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一語千金

双子の赤字

[twin deficit]
国家破産の危機

玉手義朗(エコノミスト)

「うちの旦那、サラ金からお金を借りていたのよ!」と知人の女性が怒りをぶちまける。大学生二人の教育費で家計は火の車、やむなくご主人の小遣いを減らしていたところ、不足分をサラ金から借りていたことが発覚したのだという。「家計も赤字で旦那も赤字、これじゃ我が家は破産だわ」とその表情は深刻だが、肝心のご主人は「小遣いが少なすぎるのが悪いんだ…」と、危機感は希薄だという。
 この知人女性の家庭と同じ状況にあるのが、経常収支と財政収支の二つが赤字の「双子の赤字」だ。
 経常収支は国家の「家計簿」で、輸出や投資収益などから得られる「収入」から、輸入や借金の利息などの「支出」を差し引いたもの。一方の財政収支は、国家の「お父さん」のような存在である政府の懐具合を示すもので、これが赤字になると、借用証書である「国債」を発行して不足分を穴埋めすることになる。双子の赤字は、一家の家計簿も赤字、お父さんも赤字という二重の赤字状態にあることを意味している。
 経常収支の赤字と財政収支の赤字は連鎖的に発生する場合が多い。経常収支が赤字になれば、税金も集まりにくくなって政府の収入が減少、ここで支出を減らせないと、財政収支は簡単に赤字になってしまう。一方、財政が大幅な赤字を計上すると、借金のための国債を大量発行することになる。これが金利の上昇を招いて景気に悪影響を与え、経常収支の悪化を引き起こす恐れが出てくる。経常収支と財政収支は密接な関係にあり、同時に赤字になることが多いために「双子の赤字」と呼ばれている。
 双子の赤字は極めて危険な状態だ。経常収支が赤字でも、政府が財政支出を切り詰めて黒字を出していれば、状況はある程度緩和される。一方、政府が少々借金をしていても、国全体が黒字なら埋め合わせも可能だろう。しかし、経常収支と財政収支が共に赤字という双子の赤字が続けば、国家そのものが破綻する事態になりかねないのである。
 双子の赤字に陥っているのがアメリカだ。1980年代、アメリカは国際競争力の低下に伴う輸出の不振と、レーガン政権の大規模な財政支出によって、巨額の双子の赤字が発生、その状況は現在も続いている。
 日本も今、双子の赤字に直面している。日本の財政収支は慢性的な赤字が続いてきたが、経常収支は大幅な黒字を維持してきた。ご主人が浪費家でも、家族全員が一生懸命働いて経常収支の黒字を保ち続けてきたのだ。ところが、東日本大震災と原発停止の影響で原油輸入が急増、一方で国際競争力の低下から輸出は思うように増えず、経常収支も赤字傾向になっている。日本も双子の赤字に転落する寸前だ。
双子の赤字を解消するためには、収入である輸出を増やす一方で、輸入を控えればよいはず。財政赤字も徹底した支出削減が断行されれば縮小可能だが、どちらも実現は容易ではない。
 知人女性は、双子の赤字を解消するために、パートの仕事を始め、節約に努めているという。しかし、双子の赤字を抱えるアメリカにも、転落の危機にある日本にも、切迫感がないのが実情なのである。

著者情報

エコノミスト

玉手義朗

たまて よしろう

1958年生まれ。筑波大学卒。東京銀行、マニュファクチュラース・ハノーバー銀行などで、外国為替取引に携わる。その後、テレビ局で経済部デスクなどを経て、現在はフリー。著書に『円相場の内幕』(1995年、集英社)、『経済入門』(共著、2004年、ダイヤモンド社)がある。

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