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なぜムラサキキャベツは変色するのか?

内田麻理香(サイエンスライター/サイエンスコミュニケーター)

「理科の実験」という言葉はなんだかノスタルジック……。大人になったら縁がないと思われる方も多いでしょう。でも、特別な器具がなくても、台所で実験ができてしまうのです。用意する材料と実験は以下の通りです。

【材料】
ムラサキキャベツ8分の1個、水200cc、焼きそば用中華麺(めん)1袋、酢大さじ2、油少々。
【実験】
ムラサキキャベツを千切りにして、鍋の中に分量の水を入れ、5分くらい煮る。沸騰し、湯の色が赤紫色になったら、ザルで水切りしてムラサキキャベツ液を取り出す。

 このように見てわかるとおり、料理のレシピとそっくりですね。でも、れっきとした実験でもあります。では、理科の実験らしく、予想してみましょう。

 実験で得たムラサキキャベツ液は赤紫色です。そこに、黄色い中華麺を入れたら、麺は何色になると思いますか? ムラサキキャベツの赤紫色でしょうか? それとも、中華麺の色の黄色いままでしょうか?

 答えは「青緑色」です。予想外の色、しかもちょっと不気味な色に変わるのですからびっくりしますよね。
 さらに、この青緑色の麺に酢を加えると何色になると思いますか?

 こちらの答えは、なんと「ピンク」です。これまた予想外かと思います。実際にこの実験をしてみると、本当に「あっ」という間に色が変わるので、楽しい驚きがあるはずです。食欲をそそる色かどうかは保証できないのですが、青緑色、ピンク色の中華麺も実際に食べることができるので、お試しになってはいかがでしょうか。

 さて、ここでこの実験の種明かしをしましょう。
 ムラサキキャベツには、アントシアニンという色素が含まれています。アントシアニンは、酸性では赤色、アルカリ性では青色というように、溶液中のpH(ペーハー)を測る役割を持つ色素、つまりpH指示薬です。小学校高学年か、中学生のころにリトマス紙を使った理科の実験をしましたよね? あれと同じ仕組みです。また、pHは「弱酸性の洗顔料」など、日常的によく耳にしますよね。

 ここで話はムラサキキャベツに戻ります。なぜpH指示薬(この場合はアントシアニン)は色が変わるのでしょうか。前述のpHの法則によると、ムラサキキャベツ液に黄色い中華麺を入れて、麺の色が「青緑色」になったということは、液が「アルカリ性」になったということです。また、それに酢を加えて「ピンク」になったということは「酸性」になったということです。つまり、中華麺がアルカリ性で、酢が酸性ということですね。

 ムラサキキャベツのようにアントシアニンが含まれている食材は、ほかにもたくさんあります。ブルーベリー、紫いも、赤シソ、なす……など、それぞれ鮮やかな色をもっている食材です。これらも周囲のpHで色が変化します。

 例えば、梅干しに入れる赤シソが赤いのは、梅干しが酸性なので、赤シソ内のアントシアニン色素が赤くなるからです。また、赤シソジュースはピンク色をしていますが、あれは梅、レモン汁、クエン酸など酸性のものが入っているために、強い酸性を示しているためです。

 また、ホットケーキや蒸しケーキにブルーベリーを入れると、色がくすんでしまうことにお気づきでしょうか? これは、ケーキに入れたベーキングパウダーの中の成分である重曹がアルカリ性なので、アントシアニンの色素が緑色や灰色に変色してしまうからです。
 酸性、アルカリ性、pHと聞いてもあまり実感がもてません。でも、このように色素の力を借りると目に見えるため、わかりやすくなります。そして、この色素の「理科の実験」は、特別な実験用具を使わなくても、台所にある器具や材料で簡単に確かめることができるのです。気が向いたらキッチンに立ち、童心に戻って理科の実験をしてみてください。

著者情報

サイエンスライター/サイエンスコミュニケーター

内田麻理香

うちだ まりか

1974年千葉県生まれ。東京大学工学部、同大学院修士課程修了。科学の視点で生活を分析するサイト「カソウケン(家庭科学総合研究 所)」主宰。東京大学工学部広報室特任研究員を経て、現在、テレビ、ラジオ、新聞を通して「生活の中の科学」を分かりやすく紹介するサイエンスコミュニケーションにたずさわっている。主な著書に『科学との正しい付き合い方』(2010年、ディスカヴァー・トゥエンティワン)など。

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