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一語千金

カクテル・パーティー理論

[Cocktail-party theory]
パーティーの会話で投資判断

玉手義朗(エコノミスト)

 相場の格言に「もうはまだなり、まだはもうなり」がある。相場が上昇を続ける中で、人々が「もう上がらない」と思っていると、「まだ上がる」。反対に「まだ上がる」と思っていると、「もう上がらない」というのだ。人間心理とは裏腹な動きをする相場の転換点を読むのは本当に難しい。
 相場がまだ上がるのか、もう上がらないのか……。相場のピークを教えてくれるというのが「カクテル・パーティー理論」だ。敏腕ファンドマネージャーのピーター・リンチが導き出したユニークな理論で、その著書『ピーター・リンチの株で勝つ』(新版、ダイヤモンド社、2001年)で紹介されている。
 リンチは相場の上昇がどの段階にあるのかを、カクテル・パーティーでの会話から読み取るのだという。
(1)相場がまだ若く誰も上がる期待を持っていないとき:
「パーティーでは誰も株の話をしない。人々は私の仕事を聞き、『株式ファンドの運用をしています』と答えると、ちょっとうなずいてサッといなくなってしまう。いなくならないとしても、話題をすぐ(略)移す。そのうち近くにいる歯医者に話しかけたりする」
 こうした状況は、株価が低迷していて、人々の関心を引いていない証拠。しかしリンチは、「株式ファンドの運用者より歯医者の話を聞きたがったなら、マーケットはそろそろ上がりそうな兆しである」というのである。

(2) (1)の段階より株式市場が15%ほど上昇しているとき:
 リンチの自己紹介に対して、パーティーの出席者は「歯医者の近くに移る前にもう少し長く私のそばにいて、たぶん、株式市場がどんなにリスキーかなどと話してくれる」が、「全体としてはまだ歯医者のほうに人々の関心は高い」。
「一般の関心は薄い」ので、リスクよりチャンスの方が大きいと考えられる。

(3)株式市場が30%ほど上昇しているとき:
「ひと晩中、人々は歯医者を無視して私のまわりを離れない。興味津々、ひっきりなしにどの株を買うべきかと聞きたがる。歯医者でさえどの株がよいか知りたがる。(略)大半が株式に投資していて、自分の体験を披露する」
 相場の上昇が過熱し始めている証拠であり、危険水域に入ったと判断することになる。

(4)相場はピーク、下がるしかない状況:
 人々はリンチのまわりで、「今度はみんな私にどの株を買うべきかと教えたがる。歯医者でさえ三つや四つのヒントを私にくれ、数日後に彼のお勧め株を新聞で見ると、どの株も上がっている」
 市場が過熱して崩れ落ちる寸前にあると判断でき、ここから買うのは危険だという状況である。
 この理論について「ただし責任は持てない」と断りを入れているリンチだが、豊富なトレーダー経験から生まれた知恵と言えるだろう。

 こうした相場の状況を探る方法は他にもある。普段はあまり経済ニュースを取り扱わない民放のニュース番組が株価の動向を大きく取り上げるようになると(3)、ワイドショーに株式の専門家が登場するようになったら(4)の状態にある。書店の株式関連本のコーナーが大きくなり、ベストセラーのランキングにも顔を出すようになったら、ピークが近いといった具合だ。
 筆者の経験でも、ここ2年ほどは、会合などで株価動向を尋ねられることが増えていたが、昨年は資産運用講座を開催して欲しいと頼まれるようになった。株式投資に対する人々の関心が高まり、実際に大きな利益をあげている人も増えている証拠だろう。しかし、「この株は絶対に上がる」とか、「私だけが知っている特別な情報です」などと、推奨銘柄を教えてもらうまでにはなっていない。株価の上昇が続き、そろそろ危険水域という見方がある一方で、まだ上昇余力を残しているのかもしれない。株価が「まだ上がる」のか、ピークに到達して「もう上がらない」のか。カクテル・パーティー理論以外のオリジナルの理論を見つけるのも面白いかもしれない。

著者情報

エコノミスト

玉手義朗

たまて よしろう

1958年生まれ。筑波大学卒。東京銀行、マニュファクチュラース・ハノーバー銀行などで、外国為替取引に携わる。その後、テレビ局で経済部デスクなどを経て、現在はフリー。著書に『円相場の内幕』(1995年、集英社)、『経済入門』(共著、2004年、ダイヤモンド社)がある。

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