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一語千金

時価総額

[market capitalization]
企業に付けられた値札

玉手義朗(エコノミスト)

 「福袋1万円。中身は開けてのお楽しみ」
 お正月恒例の福袋は、値札が付いているが、中を見ることができず、本当の価値は買ってみなければ分からない。時価総額は、この福袋の値札に相当する。福袋という企業に、株式市場で付けられている値段なのである。
 時価総額は、企業が発行している株式の総数に、株価を掛けて算出される。100万株を発行している企業Aの株価が300円なら、時価総額は3億円(300円×100万株)となる。株価が日々刻々と変動しているため、時価総額は福袋のように「定価」ではなく、その時々の価格に応じたまさに「時価」となる。そして、現在株を持っている人が売却に応じるかどうかは別として、理論上は時価総額の3億円で、その企業の買収が可能となる。
 しかし、福袋の価格と中身の価格が一致しないように、時価総額と企業の本当の価値が一致するとは限らない。時価総額3億円の企業Aだが、毎年の利益や保有している不動産などを合計すると5億円と、まさしく「福袋」の場合もある。一方で、経営が苦しく借金も膨大、実際には借用証書しか入っていないという「厄袋(?)」の場合もある。時価総額はあくまで、株式市場が決めた会社の値段であり、会社の状況を正確に反映するものではないのだ。
 企業経営者は、自社の株価を上げ、時価総額を増やそうと努力する。時価総額が大きくなれば、それを元手に様々な企業を買収するなど、企業規模の拡大や多角化が可能になるからだ。こうした経営戦略は、「時価総額経営」と呼ばれるが、時に大きなひずみを生む。
 その典型がライブドアだ。ライブドアの株価は、ホリエモンの巧みな戦略によって急上昇を続け、時価総額は膨らみ続けた。しかし、急上昇した福袋の値段に比べて、その中身は貧弱であった。これをごまかすために、ホリエモンは、「福袋の中身は凄いですよ」という嘘、つまり粉飾決算に手を染めたわけというわけだ。
 一方で、時価総額が安すぎると、企業買収ファンドの標的になる恐れが出てくる。彼らは企業価値を独自に算出し、それが時価総額を上回っている企業を見つけると、買収を仕掛ける。値札が1万円の福袋の中身を調べ、それが5万円であれば強引にでも購入し、すぐさま転売して4万円の利益を上げるというわけだ。時価総額が過小評価され、企業買収ファンドに狙われることがないよう、企業経営者は神経を尖らせるのである。
 時価総額は株式市場が決めた企業の値段であり、本当の価値を示すものではない。福袋の中には何が入っているのか…。時価総額に惑わされることなく、冷静な目で企業を見ることが必要なのである。

著者情報

エコノミスト

玉手義朗

たまて よしろう

1958年生まれ。筑波大学卒。東京銀行、マニュファクチュラース・ハノーバー銀行などで、外国為替取引に携わる。その後、テレビ局で経済部デスクなどを経て、現在はフリー。著書に『円相場の内幕』(1995年、集英社)、『経済入門』(共著、2004年、ダイヤモンド社)がある。

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