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経済万華鏡

保釈金の金額と信頼の関係

浜矩子(同志社大学大学院ビジネス研究科教授)

 日産自動車前会長のカルロス・ゴーン被告が、10億円の保釈保証金を納付し、東京拘置所から出てきました。保釈時の奇妙な変装姿が大いに話題を呼びましたね。その後、ああいう格好をした人が全部ゴーンさんのように見えていけません。

 変装姿もさりながら、あの10億円を機に、保釈金というものの性格にも関心が集まっているようです。検索エンジン上で検索欄に「保釈」まで入力すると、その下に出てくる選択対象フレーズの筆頭に、「保釈金は戻るのか」が出てきました。それに「保釈金の使い道」、「保釈金の行方」と続いていました。皆さん、「あのカネ、どうなるんだろう」と思われている模様。
 この調査の結果、保釈金は戻ってくることを確認しました。ただし、保釈条件に違反したり、行方をくらましたりすれば、没収となることもあるということです。その場合、没収された保釈金は国の一般会計の歳入に繰り入れられるのです

 ところで、この調査をきっかけに、少し別のことに思いが及びました。保釈金を英語で言えばbail(ベイル)です。保釈金を積んで勾留を解かれることをbail outされるとか、out on bailなどと表現します。派生的に、公的支援で金融機関の倒産を食い止めることなどについても、bail outという言い方を使ったりします。
 bailと関係の深い言葉にbond(ボンド)があります。実際に、保釈のための手続きを経て最終的に決まる保釈金そのものをbondと表現する場合もあるのです。古い言葉です。担保や証拠金と訳してもいい。債券のこともbondと言います。そこには、債券を発行して資金を調達すれば、返済負担が伴うという含意があります。bondには絆や隷属という意味もあります。接着の意も。だから、糊のブランドに「ボンド」というのがあるわけです。

 糊はともかく、保釈金との関わりでbondを思い浮かべれば、連想で直ちに出てくるのが、”my word is my bond”というフレーズです。「我が言葉は我が誓いなり」19世紀以来、ロンドン証券取引所の指針として掲げられています。
 自分が一たび約束を口にすれば、その我が言葉が約束の証となる。書き物としての契約書や誓約書などは必要ない。いわんや証拠金など無用の長物。紳士に二言無し。証券取引にはこの気概と誠意が欠かせない。これが金融発祥の地としてのロンドンの心意気だ。そう胸を張るために、このモットーが掲げられてきました。
 bondへの異様な執着をあらわにしたのが、シェークスピア劇「ベニスの商人」の主人公、金貸し業者のシャイロックです。彼が貸金のかたすなわちbondとして要求したのが、1ポンド分の人肉でした。

 

 ゴーンさんは、自分の肉を保釈物として要求されなくて良かったですね。ただ、それにしても、10億円も要求されるというのは、「我が言葉は我が誓いなり」を信じてもらえるのとはあまりにも程遠い。それだけ、信用されていないわけです。やっぱり、変装はやめておいた方が良かったですね。ますます、信用されなくなりそうです。

著者情報

同志社大学大学院ビジネス研究科教授

浜矩子

はま のりこ

1952年生まれ。一橋大学経済学部卒。三菱総合研究所ロンドン駐在員事務所長等を経て、現在に至る。『グローバル恐慌』『スラム化する日本経済』『ユニクロ型デフレと国家破産』『浜矩子の「新しい経済学」~グローバル市民主義の薦め~』など多数の著書がある。

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