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一語千金

非農業部門雇用者数

[nonfarm payrolls]
アメリカの景気を読む重要データ

玉手義朗(エコノミスト)

 その瞬間を待つ外国為替のディーリングルームは、ロケット打ち上げのカウントダウンさながらの緊張感に包まれる。毎月1回、アメリカ労働省による「非農業部門雇用者数」の発表の瞬間だ。
 この数字は、アメリカの景気の現状と先行きを最も早く示す、重要なデータの一つであり、その結果によって外国為替市場が大きく変動することから、ディーラーたちは「戦闘態勢」を整えるのだ。発表の時間は、原則として毎月第1金曜日の東部時間午前8時半。あと5分、あと1分…、5秒前、4、3、2、1…“nonfarm payrolls +200,000!”(非農業部門雇用者数20万人増加!)。
 「出たぞ!大幅に増えている!アメリカの景気は好調だ!ドル買いだ!」
 ディーラーたちは一斉に動き出し、ディーリングルームは戦場と化す。その影響は、その後に始まるニューヨーク株式市場や国債市場、原油などの商品市場にまで波及することになるのである。
 非農業部門雇用者数とは、農業以外の事業所の給与支払い名簿(payrolls)に記載されている人数のことで、前の月に比べて何万人増えたか、減ったかで示される。アメリカの雇用状況が集約されている数字だが、これが重要視されるのは、アメリカの雇用が流動的で、景気の動きが雇用に真っ先に反映されるからだ。
 経営者は、景気が良い、あるいは良くなると判断すると、即座に雇用を増やす。一方で、景気が悪くなると予想されると、真っ先に従業員をリストラする。採用数の増減や解雇といった雇用調整が、景気が変化する最終局面に現れる日本とは正反対なのだ。
 こうしたことから、非農業部門雇用者数の増減が、アメリカ景気の「先行指標」となり、前月の数字が翌月の第1金曜日に発表されるという「速報性」も兼ね備えていることから、金融市場に絶大な影響を与えることになるのだ。雇用情勢を示すデータとしては、失業率も同時に発表されるが、こちらは変化の度合いが小さすぎて、方向性が読みにくいことから、金融市場ではほとんど無視されているのが現状なのである。
 「先週末のニューヨーク市場は、この日発表された非農業部門雇用者数が大きく増加したことから、アメリカの景気に対する安心感が広がり、株高、ドル高が進みました」
 土曜日のテレビや新聞では、こうしたニュースを目にすることが少なくない。全世界の金融関係者や投資家が、かたずをのんで待つ「非農業部門雇用者数」。実は、中央銀行に相当するFRB(連邦準備制度理事会)も、金融政策を行う上で最も重要なデータとして活用しているという。
 「非農業部門雇用者数」という耳慣れないデータだが、この読み方を学べば、アメリカ経済、そしてそれに影響を受ける日本経済の先行きも予想できる。経済ニュースを理解する上級者になるためにも、是非チェックしておきたい。

著者情報

エコノミスト

玉手義朗

たまて よしろう

1958年生まれ。筑波大学卒。東京銀行、マニュファクチュラース・ハノーバー銀行などで、外国為替取引に携わる。その後、テレビ局で経済部デスクなどを経て、現在はフリー。著書に『円相場の内幕』(1995年、集英社)、『経済入門』(共著、2004年、ダイヤモンド社)がある。

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