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一語千金

特別背任罪

[aggravated breach of trust]
交通違反の社長を刑務所へ

玉手義朗(エコノミスト)

 お酒を飲んで車を運転して大きな事故を起こした場合、ドライバーは道路交通法違反などの容疑で逮捕・起訴され、裁判にかけられる。一方で、被害者に対しては、被害の程度に応じた損害賠償金を支払うことになるだろう。
 企業経営者に対しても、同じような罪と罰が存在する。「特別背任罪」だ。
 企業経営者は、株主から経営のかじ取りを委ねられ、その利益のために働く。企業をバス、株主をその乗客と考えれば、経営者は運転手で、従業員というスタッフを使いながらバスを運転する。そして、株主に多くの利益を提供し、楽しませることで報酬を得ているのだ。
 与えられたこの職責に故意に背き、会社に損害を与えた場合には、背任罪に問われる。「任」に「背く」ことから「背任罪」というわけだ。具体的には、返済されないことが明白であるにもかかわらず、個人的な理由で融資を実行するなど、自分、もしくは第三者の利益のために、会社に損害を与えた場合に適用される。
「背任罪」は刑法で規定されている罪で、従業員などに適用される。しかし、取締役などの企業経営者は、その責任がより重い。そこで、刑法とは別に会社法で「特別背任罪」が規定されていて、「背任罪」よりも重い処罰が科せられることになる。事故を起こした場合には、バスガイドに比べて、運転手の方が重い罪に問われるというわけだ。
 企業経営者に対しては、「特別背任罪」とは別に「株主代表訴訟」が起こされる場合がある。ただし、こちらは民事上の問題で、賠償金は会社に支払われ、刑務所に送られることはない。
 一方、特別背任罪は刑事事件であり、場合によっては刑務所に送られ、罰金は会社ではなく、国庫に納められる。自動車事故に置き換えれば、「特別背任罪」は道路交通法上の罪、「株主代表訴訟」は損害賠償請求に相当するのである。
 経営者は会社というバスの運転手であり、株主という乗客から委任された経営という運転を、責任を持って行わなければならない。株主に内緒で、絢爛豪華な自分専用の「秘密の部屋」を会社のお金で作った社長は、「特別背任罪」に問われ、刑務所に送られてしまうことになりかねないのである。

著者情報

エコノミスト

玉手義朗

たまて よしろう

1958年生まれ。筑波大学卒。東京銀行、マニュファクチュラース・ハノーバー銀行などで、外国為替取引に携わる。その後、テレビ局で経済部デスクなどを経て、現在はフリー。著書に『円相場の内幕』(1995年、集英社)、『経済入門』(共著、2004年、ダイヤモンド社)がある。

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