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なぜスパイスは辛いのか?

内田麻理香(サイエンスライター/サイエンスコミュニケーター)

 異国情緒あふれる料理のポイントとは、何でしょうか? 食材の違いもありますが、やはり「風味」ではないでしょうか。今回は、その風味に大きな役割を果たすスパイス。その中でも、世界中で最も普及しているトウガラシショウガを科学してみます。

(1)トウガラシの辛み
 トウガラシは、世界でもっとも広く栽培されているスパイスで、全世界での生産量と消費量は、黒コショウのなんと20倍です。もともとは南米原産の低木植物になる小さな果実です。その果実の中にカプサイシンという非常に辛味の強い化合物が含まれています。では、その果実の中をちょっとのぞいてみましょう。

 トウガラシの果実の中には、種子と種子をとりまくスポンジ状の組織があります。このスポンジ状の組織を「胎座」と呼びます。カプサイシンはこの胎座表面にある細胞だけで合成されており、胎座表面の直下に油滴として蓄えられています。そして、刺激によって組織が壊れると胎座からカプサイシンが放出され、種子表面にも広がります。ですから、辛味成分カプサイシンはトウガラシの種からではなく、胎座から出ているのです。

 辛い物好きな人にとっては快感の刺激となるカプサイシン。でも、辛い物が苦手な人や、辛い物好きでもいくらなんでも辛すぎる、というときはどうしたらいいでしょう? カプサイシンへの対処方法は二つあります。

 まず、何か冷たいものを口に含む方法が挙げられます。冷たいものは、辛味の成分を感じる受容体の温度を、受容体が最も活性化する温度よりも低くし、それが辛さを感じる感覚を和らげます。また、お米、クラッカー、砂糖など硬いものを口に入れ、一時的に辛さを和らげる方法もあります。硬いものは、辛味とは違う種類の信号を送って、神経を紛らわせてくれる効果があります。このような対処方法の後、15分くらい待てば、カプサイシンによる痛みは収まるので、じっと我慢しましょう。

 では、料理中にトウガラシの辛味成分が手などについてしまったときはどうでしょうか? 特に、目の付近では大変なことになります! カプサイシンは油性なので、水で洗っても落ちません。ですから、石けんを使ってきちんと手を洗って落とすことが重要です。

 そもそも、このトウガラシの辛味成分カプサイシンは、本来はほ乳類に食べられないための防御手段だったようです。しかし、トウガラシの意図とは逆に、人間がトウガラシの武器であるカプサイシンを愛してしまい、世界中にトウガラシを広めてしまったというのは面白い話ですよね。

 現在では、中南米、インド、東南アジアの広い範囲でトウガラシ料理が普及しています。中国の四川料理でもトウガラシは欠かせませんし、メキシコは特にトウガラシ文化が発達している国で、サルサソースは有名ですよね。アメリカでも、サルサソースがケチャップをしのぐ勢いで定着しつつあるのは、人間がトウガラシに魅了されている証拠と言えそうです。

(2)ショウガの辛み
 ショウガも世界中で愛されているスパイスです。日本では豆腐やしょうゆに合わせたり、風邪をひいたときに生姜湯を飲んだりします。海外でもインドの紅茶チャイや欧米のジンジャーブレッドなど、世界中で幅広く利用されています。

 ショウガは植物の分類でいうと、単子葉植物というグループに属し、バナナと遠い親類にあたる熱帯性植物の地下茎です。さわやかな香りと辛味が特徴のショウガは、トウガラシのカプサイシンやコショウのピペリンと辛味成分の化学的構造が似ている仲間です。

 しかし、ショウガは辛味成分が変化してしまう不思議なスパイスで、生のときはジンゲロールと呼ばれますが、乾燥させるとその2倍の辛さを持つショウガオールに変化します。ショウガを乾燥させると、脱水反応によってヒドロキシ基という水溶性物質を失ってしまいます。それにより、辛味成分ジンゲロールは、より刺激の強い辛味成分であるショウガオールに変化するのです。ちなみに、これは漢方薬でもしっかり生姜(しょうきょう)乾姜(かんきょう)というように区別されています。このように乾燥させるだけで辛味成分が変化してしまうのは面白いですよね。

 スパイスの辛味成分を科学してみると、今までと違ったバラエティー豊かな味や風味が見えてきませんか?

著者情報

サイエンスライター/サイエンスコミュニケーター

内田麻理香

うちだ まりか

1974年千葉県生まれ。東京大学工学部、同大学院修士課程修了。科学の視点で生活を分析するサイト「カソウケン(家庭科学総合研究 所)」主宰。東京大学工学部広報室特任研究員を経て、現在、テレビ、ラジオ、新聞を通して「生活の中の科学」を分かりやすく紹介するサイエンスコミュニケーションにたずさわっている。主な著書に『科学との正しい付き合い方』(2010年、ディスカヴァー・トゥエンティワン)など。

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