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経済万華鏡

政策責任者たちの勇気と信念

浜矩子(同志社大学大学院ビジネス研究科教授)

 このところ、筆者は政策責任者の勇気と信念についてあれこれ考えています。この両者には、四つの組み合わせが成り立ちますね。下記の通りです。

(1) 勇気大+信念強
(2) 勇気大+信念弱
(3) 勇気小+信念強
(4) 勇気小+信念弱

 国々の政策責任者たちにこれらの組み合わせを当てはめてみると、どうなるでしょうか。

 まず、(1)の「勇気大+信念強」からいきましょう。この場合、信念については善き信念と悪しき信念を識別しておく必要があります。「信念の人」であればいいというものではありません。怪しげな信念やいかがわしき信念の人が政策責任者になってしまったのでは、たまったものではありません。

 では、「勇気大+善き信念強」の人はいずこに?

 筆頭に挙げるべきは、ドイツのアンゲラ・メルケル首相でしょう。2015年には、中東やアフリカ、南アジアなどから大量に流入した難民に対して、敢然と門戸を開きました。その後に一定の軌道修正を余儀なくされはしましたが、彼女が発信した人権最重視のメッセージは、世界に大きなインパクトを与えました。

 新型コロナ対応の諸々の規制を打ち出すに当たっては、妥協やあいまいさを排して厳しい行動制約を国民にお願いしました。政治家として勇気のいることです。それを誠意と真摯(しんし)さを持って訴えたことで、人々の高い評価を得たのでした。

 アメリカのジョー・バイデン大統領も、「勇気大+善き信念強」組に入れてよさそうです。彼は今、実に思い切った財政の大盤振る舞いに踏み出しています。その第一弾が1.9兆ドル(約200兆円)のコロナ対策です。これはもう議会承認を得ていて、動き出そうとしています。第二弾としてさらに2兆ドル強の雇用創出計画も予定されています。その財源として、企業増税が織り込まれています。大きな政府嫌いが根強いアメリカで、バイデン氏は公益のための大きな政府づくりを打ち出して憚らない。これもなかなか立派な勇気と信念の組み合わせだと言えるでしょう。

「勇気大+悪しき信念強」のダークなコーナーでひしめき合っているのが、ブラジルのジャイル・ボルソナーロ、フィリピンのロドリゴ・ドゥテルテ、ロシアのウラジーミル・プーチン各大統領、ハンガリーのオルーバン・ビクトル首相といったところでしょう。北朝鮮のキム・ジョンウン総書記と中国の習近平国家主席も入れておくべきですね。もっとも、これらの独裁者タイプの政策責任者たちについては、彼らがどこまで勇敢な人々であるかは、実をいえば解り難い面があります。絶対権力の鎧に守られた生身の彼らの魂は、存外にひ弱であるかもしれません。

 (2)の「勇気大+信念弱」のコーナーに陣取っているのが、フランスのエマニュエル・マクロン大統領とイギリスのボリス・ジョンソン首相だと思います。彼らは、いずれも勇猛果敢なパフォーマンス指向の人間です。舞台中央で大見得を切って、怯みなしです。しかしながら、何を考えているのか、どんな信念に基づいて見得を切っているのか、よく解らない。受け狙い先行タイプです。

 (3)の「勇気小+善き信念強」の人のチョイスは難しいですね。「理念は高いが小心者」タイプの人は、それだけ、責任ポストに着き難いということかもしれません。思い当たる方はお教え下さい。

 これに対して、(4)の「勇気小+悪しき信念強」で直ちに思いつくのが、ドナルド・トランプ前アメリカ大統領と、安倍晋三前首相、すなわち、チーム・アホノミクスの大将です。トランプ氏は「自分さえ良ければ」という信念の塊。チーム・アホノミクスの大将は21世紀版大日本帝国の構築を目論んでいた。

 それでは、菅義偉現首相はどうでしょう。この人は、一見、「勇気小+善悪を問わず信念弱」の人であるようにみえます。ですが、ひょっとすると「勇気特大+悪しき信念特強」の人かもしれません。絶対権力の確立を目指して揺らぎ無し。有無を言わさず異論を排す。恐怖政治の完成形を目指しているかもしれません。とびきり、要注意の政策責任者だと思います。

著者情報

同志社大学大学院ビジネス研究科教授

浜矩子

はま のりこ

1952年生まれ。一橋大学経済学部卒。三菱総合研究所ロンドン駐在員事務所長等を経て、現在に至る。『グローバル恐慌』『スラム化する日本経済』『ユニクロ型デフレと国家破産』『浜矩子の「新しい経済学」~グローバル市民主義の薦め~』など多数の著書がある。

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