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常識を疑え!

“コンビニ受診”はなぜ増えた?

香山リカ(医師)

 大流行が予測される新型インフルエンザ。死亡例も相次いで報告され、世間の緊張はいっそう高まっている。

 ただ医療関係者がもっとも懸念しているのは、患者の激増や重症化そのものではない。新型インフルエンザにかかった人の中でも、自宅療法で十分、治療が可能な軽症者までが病院に押し寄せ、医療機関がマヒすることだ。

 最近このように、あわてて受診する必要がない軽い症状の人たちが救急外来や夜間外来にすぐにやって来る、いわゆる“コンビニ受診”が深刻な問題になっている。その人たちに手をとられ、本当にケアが必要な重症者が後回しになるケースがあるからだ。

 では、この“コンビニ受診”はなぜ起きるのだろう。もちろん、小さな子どもが発熱したり腹痛を訴えたりしたら、心配のあまり夜間でも休日でもすぐに診てほしい、と思うのは当然の親心。診察の結果、ただの軽い風邪や食べすぎというケースも少なくないだろうが、そういう親たちを指して“コンビニ受診”と言うことはできないだろう。

 いまの医療機関で問題になっている“コンビニ受診”とは、本人の軽い症状を家族などが過剰に心配して受診させるといったケースではなくて、明らかに「たいしたことなさそう」と知りながら「ちょっと診てもらっておくか」とあまりに気軽に受診したり、「昼間は混んでいるから」とあえて夜間にやって来たりするケースを指す。あえて言うなら、“ワガママ受診”のことだ。

 では、なぜこんな自分勝手な人たちが増えたのか。ひとつには、病院に限らず、サービスを受ける側の意識があまりにも高くなりすぎた、という問題が関係しているだろう。たとえばホテルやレストランでも、お客たちが相手に要求するサービスのレベルはどんどん高くなりつつある。そして、相手が少しでも自分の要求を満たさない場合はそれをはっきり告げ、抗議し、中にはクレーマーと化して執拗(しつよう)な攻撃を加える人さえ出てきた。

 もちろん、サービスする側はプロなのだから、常に水準を向上させ、お客のニーズにこたえる義務があるのだが、時にはそれに追いつかないこともある。また、病院のようにいくら「こちらは患者なんだから、ちゃんと診てちょうだい」と要求されても、人手不足などで軽い症状の人にまで対処しきれないこともある。そのあたりはちょっと想像すればわかるはずなのだが、その“ちょっとした想像”ができない人もまた増えているのだ。

 なぜ想像力が劣化しているのか。これは社会的にもあまりに大きな問題で、原因をひとつに絞るのはむずかしい。たとえば、テレビのバラエティーなどで登場人物の下に「ひそかに動揺する○○」などとテロップをつけ、その心の内までを解説する見せ方が一般的になっていることも関係しているかもしれない。それがあれば視聴者は、「この人、いまどういう心境なのだろう」と想像しなくてもよくなる。そのうちに現実でも、「テロップに出ていないことは考えなくてもよいこと」とばかりに、相手の立場に立って気持ちを考える習慣を失ってしまうのではないだろうか。

 どんなに苦しくても救急外来を受診するな、などと言うつもりはない。ただ、「これって昼間の外来受診でも大丈夫かな」「この程度で救急外来に行ったら、もっと悪い人はどうなるかな」とちょっとした想像をしてから、「よし、やっぱり今日のうちに受診しておこう」と判断しても決して遅くはないはずだ。

 行こうかどうか、と考える前に病院に出向き、「早く診てよ!」と声高に要求する“コンビニ受診”。ワクチンもないこの“新型の病”に効くのは、「想像力の回復」だけのようだ。

著者情報

医師

香山リカ

かやま りか

1960年北海道生まれ。東京医科大学卒業。学生時代より雑誌等に寄稿。その後、精神科医として臨床に携わりながら、一般読者向けの著作活動を行う。著書に『女は男のどこを見抜くべきか』(集英社)、『執着 生きづらさの正体』(集英社クリエイティブ)、『「いじめ」や「差別」をなくすためにできること』(ちくまプリマー新書)、『61歳で大学教授やめて、北海道で「へき地のお医者さん」はじめました』(集英社クリエイティブ)など多数。

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