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常識を疑え!

「アルコール+薬物」はなぜ寿命を縮めるのか

香山リカ(医師)

 鳩山新政権誕生で明るい光がさしかけていた日本に衝撃を与えた、中川昭一元財務相の急死。状況から事件性はないと判断され、遺書などもなかったことから、現在のところ病死と考えられている。ただ、遺体からはアルコールが検出され、最近は睡眠導入剤や精神安定剤を服用していたこともわかっている。

 アルコール、睡眠薬、急死といえば、昨年、亡くなった飯島愛さんを思い出す人もいるだろう。彼女の場合、肺炎が引き金になった病死といわれているが、死に至るくわしい経緯については特定されていない。あるいは、麻酔薬の投与が原因といわれているマイケル・ジャクソンさんの急死を連想する人もいるかもしれない。

 みな、30代から50代と若く、基礎的な体力は十分あったはず。直前まで元気だったのに、薬、アルコール、ちょっとした体調不良でこんなに簡単に死に至るものなのか、と疑問に思う人もいるだろう。また、睡眠導入剤や抗うつ薬を服用している人は、「やっぱり薬は危険なのか」と不安を覚えるかもしれない。

 まず薬に関して言えば、医師から処方される睡眠薬や安定剤は投与量を守って服用する限りは、まず心配はない。薬で意識もうろうとなった、という人のほとんどは、服用量を守らずに多く飲んだり、一日3回というところを5回、6回と飲んだりしている。まれに体質的に“薬があわない”ということもあるが、初めてのときはたいてい、まず最低量を投与されているはずなので、その時点でわかるはずだ。

 ただ、薬とアルコールを同時摂取するのは、非常に危険だ。相乗作用ですぐに意識がもうろうとなったり、呼吸が抑制されたりする。また、リストカットなど自傷行為の常習者も危険だ。ある若い女性は、それほど多量ではないアルコールと規定量の2倍程度の睡眠導入剤を服用して眠り、そのまま死亡してしまった。解剖の結果、リストカットを繰り返していた彼女は貧血状態にあり、少ない血液を体中にまわすために心臓のポンプ作用が増強され、結果的に心肥大が起きていたことが明らかになった。つまり、心臓に負担がかかっている状態でアルコールと薬が摂取され、心停止が起きてしまったのだ。

 じゃ、アルコール好きは薬を飲まないのが安全だな、と思うかもしれないが、それがまたそうはいかない。アルコール好きが高じて依存症になっている人たちは、高い確率でうつ病を合併している。うつを忘れようとしてついアルコールに手を出すのか、アルコール依存の結果、うつになるのか、そのあたりについては意見が分かれているのだが、とにかくこのふたつの疾患の合併率は非常に高いのだ。

 だから結果的に、「抗うつ薬や睡眠薬を飲んでいるアルコール依存症者」も多くなることになる。彼らの中には、医師や薬剤師の注意を無視して「酒で薬を飲む」といった人も当然、出てくる。そうなると身体的にもとても危険なので、私もいつも外来で悩んでしまう。「アルコール依存のこの人に薬は出したくないけれど、そうなるとうつ症状が強くなってさらにアルコールへの依存度が高まるし……でも薬を出すとお酒と併用する危険があるし……」と、パソコン画面上で処方を打ち込んだりまた消したりすることもしばしばだ。

 もちろん、中川氏がお酒と薬を同時に飲んだかどうかは、わからない。ただ、落選のショックからストレスがたまり、心臓にも負担がかかってその機能が弱まっているところに「アルコール+薬」が摂取されたのだとしたら、それはいくら50代のまだ若い肉体であっても悲鳴を上げてしまうだろう。アルコールにうつや不安症状が加わり、薬を飲まなくてはいけなくなったら、思いきってスパッとお酒はやめる。基本的なことだが、これがいちばん大切なのだ。

著者情報

医師

香山リカ

かやま りか

1960年北海道生まれ。東京医科大学卒業。学生時代より雑誌等に寄稿。その後、精神科医として臨床に携わりながら、一般読者向けの著作活動を行う。著書に『女は男のどこを見抜くべきか』(集英社)、『執着 生きづらさの正体』(集英社クリエイティブ)、『「いじめ」や「差別」をなくすためにできること』(ちくまプリマー新書)、『61歳で大学教授やめて、北海道で「へき地のお医者さん」はじめました』(集英社クリエイティブ)など多数。

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