一帯一路
玉手義朗(エコノミスト)
「ここは自治体が区画整理事業を進めています。ますます便利になり、資産価値も上がりますよ」と、下見に行った分譲マンションを不動産会社の担当者が勧めてくる。マンションと駅は直線で3分ほどの距離だが、住宅や商店が雑然と並んでいるために迂回せざるを得ず、現在は10分ほどかかる。しかし、区画整理事業が終われば、駅直結の道路ができるほか、商店街もリニューアルされて、一層便利になるという。見せられた区画整理事業の完成図は魅力的だったが、権利関係が複雑であるだけに簡単に実現されるのか? という疑問を拭えなかった。
同じことが当てはまるのが「一帯一路」だ。中国が中心になって進めている新たな経済圏構想で、2013年に習近平国家主席が提唱した。中国西部~中央アジア~ヨーロッパを結ぶ「シルクロード経済帯」(一帯)と、中国沿岸部~東南アジア~インド~アフリカ~中東~ヨーロッパへと連なる「21世紀海上シルクロード」(一路)の二つの地域について、鉄道や港湾施設、発電所などの大規模なインフラ投資を行い、貿易や金融を活発にして新たな経済圏に成長させようというもの。急成長を続けてきた中国だが、次第に限界が見え始めている。そこで、一帯一路という新たな経済圏を造り上げ、自国の製品や技術を売り込もうと目論んでいる。一帯一路は中国が進める世界規模の区画整理事業であり、そこで生まれる新たな需要を取り込もうというわけだ。
一帯一路を実現させるために、中国は資金面のバックアップも表明している。インフラ整備や資源開発などに対して中長期的な投資を行う「シルクロード基金」を設立すると同時に、自らが設立した「AIIB」(アジアインフラ投資銀行)も積極的に活用、資金が足りない国々を援助しようとしている。区画整理事業に必要な資金を融資するので、安心して欲しいということだ。
一帯一路は人口でおよそ44億人、GDP(国内総生産)の合計が21兆ドルにのぼる巨大なものになるだけに、警戒感も強い。中国が主導する経済圏に取り込まれ、資金面でも援助を受ける結果、関係する国々の独立性が失われ、いつの間にか中国軍の基地や港が造られ、支配されてしまうのではないか? というわけだ。特に危機感をあらわにしているのがインドで、領有権を巡ってパキスタンとの間で争っている「カシミール地方」が、一帯一路に含まれていることから、一切の協力を拒否している。
また、巨額の投資に見合うだけの経済効果が得られるかどうかも不透明だ。一帯一路の事業には、実現性や採算性が疑問視されているものもあり、事業が頓挫して、莫大(ばくだい)な損失が発生する恐れもある。区画整理事業が途中でストップし、分断された道路や虫食いの商店街が残されるという事態も想定されるのである。
冒頭の話だが、区画整理事業が不透明なことから、筆者はマンションの購入を見送った。それから10年、改めて現状を調べてみると、一部の地主の反対で区画整理事業はストップ、道路は分断されて駅へは依然として遠回り、新しい商店街もできていなかった。中国が主導する世界規模の区画整理事業も、同じ末路をたどるのではないのか? 一帯一路の行く末は、決してばら色ではない。