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常識を疑え!

マイケル・ジャクソン報道はなぜ過剰だったか?

香山リカ(医師)

 6月25日に自宅で急逝した“キング・オブ・ポップ”ことマイケル・ジャクソンさん。50歳という若さに加えてこの夏、久々のコンサートが予定されていたこともあって、世界のメディアが大きく取り上げた。

 とくに、オバマ大統領までが「マイケルを聞いて大きくなった」「全曲iPodに入れてある」と語るアメリカでは、その報道は異常と言えるほどの過熱ぶりであった。アメリカの世論調査機関、ピュー・リサーチ・センターによると、亡くなってから1週間のニュース番組では、“マイケル関連報道”はイラン大統領選問題の19%に迫る18%を占めたとか。とくに、亡くなった当日はニュースの65%がこの偉大なポップスターの話題だったという。

 よく、日本のニュースや情報番組は何か問題があるとそれ一色になりすぎる、と言われる。たしかにこの春、SMAPのメンバーが問題を起こして逮捕されたときにも、週刊誌やワイドショーばかりでなく一般のニュースまでが、謝罪の記者会見までを長々と伝えていた。大した事件でもなかったのに、家族や関係者のコメントを取ったり過去の人間関係にまでさかのぼったりして問題を分析し、マスコミも視聴者も精神分析家になった感さえあった。

 ところが、今回のマイケル・ジャクソンさんの件を見ると、雪崩が起きたような“それ一色”の過熱報道というのは、何も日本だけの専売特許ではないようだ。アメリカの世論調査では64%が「報道は過熱」と答え、「スキャンダルや生活の問題に焦点を当てすぎ」という答えも26%あったというから、その人の人間的な問題、とくにプラスではなくてマイナスの部分に着目して伝える報じ方も日本とそう変わりはないのだろう。

 それにしても、なぜこのような過剰報道が起きるのか。それだけその問題が重要だから、その人が偉大だから、といった理由では、この報道の雪崩現象は説明できない。ほかにも重要と思われる問題はいくらでもあるのに、新聞の小さな記事だけでテレビはまったく取り上げない、ということもあるからだ。

 はっきりしているのは、この雪崩現象が起きるときのいくつかの条件だ。まず、それは社会や政治の問題ではなく、特定の人間や人間が関係した事件であること、それからその人間が何らかのマイナスの面、ダークな面を持っていて心の推理や深読みが可能なこと、そしてその人間と自分とが何らかの接点や関連性を持っていること。

 マイケル・ジャクソンさんの場合で考えてみると、これはまさにひとりの人間の事件であり、これまで報じられたさまざまなスキャンダルや私生活の問題からいわゆる“お茶の間推理”も可能であり、さらにまさにオバマ大統領が言ったように誰もが「私も高校のときによく聞いた」など自分の思い出との関連の中で、マイケルを語ることができる。雪崩現象が起きる条件は、完璧なまでにそろっているというわけだ。もっと言えば、誰もが驚き、同情しつつ、「でも本人にも問題はあったよね」などとちょっと邪推してみたい。そんな欲求を満たしてくれる人が何か問題を起こしたときに、一気に過剰報道が始まるのだ。

 亡くなってもなお、人々の心の欲求を満たし続けるマイケル・ジャクソンさんは、その意味でまさに“キング・オブ・ポップ”。とはいえ、本人はそんな人生を本当に望んでいただろうか、とちょっと気になる。いやいや、こうやってその胸のうちを想像してみる、というのも、そもそも過剰な関心の表れだ。その音楽やダンスをいま一度、見直し、「すごいエンターテイナーだったねえ」と改めて評価すればそれ以上は必要ない、と思うのだがどうだろう。人間の「もっと知りたい、見たい」という欲求は、そんなことでは満たされないかもしれない。逆に言えば、その飽くなき欲求がある限り、それが向けられる対象となるポップスターやその動きを伝える情報番組などは必要ということだ。

著者情報

医師

香山リカ

かやま りか

1960年北海道生まれ。東京医科大学卒業。学生時代より雑誌等に寄稿。その後、精神科医として臨床に携わりながら、一般読者向けの著作活動を行う。著書に『女は男のどこを見抜くべきか』(集英社)、『執着 生きづらさの正体』(集英社クリエイティブ)、『「いじめ」や「差別」をなくすためにできること』(ちくまプリマー新書)、『61歳で大学教授やめて、北海道で「へき地のお医者さん」はじめました』(集英社クリエイティブ)など多数。

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