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一語千金

リスクオン/リスクオフ

[risk on : risk off]
沖に出るか、港に戻るか…

玉手義朗(エコノミスト)

 プレジャーボートで釣りをした時のことだ。天候が良かったため、沖合のポイントを選択すると大物が次々ヒット、興奮して釣りを続けていたら海が突然荒れてきた。慌てて戻ったものの波が強く、ひどい船酔いになってしまった。港に近い場所ならこんなことにはならなかったが、それでは大物は釣れないのだろう。
 リスクを覚悟で沖合に出るか、無理をせずに港近くのポイントにするのか…。これを投資に置き換えると、前者が「リスクオン」、後者が「リスクオフ」となる。投資対象には、値動きが大きく紙くずになる危険性も高いハイリスクのものと、値動きが小さく儲けのチャンスが少ないが、安定感と信用力が高いローリスクのものとがある。ハイリスクの投資対象を重視するのが「リスクオン」、沖まで釣りに出かけること、ローリスクの投資対象を選ぶのが「リスクオフ」で、港に近い場所で釣りをすることだといえる。
 リスクの高い投資対象の代表的なものが株式。株式は価格変動が大きい上に、発行している企業が倒産して紙くずになる恐れがある。また、原油をはじめとした「商品」(コモディティー)や、不動産なども、リスクの高い投資対象である。これらの投資対象は「沖合」にあり、大物が釣れるが、波も荒いので覚悟が必要なのだ。
 一方、リスクが小さいものの代表が国債。株式などに比べると安定した動きであり、政府が発行していることから信用力も高い。そのため、投資家がリスクオフの動きを強めると、より多くのお金が国債市場に入ってくることになる。また、金をはじめとした貴金属も、紙くずにはならないことから、リスクオフの際の投資対象となる。海が荒れてきた場合、危険を避けて船が逃げ込んでくる港に近いポイントが、国債や金の市場なのである。
 リスクオンとするのか、リスクオフとするのかは、投資家自身が判断する。経済を取り巻く情勢に不安が少ない場合には、リスクオンの姿勢を取る投資家が増え、反対に不安材料が増えるとリスクオフの投資家が増えてくる。天気予報が良いと沖合の釣り場を目指す船が増える一方で、「嵐になるかも…」と不安が広がると、港に近い釣り場を選択する船が増えるというわけだ。
 1980年代後半、日本ではリスクオンの動きが活発となり、大量のお金が株式市場に集まり、沖合の釣り場は「大漁」が続いた。ところがバブル崩壊という嵐が発生して多くの船が沈没、「もう、沖合には行きたくない…」と、その後はリスクオフの動きが支配的となり、株価は低迷する。
 2008年9月にアメリカで起こったリーマン・ショックは、リスクオフの動きを世界中に広めた。巨大な嵐が発生したことで、沖合の株式市場に出ていた船が一斉に帰港したため、株価は暴落。その一方で、安全だと考えられる国債にお金が流入、相対的に安全と考えられた日本円にもお金が流入して円高が進んだ。
 アベノミクスへの期待感から、リスクオンの動きが広がり始めた日本だが、「まだ嵐が怖い…」と、リスクオフの姿勢を続ける投資家も依然として多い。投資家が自信をもって沖合の釣り場を目指すのは、もう少し先なのかもしれない。

著者情報

エコノミスト

玉手義朗

たまて よしろう

1958年生まれ。筑波大学卒。東京銀行、マニュファクチュラース・ハノーバー銀行などで、外国為替取引に携わる。その後、テレビ局で経済部デスクなどを経て、現在はフリー。著書に『円相場の内幕』(1995年、集英社)、『経済入門』(共著、2004年、ダイヤモンド社)がある。

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