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常識を疑え!

なぜ若者たちの居場所が必要なのか?

香山リカ(医師)

 夏休みが始まり、街に高校生や大学生など若者の姿がどっと増えた感がある。映画を見ようか、それともショッピングか、と友だちと真剣に相談しながら歩く姿は、おとなから見るとなんだかほほえましい。しかしその一方、夏は診察室にはまったく逆の悩みを抱えた若者が大勢やって来る季節でもある。彼らはこう訴える。

「今年も夏休みに何もすることがない。行く場所もない」「会ってくれる友だちもいない。私にはどこにも居場所がないんです」

 夏をエンジョイする若者が増える時期だからこそ、よけいに自分の孤独がきわだつのであろう。「もう生きているのがイヤになった」と口にする10代、20代も少なくない。

 そんな孤独感、絶望感を救うのは、「居場所と仲間を見つけることしかない」と経験者たちは語る。この7月にも、引きこもりやうつ病から自殺未遂を経験し、それを乗り越えた若者たちが東京でイベントを行い、インターネット中継した。その名も、「ストップ!自殺~どん底からの出発」。私は、若者たちによる経験談の語りや音楽を使ったパフォーマンスにコメントするという立場で参加したのだが、シリアスな内容なのに経験者の話や司会者の質問にはユーモアがあふれ、会場には笑いが絶えなかった。

 こういったイベントをたびたび主催する月乃光司(つきのこうじ)氏は、自らも醜形恐怖症や引きこもり、アルコール依存症により精神科の病院に入退院した経験を持つ。月乃氏は現在、会社勤めをしながら、週末はメンタル系の問題を抱えた若者たちとともに、「こわれ者の祭典」というグループを作って活動している。この月乃氏による自作詩の“絶叫朗読”が、また圧倒的な迫力なのだ。

「僕の過去はみんな必要なものだった/アルコール依存症になってよかった!/引きこもりになってよかった!/生きづらくてよかった!/(中略)人生なんでも、人生なんでもあり!」(「人生なんでもあり」より)

 彼らはみな、「自分も絶望していた。でも、もう死にたいと思ってもなんとか踏みとどまれば、いつかは必ず出会いがあり、居場所を見つけることができる。それまでがんばってほしい」と訴えていた。実際に出かける場や集まれる仲間がいない人は、まずはネットの中で居場所を見つけてもいい、と語る人もいた。とはいえ、ネットだけではだめで、次はネットで知り合った人たちと実際に会って話したり何かを始めたりしなければ問題は解決しない、という声もあった。

 しかし、心やさしく繊細な若者たちにとって、実際に居場所として機能するような場所がいまの社会にはあるだろうか。もちろん、お金を払えばホテルやレストランで時間をすごすことはできるが、そこはいつも自分を待っていてくれるわけではない。かつては「本屋の店主が店の2階を開放していて、若者がそこにたむろして読書したり議論したり」といったスペースも地域にあったが、いまはそんな場所もない。

 とりあえず、このイベントに出た人、会場まで来た人たちは、まだ希望を見いだせたかもしれない。しかし、日本中に同じように絶望している若者がまだ大勢いるはずだ。みんながみんな、インターネット中継を見ていたわけではない。そういった若者たちに、「早まらないで、もう少し待って。必ず何かがあるから」と、いったい誰がどうやって伝えればよいのだろうか。また、彼らに“居場所候補”を提供することができる人はどこにいるのか。

 若者の雇用を確保することも大切だが、その前にまず居場所を求めている人たちが大勢いる。そのことも忘れてはならないだろう。

著者情報

医師

香山リカ

かやま りか

1960年北海道生まれ。東京医科大学卒業。学生時代より雑誌等に寄稿。その後、精神科医として臨床に携わりながら、一般読者向けの著作活動を行う。著書に『女は男のどこを見抜くべきか』(集英社)、『執着 生きづらさの正体』(集英社クリエイティブ)、『「いじめ」や「差別」をなくすためにできること』(ちくまプリマー新書)、『61歳で大学教授やめて、北海道で「へき地のお医者さん」はじめました』(集英社クリエイティブ)など多数。

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