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ゲイカップル、代理出産に挑む(2)

「子どもがほしい」気持ちを諦めない

増原裕子(株式会社トロワ・クルール代表取締役)

東小雪(LGBTアクティビスト)

(構成・文/濱野ちひろ)

ゲイカップル、代理出産に挑む(1)から続く。

アメリカ代理出産事情

みっつんさんとリカさんは、リサーチの末にアメリカの代理出産エージェンシーを選んだ。「メキシコやタイ、インドのエージェンシーも調べた上で、アメリカを選びました。今の時点でアメリカが良いと思われた理由は、他国に比べて法整備がされているということです。金額的な面でいうと、アメリカ以外の国の方が圧倒的に安いのですが、そこにはやはり理由があります。なかには経済的に恵まれない女性が、貧困から脱するために代理母になるケースがあります。そして彼女たちを守る法律もしっかりと整備されているわけではない。万一、妊娠と出産によって体調を崩しても保険をかけて貰えていないために大変な目に遭うこともあるようです。僕たちは、自分たちの幸せのために誰かが不幸せになるという状況だけは生みたくなかった。アメリカは州によっても法律が違いますので一概には言えませんが、少なくとも商業的サロガシーを認めている州においては、代理母と生まれる子の権利が守られているんです。また、エージェンシーも代理母のリクルート方法などについて詳細な情報を公開しています。僕たちが支払っている金額には、エージェンシー費やクリニックへの治療費はもちろん、代理母や卵子提供者への補償と保険代があります。また、各種書類作成の際、間に立って代理人として交渉する弁護士費用(代理母側・卵子提供者側、依頼側双方)なども依頼者である僕らが負担します」

――みっつんさんとリカさんはアメリカのエージェンシーを通して、代理母の協力を得て子どもを持とうとチャレンジしていますね。代理出産について、お二人はどのような意見をお持ちでしょうか。

 私は、数年前まで個人的には代理母による妊娠出産にあまりポジティブなイメージを持てなかったんです。やはりセンセーショナルでショッキングな報道のされ方が多かったですし、女性の貧困問題と結びついている印象が拭えなかったんです。ところが、2015年の6月にニューヨークに行ったとき、代理出産で二人のお子さんを持たれたゲイの方とお会いして、考えが変わりました。ゲイだと気づいたときに諦めてしまった、家庭という夢を実現できて本当に幸せだと彼は言っていました。

増原 素直に自分たちと重なったよね。

 とはいえ、彼の話では世界の代理出産ビジネスはまだまだ問題をはらんでいる、と。みっつんさんもおっしゃっていますが、国によっては法整備が不十分ですし、女性の搾取が著しい場合もある。だからこそ慎重にエージェンシーを選ぶことがもっとも大事だと、ニューヨークの男性は話していました。アメリカのエージェンシーは、代理母のリクルーティングに際して厳しい条件があり、一定の年収があること、パートナーのサポートがあること、実子をひとりは生んでいること、といった条件を設けています。その分、費用がかかるようですが、細かく規定を設けることで、代理出産を安全なものにしようとしているのだと思います。

ビジネスか、搾取か

――インドでの事例ですが、リクルーターがスラム地域に赴き、経済的な問題を抱えた女性や家族を探し出して代理母にならないかと説得するケースがあります。貧しい女性にとっては、代理出産で得られる報酬は他の仕事とは比べ物にならないくらい高額なため、このビジネスに魅力を感じる人は多いといいます。

増原 人身売買に近い、グレーゾーンにある事例ですね。

 そういったケースは人権問題として看過できないと思います。それをしなければ貧困から抜け出せないから代理母をする、というのはその人自身の選択と言えないと思うからです。

増原
 ただ、どこまでが良くどこからが悪い、という線引きはとても難しいと思います。アメリカのエージェンシーには、困窮している女性は登録できない。だから貧困問題の解決策として代理母をしているわけではない、というロジックが成り立つわけですが、とはいえ、やはり「代理母をしたおかげで車が買えた」といった話を耳にするのも事実です。

 一方で、イギリスでは商業的サロガシーが禁止されており、原則的に対価をもらって代理母になることはできない。ボランティアならできます。

増原
 とはいえ、では、無償で代理母をお願いすることが正しいのか。現実的には、妊娠から出産までは10カ月もの時間がかかります。妊娠期間に仕事を休むこともあるでしょうし、出産に際して自分の命の危険すら冒すこともあります。そのような行為に対して、対価を払わないでいいのか。これだけの時間とエネルギーを使うのだから、対価はあって当然だと私は思います。

 ただ、じゃあその対価が500万円ならいいとか、逆に40万円では搾取だとか、金額で線を引くのは相当難しいですよね。

増原
 そのあたりはどう考えたらいいのか、はっきりした答えはまだ私たちにも出せていません。代理出産とは、家族や命を作るお手伝いをしてその対価を貰う行為だというふうに、極めてドライに言ってしまうこともできる。ただ、現時点では、ある一部の国では貧困問題や搾取の問題が絡まっている段階なので、割り切れないところはあります。

 最低限できることは、利用者の側がしっかりとしたリテラシーをもって、適切なエージェンシーを選ぶことではないでしょうか。こういったことを考えても、ゲイカップルが子どもを持とうと思った時のハードルがいかに高いかを感じます。彼らは代理母の協力を得なければ子どもを持てないのは事実で、そのためにクリアにしなければならない問題がとても多い。具体的には金額の問題もありますよね。妊娠出産に至るまでの経済的負担は、私たちよりも圧倒的に大きいです。

生殖補助医療と経済力

増原 今私はシリンジ(針のない注射器)を使って妊娠を試みる、言ってみれば非常に原始的な方法で妊活をしています。シリンジ代が1本300円くらい、それから排卵日を調べるために病院に卵胞のサイズを測りに行っているのですが、それが1回7000円程度。AMH検査卵巣年齢検査卵巣予備能検査)も一度しましたが、それが8000円程度。今まで、妊活のためにかけたお金は全部合わせて5万円程度です。この方法を今私がとっているのは、国内の病院での生殖補助医療の対象が基本的に既婚の異性カップルに限られているからです。医療的介助がないので、安全性についてもデメリットはあります。なおかつ、シリンジ法で実際に妊娠したレズビアンカップル、異性カップルは周囲にもいるので、妊娠に有効なのは間違いないのですが、もちろん確実というわけではありません。とはいえ、みっつんさんたちがチャレンジしている代理出産に比べると、経済的負担は比較にならないほど低いです。ゲイカップルが子どもを持とうと思うとき、なによりもまず、経済力が必要なのは言うまでもありません。

 もちろん、ゲイカップルだけが子どもを持つのにお金をかけるということではありません。異性のご夫婦でも不妊に悩む方々のうち、経済的に豊かな人ほど生殖補助医療をどこまで活用するかの選択肢は広がるわけですから。私たちふたりに関していえば、現状、あまりお金がかかっていないです。ただ、時間はかかっています。

――ところで、日本では生殖補助医療や第三者が関与する生殖技術についての立法がなされてきませんでした。代理出産に関する法律は存在しません。しかし国内の不妊治療施設では、卵子提供や代理出産などは一部の例外を除いて提供されていません。ほとんどの人が、海外に渡航して代理出産を依頼しているのが現状です。

 興味深く思うのは、法律がないうちに違法でないなら卵子提供や代理出産をやってみよう、という国々がある一方で、日本はまったく逆に進んできたことです。法律がないならやらない、という方向に進むんですよね。

増原
 お国柄なのかな、と思いますね。自民党は生殖補助医療の法律案を出していますが、これまでもまとまらないできました。結局いつも産科婦人科学会のガイドラインに従っている形なんです。ただ、生殖医療の技術は今後も進展していくことは間違いないと思いますので、丁寧な議論を重ねた上で、必要な法整備がなされていくことを期待しています。

子どもの国籍、戸籍、親権は?

著者情報

株式会社トロワ・クルール代表取締役

増原裕子

ますはら ひろこ

1977年、神奈川県横浜市生まれ。株式会社トロワ・クルール代表取締役、LGBTコンサルタント、LGBT研修講師。慶應義塾大学文学部卒業、慶應義塾大学大学院フランス文学修士課程修了。在学中にパリ第3大学(新ソルボンヌ)へ留学。在外公館(ジュネーブ)、会計事務所、IT会社勤務を経て現職。雑誌『日経ビジネス』『日経ビジネスアソシエ』『日経ウーマン』(ともに日経BP社)などメディア掲載多数。LGBTとアライを対象にした日本初のオンラインサロン「こゆひろサロン」運営。著書に『ふたりのママから、きみたちへ』『レズビアン的結婚生活』(共著。ともに2014年、イーストプレス)、『同性婚のリアル』(共著。2016年、ポプラ社)『女どうしで子どもを産むことにしました』(共著。2016年、KADOKAWA)。

LGBTアクティビスト

東小雪

ひがし こゆき

1985年、石川県金沢市生まれ。元タカラジェンヌ。LGBT研修講師。企業研修、講演、テレビ・ラジオ出演、執筆など幅広く活躍中。テレビ「私の何がイケないの?」(TBS)、「ビートたけしのTVタックル」(テレビ朝日)、「ハートネットTV」(NHK Eテレ)、「みんなのニュース」(フジテレビ)、「モーニングCROSS」(TOKYO MX)などメディア出演多数。2013年、東京ディズニーシーで初の同性結婚式を挙げ国内外で話題に。2015年、渋谷区パートナーシップ証明書交付第1号。著書に『なかったことにしたくない 実父から性虐待を受けた私の告白』(2014年、講談社)、『ふたりのママから、きみたちへ』『レズビアン的結婚生活』(共著。ともに2014年、イーストプレス)、『同性婚のリアル』(共著。2016年、ポプラ社)『女どうしで子どもを産むことにしました』(共著、2016年、KADOKAWA)。ブログ「元タカラジェンヌ東小雪の『レズビアン的結婚生活』」を発信中。

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