川市で、校内で大麻を所持していた中学生が検挙された。少女は、携帯電話の出会い系サイトで知り合った男性から、大麻を8000円で購入したと話しているという。購入の理由は、「悩みがあって忘れたいと思ったから」。最初から大麻などの違法な薬物を探していたわけではないようだ。

 これは想像の域を出ないのだが、出会い系のサイトで知り合った相手に悩んでいることを打ち明けたら、「悩みを忘れられるものがある」とでも勧められたのかもしれない。少女は吸引方法なども知らなかったというから、もしかすると大麻だということも知らされていなかった可能性もある。

 この事件に限らず、大麻や覚せい剤などの違法薬物の広まりは、とくに若年層で深刻なのだという。薬物依存の問題に詳しい精神科医は、「最近はシンナー中毒の中高生は減ったが、かわりに非合法麻薬や大麻が増えた。ネットを介して気軽に購入できるようになったのが大きい」と話していた。

 診察室にやって来た違法な薬物依存の若者が、「シンナーは昔の不良のイメージでカッコ悪いけれど、ネットで“気分がハイになるサプリメント”とあったので、心療内科とかでもらう軽い安定剤のつもりで買ってみた」と語っていたこともあった。その人の場合はまわりの友人にも「こんなサプリを使ってる」と話していたのだが、みな「へー、私も抗うつ薬もらってるよ」「ハーブみたいなもの?」と軽く聞き流し、ひとりも止める人はいなかったのだという。

 このように一部の子どもや若者のあいだでは、サプリメントやクスリ、食品を賢く生活に取り入れる健康ブームと、違法薬物摂取との境目がなくなっている。「健康」と「麻薬の使用や依存」は本来、正反対のものであるはずなのだが、それはあくまで知識や分別のあるおとなの認識でしかないのかもしれない。

 それにしても彼らはなぜ、運動や生活習慣の改善で健康を手に入れようとしたり、友人と話す、本を読む、といったことで悩みを解決しようとしたりせずに、すぐにサプリメントなどに頼ろうとしてしまうのだろうか。

 その原因のひとつには、やはり社会全体のスピード化などが関係しているだろう。診察室でもときどき、「私のうつ病は何月何日までに治るか、見込みをはっきりさせてください」と言われることがある。「一般的なことは言えますが、あくまでケースバイケース」と答えても、なかなか納得してもらえない。勤務先から、「確実に何日までに復職できると書面にして提出して」と要求されることもあるようだ。「時間をかけてじっくり治す」「少しずつ前に進みながら様子を見る」というのに、自分もまわりも耐えられなくなっているのだ。

 とくに子どもや若者は、受験にしても就職活動、さらには婚活にまでも、ますます厳格な期限を突きつけられ、高い完成度を要求されがちになっている。その中で「どこかに魔法のクスリがないか」とつい考えてしまっても、不思議ではない。

 一連の事件などを受けて、全国の学校で「大麻や覚せい剤の恐ろしさ」を啓発する講演会などが行われているという。それも大切だが、「悩んでもあせらないで」「時間をかけていいんだよ」といったメッセージを伝えることも必要なのではないだろうか。これはもちろん、おとなでも同じこと。「すべてをすぐに解決したり、たちどころにして健康になったりする魔法」は存在しないのである。

著者情報

医師

香山リカ

かやま りか

1960年北海道生まれ。東京医科大学卒業。学生時代より雑誌等に寄稿。その後、精神科医として臨床に携わりながら、一般読者向けの著作活動を行う。著書に『女は男のどこを見抜くべきか』(集英社)、『執着 生きづらさの正体』(集英社クリエイティブ)、『「いじめ」や「差別」をなくすためにできること』(ちくまプリマー新書)、『61歳で大学教授やめて、北海道で「へき地のお医者さん」はじめました』(集英社クリエイティブ)など多数。

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