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一語千金

ストラテジスト

[strategist]
勝利に導く「作戦参謀」

玉手義朗(エコノミスト)

 プロ野球のチームには「スコアラー」というスタッフがいる。試合の進行をスコアブックに記録することが基本的な仕事だが、それに加えて、バッターが苦手とする球種やコース、投手の決め球といった様々なデータの収集と分析を行い、選手や監督にアドバイスを行っている。テレビなどに登場する「野球解説者」とは異なり、スコアラーの分析とアドバイスは実戦的で、勝利を引き寄せる「作戦参謀」としての役割を担っているのだ。
 金融市場を始めとした市場取引の現場にもスコアラーに相当する存在がいる。「ストラテジスト」だ。株式や債券、外国為替から原油、貴金属に至るまで様々な市場のデータや情報を収集して分析、投資家に投資戦略ストラテジー)としてアドバイスしている。
 ストラテジストは、市場の動きを示す様々なデータ、景気や物価などの経済指標、さらには政府の経済対策や中央銀行の金融政策についての情報を収集する。また、数字には表れてこない、市場参加者の心理的な側面についても注意を払う。市場を左右するのは、数字で表すことができる経済的な要因(ファンダメンタルズ)だけではない。巨額の資金を動かすヘッジファンドの動きや、市場参加者の心理状態なども重要な要素となっているからだ。ストラテジストはこうした多様なデータと情報を集約した上で、どの市場にどのタイミングで資金を投入すれば最も利益が上がるかという情報を発信している。
 ストラテジストの登場は比較的最近のことで、それまでは経済情勢全般についてはエコノミストが、個別の市場や株式の銘柄などについてはアナリストが分析していた。経済学の博士号を持つ人もいるなど、高度な理論と客観性に基づいた彼らの分析だが、これが時として「机上の空論」となっていた。「理論では正しくても、儲からなければ意味がない」という投資家の声を受けて登場してきたのが、ストラテジストだったのだ。
 ストラテジストの中には、トレーダーの経験を積んだ人もいるなど、市場心理を知り尽くした上でのアドバイスが行われている。エコノミストやアナリストといった解説者の視点ではなく、スコアラーのように、戦いの最前線の視点を持っていることが、ストラテジストの強みとなっている。
 もちろん、ストラテジストの立てた戦略が、常に正しいとは限らない。市場の動きは極めて複雑であり、しばしば予想外の事態も発生する。プロ野球の選手や監督が、スコアラーのアドバイスを鵜呑みにすることがないように、投資家もストラテジストの戦略は参考意見の一つとして考えておくことが大切だろう。
 勝利にどれだけ貢献したかによって、スコアラーの評価が決まるように、ストラテジストも、提供した情報やアドバイスが利益を生むことで評価される。激しい戦いが繰り広げられる市場取引での勝利をつかみ取れるように、ストラテジストは独自の理論や手法を開発するなど、切磋琢磨(せっさたくま)しているのである。

著者情報

エコノミスト

玉手義朗

たまて よしろう

1958年生まれ。筑波大学卒。東京銀行、マニュファクチュラース・ハノーバー銀行などで、外国為替取引に携わる。その後、テレビ局で経済部デスクなどを経て、現在はフリー。著書に『円相場の内幕』(1995年、集英社)、『経済入門』(共著、2004年、ダイヤモンド社)がある。

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