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一語千金

業務改善命令(金融庁の)

[business improvement order]
金融の安全を守るために

玉手義朗(エコノミスト)

 空港の待合室で、搭乗を待っていた時のことだ。「機体に不具合が見つかったため、現在、修理を行っております。出発までしばらくお待ちください」というアナウンスが流れた。
 旅客機はフライトごとに点検が義務付けられ、不具合が見つかれば離陸は許されず、場合によっては欠航となる。乗客の命を預かっている以上、当然のことだ。
 金融庁の業務改善命令も同じだ。金融庁は銀行や証券会社、生命保険会社などの金融機関に対して、厳しい監督の目を光らせ、必要に応じて業務改善命令を出している。
 業務改善命令の範囲は広い。銀行が回収の見込みのない融資を繰り返したり、証券会社がインサイダー取引をしたり、生命保険会社が規定通りの保険金を払わなかったりといった、根本的なルール違反が発生した場合、業務改善命令が下される。機長が無茶な操縦をし、乗客に危険が及ぶ恐れがある場合には、厳しく指導するというわけだ。
 しかし、業務改善命令はルール違反が起こっていない場合にも出されている。1990年代前半のバブル崩壊では、多くの銀行が破たんし、日本経済は大混乱に陥った。旅客機が次々に墜落してしまったわけだが、その一因は、金融当局が経営の悪化を放置してきたことにあった。金融機関という旅客機にルール違反という明確な「故障」があれば対応していたが、経営悪化という漠然とした「不調」については明確な措置が取られず、結果として事故を防げなかったのだ。
 そこで、金融機関、とりわけ銀行に対する監視が強化されることになった。その中心となるのが「自己資本比率」だ。
 銀行の融資には、株式の発行や利益の蓄積などによって蓄えられた自己資本と、他の金融などから借り入れた資金があり、自己資本が多ければ多いほど、経営は安定していることになる。そこで、融資に占める自己資本の割合である自己資本比率を算出し、国際業務を手掛ける銀行は8%、国内業務のみの銀行なら4%と最低基準を定めて、経営をチェックしている。
 自己資本比率は旅客機の「強度」であり、国内線に比べて長距離を飛ぶ国際線には、より厳しい基準が設定されているというわけだ。
 自己資本比率が基準を下回る恐れがある場合、金融庁は業務改善命令の一つである「早期是正措置」を発動し、自己資本比率の引き上げを求める。機体の強度が低下している旅客機に対して警告を出し、修理を求めるのだ。
 その際、公的資金が投入される場合もある。税金を使って銀行の自己資本比率を引き上げるのだ。しかし、公的資金が使われる以上、利益目標の設定など、厳しい経営健全化計画が求められる。もし経営再建が進まずに利益目標を3割以上下回る事態となると、さらに業務改善命令が出される(3割ルール)。これが2年連続すると経営トップの辞任、さらには、国が経営を直接管理する「国有化」へと発展し、他の銀行との吸収合併などの破たん処理が行われることになる。機体の安全確保ができなければ機長を交代させ、それでもダメなら乗客を他社の便に移し、旅客機は解体処分されることになるというわけだ。
 2009年7月、金融庁は公的資金が投入されている新生銀行やあおぞら銀行など6銀行に対して、経営健全化計画の利益目標を3割以上割り込んだとして、業務改善命令を発動した。これは、公的資金を注入しているにもかかわらず、機体の強度が低下しているということにほかならないのだ。
 不具合が発生したことで、私が搭乗予定だった旅客機は欠航となり、乗客たちは他社の便に振り替えとなった。しかし、安全第一。無理に離陸して墜落し、多くの犠牲者を出すことは絶対に避けなければならない。金融庁も厳しい業務改善命令によって、預金者や投資家を巻き込む事故を未然に防ごうとしているのである。

著者情報

エコノミスト

玉手義朗

たまて よしろう

1958年生まれ。筑波大学卒。東京銀行、マニュファクチュラース・ハノーバー銀行などで、外国為替取引に携わる。その後、テレビ局で経済部デスクなどを経て、現在はフリー。著書に『円相場の内幕』(1995年、集英社)、『経済入門』(共著、2004年、ダイヤモンド社)がある。

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