ユニバース化は映画をどう変えるか?
杉山すぴ豊(映画評論家/作家)
アメコミ(アメリカン・コミック)のマーベル・コミックから誕生した実写映画のヒーローたちが、それぞれの作品の枠を越えて一同に会した『アベンジャーズ』は世界的に大ヒットしました。この快挙を皮切りに、別々の作品の世界観を共有させる“ユニバース化”がハリウッドを中心に映画界に広がっています。この動向は映画の世界に何をもたらすのでしょう?
“ユニバース化”とは何か?
例えば、今年(2017年)の夏に公開された『スパイダーマン:ホームカミング』ではスパイダーマンとアイアンマンが共演しました。この冬公開される『ジャスティス・リーグ』では、バットマンとワンダーウーマンらがチームを組んでいます。
このように、昨今のハリウッド映画では、本来別々の映画の主人公たちが共演する物語作りがブームになっています。これが成立するのは“シェアード・ユニバース”という方法を用いているからです。シェアード・ユニバースとは、文字通り“シェア(共有)された世界観”の意味。バラバラに見えていた物語や主人公が、実は同じ世界観の中にあった、つまり「世界観=ユニバース」を「共有=シェアードしていた」というコンセプトの元、物語を設計しているのです。シェアード・ユニバースを略して“ユニバース化”と言ったりもします。
先のスパイダーマンとアイアンマンの例で言うと、この二人の映画はマーベル・スタジオという映画会社が製作しています。二人とも元々はマーベル・コミックスという出版社のキャラクターであり、マーベル・スタジオはその出版社から発展的に生まれた映画会社です。マーベル・スタジオはスパイダーマン、アイアンマンの他にもヒーロー映画を世に送り出していますが、これらの作品は全てマーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)という同じ世界の中の出来事とされています。なので、MCUに属するキャラクターが同じくMCUに属する他のヒーロー映画にゲスト出演したり、堂々と共演(競演)したりします。その究極の例が『アベンジャーズ』。この作品では、それぞれ個別に映画の主役を張っていたアイアンマン、ハルク、マイティ・ソー、キャプテン・アメリカが集まるのです。
マーベル・コミックと並ぶアメコミ界の雄DCコミックスも、親会社である映画会社ワーナー・ブラザースと一緒に自社のバットマンやスーパーマン、ワンダーウーマンの映画化に着手。彼らもMCUに対抗してDCエクステンデッド・ユニバース(DCEU)構想を立ち上げ、こうしたヒーローたちが共演する『ジャスティス・リーグ』へとつながります。(「DCEU」という名称はメディアが付けたもので、DCが付けた正式名称ではないようです)。
かなり大胆というか壮大な試みですが、実はアメコミ自体が、コミック誌でずっと同じことをやっていたのです。というのも、アメコミは著作権とキャラクターの権利を作者ではなく出版社が持っているので、自社のキャラクターを自由に共演させてきました。また、あるコミックで脇役としてデビューさせたキャラを主役として独立させることもしてきました。前者をクロスオーバー、後者をスピンオフと言うのですが、こうした手法をうまく使うことで読者の興味を引き続けてきたのです。そして、クロスオーバーとスピンオフをやりやすくするために「ヒーローたちは全て同じ世界=シェアード・ユニバースにいる」としました。マーベル・スタジオはこのアメコミの文化を映画作りにも持ち込んだのです。これが映画『アベンジャーズ』の大成功を生みました。それを受けて、アメコミ・ヒーロー映画以外にもこのシェアード・ユニバース(=ユニバース化)を意識した作品が、今続々とハリウッドで生まれつつあるのです。
ユニバース化に似ている世界観の広げ方として、スピンオフがあります。映画『X-MEN』シリーズの人気キャラ、ウルヴァリンを主人公にした独立シリーズは、まさに『X-MEN』シリーズのスピンオフです。『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』は『ハリー・ポッター』の物語の70年前の時代の魔法使いを描いた作品で、これもスピンオフです。こうした展開も含めてユニバース化と言っても間違いではないのですが、ただこれらはあくまで、基軸となる作品があって、そこから前後左右に話を広げていった感じです。対して、最近のハリウッド作品のユニバース化は、まず大きな世界観を先に思い描いて、そこから様々な作品を生み出していく、という構築の仕方です。MCUは『アイアンマン』からスタートしましたが、続く『インクレディブル・ハルク』も、『マイティ・ソー』も、『キャプテン・アメリカ』も、『アイアンマン』の続編でも、スピンオフでもありません。作品的には『アイアンマン』とは関係ない。でも、同じ世界観の中での話であり、だから彼らが共演する『アベンジャーズ』が可能になったのです。
ハリウッドで広がるユニバース化
今年公開された『キングコング:髑髏島の巨神』『ザ・マミー/呪われた砂漠の王女』はまさにユニバース化を想定した映画なのです。
まず『キングコング』は、実は2014年に公開されたハリウッド版『GODZILLA ゴジラ』と世界観を共有しています。『GODZILLA』に登場した、巨大生物の脅威を探し出す「モナーク」という政府特務機関が『キングコング』にも登場するのです。そして、同作のラストでは、本国で2019年公開予定の『GODZILLA』の続編『ゴジラ:キング・オブ・モンスターズ(原題/GODZILLA: KING OF MONSTERS)』への伏線が語られました。さらにこの流れに乗って、2020年に『ゴジラvsキングコング(原題/GODZILL vs.KONG)』が公開される予定です。この怪獣たちが登場する世界観は“モンスターバース”と呼ばれています。
一方『ザ・マミー』では、物語の中核となるミイラ怪人の他にも、この世にはまだまだ伝説のモンスターたちが存在することが作中で語られます。こうした闇の勢力に対抗するため「プロディジウム」という秘密組織があり、その研究所には明らかにドラキュラのものと思われる牙のある頭蓋骨や、半魚人らしき怪物の手の標本が存在します。『ザ・マミー』以降、こうしたモンスターをテーマにした映画が続々と作られる予定で、こちらは“ダーク・ユニバース”という世界観で展開していきます。『ザ・マミー』の冒頭では、製作したユニバーサル・ピクチャーズのロゴに続いてダーク・ユニバースのロゴが表示されます。そう、同社はかなり本気でダーク・ユニバースを立ち上げようとしていました。
この他にもM.ナイト・シャマラン監督のスリラー映画『スプリット』は、同監督作品の『アンブレイカブル』と世界観がつながっており、次回作『グラス(原題/GLASS 2019年予定)』は『スプリット』と『アンブレイカブル』の両方の続編になると発表しています。また、アクション映画『ジョン・ウィック』シリーズでは、その世界観から新たな別の物語を立てる構想をしており、これらもユニバース化と言えます。
ユニバース化が成立するためには、各作品の権利者が共通である必要があります。例えば、キングコングやゴジラのハリウッド映画化権はレジェンダリー・ピクチャーズが持っており、モンスターバースはレジェンダリー・ピクチャーズのプロジェクト。ダークユニバースを立ち上げるユニバーサル・ピクチャーズは、元々モンスター映画の権利をたくさん持っており、このフレームで過去作を順次リメイクしていく試み。プロデューサーも務めるシャマラン監督のケースは、全部が自分の作品です。ユニバース化のもとに新たな作品を開発していくこともあれば、自分や自社が既に持っている、似たようなコンテンツをユニバース化してまとめることもあるのです。
邦画でユニバース化は成立するか?
著者情報
映画評論家/作家
杉山すぴ豊
すぎやますぴゆたか
広告会社のシニア・クリエイティブ・ディレクターとして、企業CMやテレビ番組のポスターなどに関わるほか、『ガメラ2 レギオン襲来』『ガメラ3 邪神〈イリス〉覚醒』の製作にも携わった。アメコミ映画評論の一人者で、『アイアンマン』や『ダークナイト』シリーズなど、いくつものヒット作のパンフレットにも寄稿している他、雑誌『ユリイカ』や『映画秘宝』などへも寄稿。
動画サイト「dora Online Video Trend Media」で「すぴ豊のアメコミ道場」(http://do-ra.org/tag/supidojo/)を、出版情報サイト「BOOKSTAND」で「杉山すぴ豊の、アメキャラ映画パラダイス」(http://bookstand.webdoku.jp/cinema/sugiyama/)を連載中。個人ブログ「MARVEL VS Hollywood」(https://supi.owned.media/)も開設。アメコミ映画の最新情報を紹介する他、トークショーや上映イベントなども行っている。