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一語千金

原油価格

[crude oil price]
価格を決める“テキサス”

玉手義朗(エコノミスト)

 ジェームズ・ディーンの遺作となった映画「ジャイアンツ」。油田を掘り当て、吹き上げる真っ黒な原油にまみれて歓喜するシーンがよく知られているが、映画の舞台となったのは、アメリカのテキサスだった。
 テキサスの油田は質が良いことで知られているが、産出量は全米の6%程度、全世界では1%に満たない。ところが、このテキサスの原油価格が、アメリカはもちろん、中東を含めた世界の原油価格動向を決定しているのだ。その原油の名前が、WTI(West Texas Intermediate)である。 
 WTIが取引されている場所は、テキサスではなく、ニューヨークのニューヨーク商業取引所NYMEX New York Mercantile Exchange)である。
 NYMEXは、金や銀などの貴金属、天然ガスや石炭といった、エネルギー関連の商品などが取引されている市場だ。WTIもその一つだが、取引量は1日1億バレル以上、WTIの産出量の100倍以上で、全世界の産出量すら上回っている。
 実際の原油量をはるかに上回る取引が行われているのは、NYMEXで行われているのが「先物取引」であるためだ。先物取引はその名の通り、商品の受け渡しがすぐに行われるのではなく、3カ月先、6カ月先などに行われる。したがって、手元にお金がなくても買い注文を出せるし、受け渡しの期限前に売り注文を出せば、すでに行った買い注文を相殺することもできる。この際、売値と買値の差額が発生するが、これを支払うことができれば、元手なしに巨額の取引が可能となる。
 このため、NYMEXには、石油会社など原油を実際に使う企業のみならず、株式や債券などに資金を投入している投資会社や個人など、原油ビジネスと無関係な人々が多数参加、巨額の投機マネーが流れ込んでいる。NYMEXでのWTIの取引量が、産出量をはるかに超えている理由が、ここにあるのだ。
 原油についての様々な取引や思惑が集約されるNYMEXでのWTIの取引は、全世界が注目、そこでの動きは他の市場にも波及する。
 原油市場はNYMEXのWTIの他に、北海のブレント原油を対象としたイギリスのロンドン国際石油取引所IPE International Petroleum Exchage)、そして、中東のドバイ原油市場が三大市場とされている。
 しかし、現実にはWTIの影響力が最も強く、WTIの価格が上昇すれば、ブレント原油もドバイ原油も上昇するといった動きになることが多い。事実上、WTIの価格が全世界の原油価格を左右していることから、通常「原油価格」といえば、WTIを示しているのである。
 原油価格は、他の様々な商品と同様に、基本的には需要と供給で決まる。原油に対する需要が高まれば価格は上がるし、需要が変わらなくても供給が減れば、価格は上がる。
 したがって、「アメリカの景気が良くなる」という情報が流れれば、原油の需要が増えることが予想されて価格は上昇、中東情勢の悪化などの供給面で不安が広がっても、価格は上昇する。また、「OPECが増産する」といったニュースが流れれば価格は下落するなど、需要と供給の変化で、時々刻々WTIの価格は変動する。
 しかし、WTIの価格は、原油に対する需要と供給だけで決まるわけではない。NYMEXには、すでに説明したように、投機マネーが大量に流入、原油の需要と供給とは無関係にマネーゲームを展開し、その利ざやで利益を上げようとする。その結果、原油が本来の価格からかけ離れた水準に決められてしまい、世界経済に様々な悪影響を与えることも多いのである。
 「これで大金持ちだ!」。油田を掘り当てるという夢を実現したジェームズ・ディーンは、原油で真っ黒になった顔で叫ぶ。原油は現代社会に欠くことのできないエネルギー源であり、巨万の富をもたらす可能性を秘めている。日々激しい値動きを見せるWTIの価格の裏側には、映画のジェームズ・ディーンのように、一獲千金を狙った投機家たちがうごめいているのである。

著者情報

エコノミスト

玉手義朗

たまて よしろう

1958年生まれ。筑波大学卒。東京銀行、マニュファクチュラース・ハノーバー銀行などで、外国為替取引に携わる。その後、テレビ局で経済部デスクなどを経て、現在はフリー。著書に『円相場の内幕』(1995年、集英社)、『経済入門』(共著、2004年、ダイヤモンド社)がある。

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