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常識を疑え!

「連続不審死事件」はなぜ続くのか?

香山リカ(医師)

 それぞれ別の30代の女性が関係しているのでは、とされる連続男性不審死事件が続いている。いずれも、キーワードは「出会い、結婚」と「お金」。女性を恋愛や結婚の対象として見てしまった男性は、要求されるがままにお金をわたし、そして何らかの事件に巻き込まれることになって命を落としたのかもしれない。

 民主党政権にかわり、総理大臣が「人間のための経済」と演説で語り、弱者にもやさしい社会を、と呼びかければ呼びかけるほど、問題になるのは皮肉なことに「では、その財源は?」といった“お金の問題”。

 また、心許せるパートナーがほしい、と思って“婚活”を始めたはずの女性たちも、ここに来て「やっぱり大切なのは財力」と相手の年収や資産にこだわるようになって来ているらしい。女性の社会進出に勢いがあったころは、年下男性や収入が自分より低い男性と結婚することが“格差婚”などと呼ばれてブームになりかけたこともあった。しかし、雇用が厳しくなっている今では、女性もそんな余裕のある選択ができなくなっているようだ。

 もちろん、お金がなければ生活できないことは確かだし、ないよりはあったほうがいい、と思っている人も多いだろう。とはいえ、お金より大切なものはいくらでもあるし、お金のために何をしてもいいわけではない。そんなことは学校で習うまでもない、あたりまえのことであったはずなのに、最近は小学校でお金の仕組みや重要性を教える金融教育に力点が置かれているせいか、本気で「お金がいちばん」と思う子どもが増えている気がする。

 話題になっている不審死との関連が疑われている女性ふたりは、いずれも30代半ば、バブル後に社会人になった就職氷河期世代だ。「お金なんかなくてもどうにかなるさ」と社会やコミュニティーを素朴に信頼していた世代とも、「ちょっとがんばればお金なんかすぐ手に入る」と楽観視していたバブル世代とも違う彼女たちは、「いくらお金があってもいつなくなるかわからない」という不安を感じ、世の中にも人間にも常に不信感を抱いていたのだろうか。そしてここ数年、広がる格差や「負け組」へ転落する恐怖が、彼女たちの中にある「お金がいちばん」という価値観をさらに強化し、ついには犯罪の領域にまで足を踏み入れることになったのかもしれない。

 このところの出版不況で雑誌も軒並み部数を落としているが、「金運アップ」「お金の稼ぎ方」といった特集を組む雑誌はそれなりに好調だと聞いた。昨年のリーマン・ショック以来、「やっぱりお金にばかり執着するのは間違いだった」と考えを改める人たちが出てくる一方で、「こんな時だからこそ頼れるのはお金だけ」と思う人もまた、増えてきているのだ。

 お金は、ある程度あればそれでいい。犯罪はもちろん、少しでもやましい方法を使ってお金を手にするのは、まったくもって間違ったこと。いま子どもたちに必要なのは、金融教育ではなくて、お金の恐ろしさやお金以上に大切なことを教える“脱お金教育”のようにも思うのだが、そんなことは時代遅れの戯言(ざれごと)にしかすぎないのだろうか。

 また男性たちも、とにかくモテたい、とにかく結婚したい、とあせりすぎると、詐欺にあったり犯罪に巻き込まれたりする危険性がぐっと高くなる、と自覚する必要がある。

 お金はないし、モテもしない。でも、悪いことをするわけでも、被害にあったりするわけでもない。こういう地味だが致命的な問題もない生活の価値が見直される日が再び来ない限り、この手の事件はこれからも続くのではないか。「こういう時代だからこそやっぱりお金」ではなくて、「こういう時代だからこそ、お金じゃない何か」なのだということを、改めて確認しておく必要がある。

著者情報

医師

香山リカ

かやま りか

1960年北海道生まれ。東京医科大学卒業。学生時代より雑誌等に寄稿。その後、精神科医として臨床に携わりながら、一般読者向けの著作活動を行う。著書に『女は男のどこを見抜くべきか』(集英社)、『執着 生きづらさの正体』(集英社クリエイティブ)、『「いじめ」や「差別」をなくすためにできること』(ちくまプリマー新書)、『61歳で大学教授やめて、北海道で「へき地のお医者さん」はじめました』(集英社クリエイティブ)など多数。

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