imidas - 情報・知識&オピニオン

連載

経済万華鏡

「終わりの始まり芝居」の始まり始まり

浜矩子(同志社大学大学院ビジネス研究科教授)

 ついに来たかな? 終わりの始まり。
 アメリカで株が大幅下落、それを受けて日経平均株価も大きく下がりましたね。いつの頃からか、「適温経済」と呼ばれるようになった内外の経済環境が、ついに終幕に踏み込んだ。そんな雰囲気が漂ってきました。

 遅過ぎるくらいの終幕です。そもそも、ここまでの経済環境のどこが適温だったのか。この認識そのものが問題です。適温どころか、異常低温。それが今までの経済環境でした。
 より厳密にいえば金融環境です。国々の中央銀行が金融緩和の大風呂敷を目一杯広げまくってきた。その結果、マイナス金利という言葉さえ、いまや当たり前、それこそ「適温」であるかの感覚で受け止められてしまう。そんな状況が長らく続いてきました。
 あまりにも長らく続く状況は、それが実をいえばいかに異様なものであっても、当たり前化してしまう。異常低温も、それに慣れ切ってしまえば、適温になってしまう。これはなかなか怖いことです。異常なことの異常性を感知出来なくなってくると、下手をすれば命が危うくなります。危険を察知出来ない者には、危険を回避することが出来ませんからね。

 異常低温金融の世界から、いち早く脱しつつあるのがアメリカです。
 今回も、アメリカの長期金利が大方の予想を上回るペースでさらに上がっていきそうだという観測が広まった。そのことが株安をもたらしました。異常低温金融ワールドからの脱却を急ぐFRB(連邦準備制度理事会)に対して、トランプ大統領がいみじくも「FRBは異常だ」とツイートしたそうですね。トランプおやじさんも、完全に異常低温を適温だと思い込んでしまっているわけです。
 そんなトランプおやじを打ち捨てて、FRBはなかなか決然と異常低温ゾーンから本当の適温圏を目指して帰り道を急いでいます。
 こうなると、問題は日本ですね。日本銀行の黒田東彦総裁は、自ら「次元の違う金融緩和」を目指すと宣言して「異次元緩和」の世界に旅立ちました。それが2013年のことでした。そして5年後の今、日本経済は、黒田日銀のおかげで、ほかのどの国よりも異常度と低温度の低い金融環境にどっぷり浸り込んでいます。適温仮面を被った異常低温金融の世界。これがどこよりも深く根付いてしまっているのが、今の日本です。果たして、日本はこの低温密室から脱出出来るでしょうか。

 そのためには、金利が上がり始めなければいけません。そうなると、一番慌てふためくのは日本国政府ですよね。異常低温の適温幻想に、この間、一番どっぷり浸り込んできたのが日本国政府です。何しろ、超低温金利でカネが借りられる。この状態に慣れ切った政府を、本当の適温世界に向かって誘導していく。黒田日銀にこの芸当が出来るでしょうか。
 さあ、いよいよ「終わりの始まり芝居」の開演です。皆さん、お席にお着き下さい。

著者情報

同志社大学大学院ビジネス研究科教授

浜矩子

はま のりこ

1952年生まれ。一橋大学経済学部卒。三菱総合研究所ロンドン駐在員事務所長等を経て、現在に至る。『グローバル恐慌』『スラム化する日本経済』『ユニクロ型デフレと国家破産』『浜矩子の「新しい経済学」~グローバル市民主義の薦め~』など多数の著書がある。

関連記事

新着記事

imidasの更新情報をお届けします。