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一語千金

第三者割当増資

[allocation of new shares to a third party]
株式の「限定販売」

玉手義朗(エコノミスト)

 「今回は会員の皆様だけの限定販売、特別価格でご提供します!」
 しばしば見かける宣伝文句だ。人気商品が格安でも、購入できるのは限られた人だけ、他の人は指をくわえて見ているだけで、どうすることもできない。こうした「限定販売」が、株式市場にも存在する。「第三者割当増資」である。
 増資とは株式会社が新たに株式を発行、それを売却して資金を調達することで、これによって新しい株主が増えることになる。
 株式会社を「分譲マンション」、株式をその「住戸」と考えてみると、増資はマンションを改築して戸数を増やし、それを販売して資金を手に入れ、改修工事などに使うこと。これによって、分譲マンションは新しい住民を迎え入れることになるのだ。
 増資には、株式の売却方法によって「公募増資」と「第三者割当増資」がある。
 公募増資は、新規に発行される株式の購入希望者を広く一般投資家から募る。これに対して、第三者割当増資は、あらかじめ売却先を決めた上で株式を発行するもので、一般の投資家は買いたくても買うことはできない「限定販売」となる。
 分譲マンションで考えるなら、公募増資はお金さえあれば誰でも購入して住むことができるのに対して、第三者割当増資では、購入希望者が多くいたとしても、決められた人以外は手を出すことができないということになる。
 「公募増資」と「第三者割当増資」では、新しい株主の顔ぶれが大きく異なってくる。
 公募増資では、誰が株主になるか全く分からないが、第三者割当増資であれば、あらかじめ決められた人だけが新たな株主となり、現在の経営陣の意向が反映されやすくなる。分譲マンションで言えば、気心の知れた人だけを新しい住民として迎えることになり、安心というわけだ。
 こうしたことから、第三者割当増資は、資金調達のみならず、株式会社の経営戦略においても、重要な役割を果たすことになる。
 株主は株主総会で経営方針を決めたり、経営を行う取締役を選出したりする「議決権」を保有している。したがって、新たに株式を発行し、現在の経営陣の意に沿った人や会社に絞って第三者割当増資を実行すれば、経営陣の「味方」を増やすことが可能となるのだ。
 例えば、Aという会社がBという会社と提携し、より密接な関係を築こうと「資本提携」をする場合、B社がA社を引き受け先にした第三者割当増資を行う。B社という「分譲マンション」にA社の社員が入居するというわけだ。これによって、B社の株主総会でA社の意向が強く反映され、協力関係を構築することが可能になる。
 また、買収防衛策として、第三者割当増資が使われることもある。
 企業の買収は、狙った企業の株式を買い集め、株主総会で主導権を握ろうとするもの。したがって、現経営陣の味方になってくれる人や企業に対して第三者割当増資を実施すれば、買収者の株式の保有比率を引き下げることが可能となる。
 分譲マンションで考えれば、マンションを乗っ取ろうと住戸の買い占めを始めた買収者に対して、改築で増やした住戸に自分の知人に限って入居してもらうことで、買収者の力を弱めてしまうことに他ならないのである。
 ただし、こうしたやり方は、買収者はもちろん、既存の株主を不利な立場に追い込む可能性もあり、しばしば裁判に発展する。ライブドアの買収攻勢に対抗するために、ニッポン放送が計画した第三者割当増資の場合には、既存の株主に著しい不利益が生じるとして、裁判所が差し止め命令を下している。
 このほか、経営が悪化し、倒産寸前の企業を救済する目的で第三者割当増資が行われる場合もある。
 会社が倒産すれば、株式は紙くずと化す。したがって、倒産寸前の企業が増資を行おうとしても、株式の引き受け手を見つけることは困難だ。そこで、その企業を救ってくれるスポンサー企業が、覚悟の上で増資に応じるというわけだ。
 「限定販売」は、そのやり方によっては、様々な不公平を生む。株式市場での限定販売である「第三者割当増資」も同様であり、明確な戦略と、誰に対して、どんな条件で行うかについての十分な検討が不可欠なのである。

著者情報

エコノミスト

玉手義朗

たまて よしろう

1958年生まれ。筑波大学卒。東京銀行、マニュファクチュラース・ハノーバー銀行などで、外国為替取引に携わる。その後、テレビ局で経済部デスクなどを経て、現在はフリー。著書に『円相場の内幕』(1995年、集英社)、『経済入門』(共著、2004年、ダイヤモンド社)がある。

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