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経済万華鏡

背中の上の麦わら1本に泣くプーチンさん

浜矩子(同志社大学大学院ビジネス研究科教授)

「ラクダの背中の麦わら1本」。皆さんは、この言い方をご存じですか?

 ラクダは頑丈な生き物ですよね。重い物を運ぶのが大得意です。いくら積み荷を重くしても、ラクダさんはへいちゃら。長距離輸送も、淡々とこなしてしまいます。いつでもどこでも、ラクダは楽だ。そういう顔でぶらぶらと、どこにでも歩いていってしまう。その姿がなかなかすごい。
 でも、そんなお気楽なラクダさんにも、限界はあるのです。これ以上の重荷は無理。ラクダさんにも、やっぱり、いつかはそのようなタイミングが到来します。もうこれでいっぱいいっぱい。そんな極限状態まで来てしまったラクダさんの背中に、麦わらを1本載せると、そこでラクダは一気に楽ではなくなるのです。
 ほとんど重量など無い麦わら1本でも、崩壊点に達したラクダの背中には、とどめの一発となってしまう。そういうことです。

 知らぬ間に極限状態に達している。そこで何かが起こると、それが、ラクダの背中を砕く麦わら1本の役割を果たす。世の中には、そういうことが結構あります。あの時のあれ。あれがつまり、ラクダの背中の麦わら1本だったんだなぁ。こんな感じで、「ラクダの背中の麦わら1本」という言い方が使われます。
 つまりは、一触即発の状態下で、大事件の引き金となる現象。それが、ラクダの背中の麦わら1本です。例えばバブル崩壊。あるいは戦争勃発。はたまた革命発生。そして金融恐慌。
 いずれの場合にも、必ずラクダの背中の麦わら1本があるのです。

 ところで、このところ、ロシア経済が大混迷に陥っていますよね。
 ルーブルの下落が止まりません。いくら金利を上げても、ロシアからカネが逃げていってしまうのです。世界の資本がロシアを見放した。そんな具合になっています。こんな状況に陥ろうとは、ついこの間まで、誰も考えてはいなかったでしょう。
 これこそ、ラクダの背中の麦わら1本の怖いところです。ロシアの場合、原油価格の下落が麦わら1本の役割を果たしました。ウクライナに手を伸ばしたり、がむしゃらな成長戦略を展開したり。不死身かに見えていた筋肉マンのプーチンさんも、実を言えば積み荷が相当過大になっていたのです。そこに原油暴落の麦わら1本が降ってきたわけです。

 立ち直るのは容易ではないでしょう。これからが大変です。
 ラクダにも楽あれば苦あり。プーチンさんも、きっと今、それが身に染みていることでしょう。

著者情報

同志社大学大学院ビジネス研究科教授

浜矩子

はま のりこ

1952年生まれ。一橋大学経済学部卒。三菱総合研究所ロンドン駐在員事務所長等を経て、現在に至る。『グローバル恐慌』『スラム化する日本経済』『ユニクロ型デフレと国家破産』『浜矩子の「新しい経済学」~グローバル市民主義の薦め~』など多数の著書がある。

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