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一語千金

信用取引

[margin transaction]
株式市場の「レンタル」

玉手義朗(エコノミスト)

 オペラやミュージカル、演劇などを観る場合、オペラグラスがあると楽しみが倍増する。
 しかし、たまにしか使わないものを購入するにはためらいもある。そこで、一部の劇場では、購入すれば1万円のオペラグラスを、使用料500円、保証金3000円といった具合にレンタルするサービスを行っている。保証金は、破損や返却されない場合に備えたもので、貸し出すときに徴収し、返却時に戻される仕組みだ。
 株式市場で行われている信用取引も、同じ考えに基づいている。「信用取引」は、証券会社や日本証券金融など、証券専門の金融会社からお金を借りて株式を購入し、値上がりしたところで売却して利益を得ようとするものだ。
 株価が1000円で、最低取引単位が1000株の株式の場合、通常の株式投資では100万円の現金が必要となるが、すぐに準備できる金額ではない。そこで信用取引が登場する。
 信用取引で株式投資をする場合、証券会社などが購入資金を用立ててくれる。これによって、手元に100万円の現金がなくても、この株式を購入することができるのだ。株価が上昇し、1200円になったところで売却すれば、投資家は売却代金で証券会社に借金を返済できると同時に、値上がり分の利益20万円を手にするという仕組みだ。
 ただし、購入した株式の所有権は証券会社にあり、投資家には配当を受け取る権利も、株主総会での議決権もない。
 信用取引は、証券会社という「劇場」が、株式という「オペラグラス」を投資家という「来場者」に一時的に貸し出し、株式取引という「観劇」が終わったら返却してもらうことなのだ。
 もちろん、必要なお金はゼロではない。まず、お金を借りることで発生する利息を支払う必要がある。オペラグラスの使用料に相当するものだ。
 また、委託保証金も必要となる。投資額の30%程度が目安となっていて、100万円の投資額なら30万円程度を証券会社に預ける。委託保証金は、お金を融資する証券会社にとっての「担保」であり、原則として取引終了後に返却される。取引上で発生した損失を補い、自らに損失が及ばないようにするためのもので、オペラグラスの保証金に相当するものが、委託保証金なのだ。
 信用取引を利用すれば、少額の利息と返却される委託保証金という小さな元手で、大きな取引ができる。これがレバレッジ効果(てこの効果)であり、信用取引の最大のメリットなのである。
 信用取引には、お金ではなく、株式を借りる場合もある。空売りだ。これは、株式を借りて市場で売却し、株価が下がった時点で買い戻そうというものだ。「空売り」も信用取引の一形態であることから「信用売り」、お金を借りて株式を購入する取引を「信用買い」と呼んで区別することもある。
 株式取引の幅を広げる信用取引だが、注意すべき点がいくつかある。委託保証金は、取引が終了した時点で返却されるのが原則だが、一部、あるいは全額返却されない場合があるのだ。
 30万円の委託保証金を払って100万円を借り、株価1000円の株式を1000株購入したものの、その後株価が下落して800円になったとしよう。この場合、20万円の損失が発生していることから、委託保証金も20万円が減額されて10万円になってしまう。借りたオペラグラスが壊れたら、保証金から修理代が差し引かれるというわけだ。
 信用取引では、委託保証金の最低限度が設定されていて、損失によって減額された委託保証金がこの限度を下回る場合には、証券会社は追加の委託保証金を投資家に求める。いわゆる「追証」だ。これが支払えない場合、証券会社は強制的に取引を打ち切り、損失を確定させてしまう。「株価が反発するので、もう少し待って欲しい」と頼んでも、認められることはないのだ。
 信用取引は少ない元手で大きな取引を、さらには空売りも可能にしてくれる便利なものだが、投資のリスクもより大きなものとなる。この点をしっかりと認識した上で活用することが、重要なのである。

著者情報

エコノミスト

玉手義朗

たまて よしろう

1958年生まれ。筑波大学卒。東京銀行、マニュファクチュラース・ハノーバー銀行などで、外国為替取引に携わる。その後、テレビ局で経済部デスクなどを経て、現在はフリー。著書に『円相場の内幕』(1995年、集英社)、『経済入門』(共著、2004年、ダイヤモンド社)がある。

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