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常識を疑え!

“日本バッシング”がなぜ続いているのか?

香山リカ(医師)

『ザ・トヨタウェイ』の著者、ジェフリー・ライカー氏は「週刊ダイヤモンド」(2010年3月20日号)のインタビューにこたえて、「現在のトヨタは、ガキ大将に殴られまくっている状況だ」と語っていたが、どうやら殴られているのはトヨタだけではないようだ。

 大西洋のクロマグロ取引禁止はすんでのところで免れたが、イルカ漁をテーマにしたドキュメンタリー映画がアカデミー賞を受賞したり、調査捕鯨が過激な妨害行為を受けたり、あちらこちらで“日本式”がなんだか国際的に分が悪い状況となっているのだ。これらを総じて、「世界が日本バッシング?」といった論調で取り上げている海外メディアもあった。

 とくに食の問題に関しては、従来なら「これは日本文化の問題だ。放っておいてくれ」と言えばすんだであろう。しかし、環境問題や生物保護の問題は、一国の都合だけではなく地球規模で考えなければならない、という機運が高まっている。守るべき独自の文化、伝統と、地球規模の視点で考えて受け入れるべき変化、そのバランスが問われているということなのだろう。

 こういった“日本バッシング”とも言える状況になったとき、もっとも避けたいのは心理的ダメージから感情的な反応をすることだ。たとえば、「イルカを食べる? 日本人ってなんて野蛮なんだ」と言われると、イルカを食す習慣がない人まで自分を否定されたような気になって、事態を冷静にとらえられなくなる。そして、冷静に「イルカは現在、これくらいの頭数がいて、それに対して捕獲量はこれくらいで」といった客観的な説明を忘れて、「日本の文化に口を出すな!」といった“文化論争”になってしまう。そうなると、議論は泥沼化し、国際間の対立はますます深まるだろう。

 トヨタの問題にしても同じで、どこに問題がありどう改善すべきかといった議論から離れて、「誰かに悪意があったのでは」「誰がなんと言おうともこれまでのトヨタを変えてはいけない」といった陰謀論、感情論に陥るのは危険だ。

 もちろん、国際舞台で日本が批判されても平気という人は少ないし、ましてやそこで自尊心が傷つけられるような言い方をされると、誰もが動揺してしまう。とくに私たちには「日本は長い歴史を持つ国、驚異の成長を遂げた国」という独特の自尊心と、同時に「でも英語もできないし体格も小さいし」という根深い欧米コンプレックスとがあるので、批判に対してとてもぜい弱なのだ。

 とは言え、いつまでも「国際舞台で批判されることに弱くて…」とムキになったり落ち込んだりしていては、このグローバル化した世界には適応していけない。たとえば日本のマグロ輸入が批判の対象になったとしても、それは何も日本人のすべてが国際的に嫌われているというサインではないし、ましてや自分が否定されているわけではないのだ。ものごとをあまり大きくとらえすぎたり、自分と結びつけたりしすぎないほうがよい。また、“日本びいき”の外国人学者や識者の言うことばかりに耳を傾けすぎず、国際世論を正確に知る冷静さも必要だろう。

 冒頭で紹介した『ザ・トヨタウェイ』のライカー氏はインタビューの中で、今は「そのまま殴らせて我慢しなければならない。反撃するとさらに悪化する」とも述べている。これはトヨタだけではなくて、一般の人たちに対しても、ある程度有効なメッセージだろう。つまり“オラが○○を悪者にするなんて!”と奮い立つのはよいのだが、いつのまにかトヨタやマグロ輸入がバッシングされているのか、自分自身が批判されているのかわからなくなって、「絶対、変えるべきじゃない!」などと頑なになりすぎるのは、孤立への道につながりかねないということだ。感情が突っ走らないようにするのはむずかしいが、ここは知恵の見せどころと考えたい。

著者情報

医師

香山リカ

かやま りか

1960年北海道生まれ。東京医科大学卒業。学生時代より雑誌等に寄稿。その後、精神科医として臨床に携わりながら、一般読者向けの著作活動を行う。著書に『女は男のどこを見抜くべきか』(集英社)、『執着 生きづらさの正体』(集英社クリエイティブ)、『「いじめ」や「差別」をなくすためにできること』(ちくまプリマー新書)、『61歳で大学教授やめて、北海道で「へき地のお医者さん」はじめました』(集英社クリエイティブ)など多数。

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