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経済万華鏡

脱EUしたイギリスを捨てる神と拾う神

浜矩子(同志社大学大学院ビジネス研究科教授)

 イギリスの国民投票でEU(欧州連合)からの離脱派が勝利してから、約ひと月経ちました。投票結果が判明した直後は、世界の金融・為替市場が大いに荒れましたが、このところは、ひとまず落ち着きを取り戻しているようです。というよりは、この問題に関する限り、取りあえずは様子見に入ったというところでしょう。

 そんな中で、孫正義さんのソフトバンク社が、イギリスの大手半導体設計会社ARMホールディングスの買収に乗り出しましたね。かねてより構想していたことなのでしょうが、このタイミングでの実行はなかなか面白いと思います。
 なぜなら、こうして外資が自国企業に関心を持ってくれるのは、今のイギリスにとって殊の外大歓迎に違いないからです。EUから離脱すれば、外資はイギリスから出て行ってしまう。新たな対英投資も減るだろう。さかんにそのようなことが取り沙汰されていました。
 そうした中で、大型買収に乗り出してくれる投資家が出てくれば、それはうれしいことでしょう。現に、就任早々のメイ英首相も、大いに歓迎の意を表したと報じられています。

 筆者は、イギリスのEU離脱が決まった当初から、対英投資は、やるなら今だなと思っていました。
 EU離脱で、外資に嫌われるようになっては困る。この思いに駆られて、イギリスの政府も業界も、きっと、出血大サービスで対英投資の推進を図るだろう。筆者は、そう考えたのです。
 EUベースの堅苦しいルールや規制を守らなくてよくなった今こそ、税金や補助金等で目いっぱいサービスさせて頂きます。きっと、こんな感じでイギリス挙げての誘致作戦が繰り広げられるに違いない。そう考えつつ成り行きを見ていたら、やっぱり! かの孫さんがイギリス企業の買収に打って出ました。

 捨てる神あれば、拾う神あり。このフレーズが頭に浮かんできます。
 孫さんが神様だと言うわけではありません。イギリスは、EUに捨てられたのではありません。自分から出て行く決断をしたのです。従って、厳密に言えば、この言い方は当てはまりません。
 ですが、それでも、言いたいことはお分かり頂けますよね。何事も、一方的な決め付けはいけません。イギリスが脱EUすれば、企業は脱イギリスする。脱イギリスしないといけない。そう思い込んでしまっていると、存外に絶好の投資機会を取りこぼすことになってしまうかもしれません。
 新しい環境にイギリスはどう対応していくか。EU側はイギリスとの新しい関係構築にどう取り組むか。全てはこれからです。どんな捨てる神や拾う神たちがどこにいるのか。見守っていきましょう。

著者情報

同志社大学大学院ビジネス研究科教授

浜矩子

はま のりこ

1952年生まれ。一橋大学経済学部卒。三菱総合研究所ロンドン駐在員事務所長等を経て、現在に至る。『グローバル恐慌』『スラム化する日本経済』『ユニクロ型デフレと国家破産』『浜矩子の「新しい経済学」~グローバル市民主義の薦め~』など多数の著書がある。

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