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一語千金

ビッグマック指数/購買力平価理論

[Bigmac index : purchasing power parity theory]
ビッグマックは通貨の尺度

玉手義朗(エコノミスト)

「今回アメリカで食べたビッグマックは、すごく安かったよ」。海外旅行をすると、マクドナルドばかり食べる知人がいる。メニューが世界共通で安心できる、というのがその理由だが、価格差を感じることが少なくないという。
 日本では、ビッグマックの価格は320円(東京)、アメリカでは3ドル54セント。知人がアメリカに行った2009年11月のドル・円相場は84円台で、円に換算すると297円とかなり割安だった。「こんな時は、ビッグマック以外の物も安くなっているはず。円相場が高すぎる証拠で、買い物のチャンスでもあるんだ」というのだ。
 ビッグマックの価格から為替相場の水準を判断する。世界的な経済誌「エコノミスト」も、同じことを行っている。「ビッグマック指数」だ。
 ビッグマックは、材料や調理法などが世界共通で、アメリカでも、日本でも、中国でも、同じものが販売されている。ビッグマック指数は、同じ商品なら同じ価格で販売されるという原則(一物一価の法則)は国境を越えても共通であり、為替相場はこれを実現するように決まるという考えに基づいて、為替相場の適正水準を算出するものだ。
 アメリカでのビッグマックの価格3ドル54セントと、日本(東京)での価格320円が同じになる為替相場は、(320÷3.54=)90円40銭となる。これがビッグマック指数で、「自国通貨(日本円)建てのビッグマック価格」÷「ドル(相手国)建てのビッグマック価格」という単純な計算式で算出される。これが為替相場の適正水準であるとするのである。
 少々強引に見えるビッグマック指数だが、為替相場決定理論の中でも最も重要とされる「購買力平価理論」という外国為替理論に基づいている。今、ドル・円相場が80円まで円高・ドル安になったとしよう。この場合、アメリカでビッグマックを買うと(3.54×80=)283円と、日本で買うより37円も安くなる。輸送費などを無視すれば、アメリカでビッグマックを購入して日本で売れば、一個当たり37円の利益が出る計算だ。そこで、アメリカから大量のビッグマックが輸入され、日本で販売されることになる(現実にはありえないが)。
 このとき、外国為替市場では、ビッグマックの購入代金をドルで支払うために「ドル買い・円売り」が発生、為替相場はドル高・円安に動き出す。そして、ビッグマックの価格が日米で同じになり、アメリカから輸入するメリットが無くなる90円40銭まで続くはずだと考える。ビッグマック指数は、購買力平価理論から導かれた為替相場の適正水準を示すものの一つとされている。
 しかし、現実の為替相場は、購買力平価理論、そしてビッグマック指数と必ずしも一致しない。日々変動する為替相場は、輸出や輸入だけではなく、投機マネーなどの資金取引によっても大きく左右され、実体経済からかけ離れてしまうことも多いからだ。
 知人がアメリカ旅行をした09年11月は、「ドバイショック」が発生し、欧米の金融機関への不安感が高まっていた。これが、ドル売り・円買いという投機マネーの動きを生み出し、為替相場を大きくドル安・円高に傾けていた。
 しかし、こうした動きはいずれ修正され、為替相場は、購買力平価理論で算出される水準に戻されると考えられている。
 海外旅行をしたらビッグマックの価格をチェックし日本円に換算してみよう。もし、日本より安くなっていたら、ビッグマック以外の商品も割安になっている可能性が高いので買い物のチャンス。反対に割高だったら、いずれ為替相場が元に戻ることを期待して買い物は控える。ビッグマック指数は、為替相場の水準を判断する上で、重要な物差しの一つなのである。

著者情報

エコノミスト

玉手義朗

たまて よしろう

1958年生まれ。筑波大学卒。東京銀行、マニュファクチュラース・ハノーバー銀行などで、外国為替取引に携わる。その後、テレビ局で経済部デスクなどを経て、現在はフリー。著書に『円相場の内幕』(1995年、集英社)、『経済入門』(共著、2004年、ダイヤモンド社)がある。

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