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なぜ肉は赤いのか?

内田麻理香(サイエンスライター/サイエンスコミュニケーター)

 新鮮な肉は鮮やかな赤色ですが、腐ると赤黒くなってきます。「血が変色したんじゃないの?」と思われる方も多いかもしれません。しかし、原因は「血」ではありません。今回は「肉の赤身」について科学してみましょう。

 肉には「赤い色素」が含まれており、これをミオグロビンと呼びます。ミオグロビンは「酸素を蓄える」という重要な役割を担っている物質で、人間の筋肉にも含まれています。その筋肉には、「遅筋」と「速筋」があります。「遅筋」は持久力のための筋肉で、「速筋」は瞬発力のための筋肉です。持久力がいる運動の方が酸素を多く必要としているため、「遅筋」の方がミオグロビンを多く含んでいます。ですから、遅筋を鍛えるトレーニングをした人の方が「赤身の肉」を持っています。これは他の生物にも当てはまります。

 魚には赤身のものと白身のものがありますが、これもミオグロビンが原因です。ヒラメなどの白身魚は激しい運動をしない魚なので、筋肉中にミオグロビンをあまり含みません。ですから、赤い色素が少ないために「白身」になります。しかし、マグロやカツオなどの回遊魚は昼夜を問わず泳ぎ続けています。そのためにも多くのミオグロビンが筋肉に含まれているので「赤身」というわけです。クジラも長時間、水中に潜っているために酸素を蓄える必要があります。ですから、ほ乳類の中でもミオグロビンの量はダントツに多くなっています。しかし、ニワトリは飛ぶための筋肉を必要としないので、鳥類の中ではミオグロビン量は少ないのです。これが鶏肉の色が薄いピンク色である理由です。

 では、ここからミオグロビンをさらに探っていきましょう。ミオグロビンはポルフィリンと呼ばれる「輪っか状」の化合物の真ん中に、鉄が入り込む構造になっています。貧血予防に赤身の魚が良いという理由もポルフィリンに鉄が入り込んでいるからです。買ってきたばかりのスライス肉が赤黒くくすんでいたという経験はありますよね? あれは腐っているわけではなく、肉が重なっていたために空気に触れずにミオグロビンの中の鉄が酸素と結合しなかったためです。ですから、空気に触れると酸化して鮮やかな赤になります。しかし、水に触れるとミオグロビンに含まれる鉄までが酸化して茶褐色に変化します。これはもう元通りにはなりません。

 ところで、ヘモグロビンという色素は聞いたことありますよね? ヘモグロビンもミオグロビン同様に、「輪っか状」の化合物ポルフィリンの真ん中に鉄が入っています。ミオグロビンは筋肉の中、ヘモグロビンは血液の中と住む場所は異なりますが、両者とも酸素の受け渡しをするだけでなく、化学構造もよく似ている「兄弟」と言えます。

 実は他にも「家族」がいます。ポルフィリンの金属部分が銅である場合は、ヘモシアニンというエビやイカの血液に含まれる物質になり、青色になります。また、ポルフィリンの金属部分がバナジウムであるホヤの血液は緑色になります。この金属部分がマグネシウムに変わると植物の葉っぱに含まれているクロロフィルという分子になり、色素は緑色になります。これが葉の色が緑である理由です。そして、金属部分がコバルトになるとビタミンB12になり、赤色になります。これが「赤いビタミン」と呼ばれるゆえんです。

 このようにポルフィリンの中の金属が異なるだけで様々な色素が生まれます。ですから、「肉の赤身」もミオグロビンが原因であって、血の色が原因ではないのです。「肉の赤身」を科学的に理解すると、今後は様々なお肉を見るたびに「これはミオグロビンが多いな…」と色が気になってしまいそうですよね。

著者情報

サイエンスライター/サイエンスコミュニケーター

内田麻理香

うちだ まりか

1974年千葉県生まれ。東京大学工学部、同大学院修士課程修了。科学の視点で生活を分析するサイト「カソウケン(家庭科学総合研究 所)」主宰。東京大学工学部広報室特任研究員を経て、現在、テレビ、ラジオ、新聞を通して「生活の中の科学」を分かりやすく紹介するサイエンスコミュニケーションにたずさわっている。主な著書に『科学との正しい付き合い方』(2010年、ディスカヴァー・トゥエンティワン)など。

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