ゲイカップル、代理出産に挑む(1)
(構成・文/濱野ちひろ)
LGBTアクティビストとして活躍する東小雪さんと、公私ともにパートナーとして支える増原裕子さんカップル。2015年に晴れて渋谷区パートナーシップ証明書も得たお二人は現在、新たな家族をつくるべく「妊活」に挑戦中。
お二人のように、「産める性」同士のレズビアンカップルは自力で「妊活」できるけれど、ゲイカップルが家族を得る道はより困難なはず。代理出産に挑戦中の、みっつんさん、リカさんというゲイカップルの体験談を通して知った共通点と相違点、そして考えたこと、感じたことを語っていただきます。
ゲイカップルも家族が欲しい!
――同性カップルが子どもを持つということについて伺いたいと思います。お二人も現在、妊活に取り組んでいらっしゃいますが、最近、新たな発見があったとか。
東 はい。先日、ゲイカップルとして子どもを持つための準備をしている、という方とお目にかかる機会がありました。日本人のみっつんさんと、スウェーデン人のリカさんといって、国際結婚をしていらっしゃるお二人です。みっつんさんからお話を伺ったところ、目が開かされる思いがしたんです。
【みっつんさんとリカさんはスウェーデンの法律で同性婚し、現在はロンドンに暮らしている。おふたりは現在、子どもを持ちたいと願い、実現に向けて挑戦中。具体的には、第三者から卵子提供を受けてカップルどちらかの精子と受精させ、卵子提供者とは別の代理母(サロゲートマザー)に受精卵を妊娠・出産してもらうという代理出産(サロガシー)の方法だ。みっつんさんとリカさんのカップルは熟考を重ねたうえでアメリカの代理出産エージェンシーを通してこの方法を実現させようとしている】
――みっつんさんからもお話を伺いました。レズビアンカップルの妊活と、ゲイカップルの場合とでは共通点もあれば異なる点もあり、考えさせられる内容だという印象です。
増原 妊娠できる可能性がある体かそうでないかというバイオロジカルなところで、やはりレズビアンカップルとゲイカップルとでは子どもを持つまでの過程が違ってきますよね。みっつんさんのお話を聞いたときの最初の印象は、ゲイカップルは私たちより大変だ、ということでした。大変だろうな、とは以前から思っていましたが、実際にお話を聞くと想像を超えて大変だった。
東 レズビアンカップルには子どもを持っている人がこれまでにも少なからずいて、私たちのよき先輩になってくれています。でも、ゲイカップルで子どもを持っている人というのは、圧倒的に少ない。自分たちが子どもを持とうとしたときに、ロールモデルになってくれる家族が見当たらない。それはとても大変なことだと思います。
増原 私たちも、「子どもを産もう」と思うまでには紆余曲折がありました。小雪さんと一緒に悩んだり、話し合う中で、レズビアンカップルで素敵な家庭を育んでいる方々の姿を目にする機会に恵まれ、背中を押されました。
東 二人のお母さんが子どもたちを愛し育てていて、「早くお風呂に入りなさいよ~」と子どもに声をかけている。そこで私たちも一緒にご飯をごちそうになったり。そういう経験って大きいんですよ。私はそのとき、ふと、自分たちの家庭が想像できた。想像ができないものには、なかなかなれない。だから私たちはそういう意味では幸運だったと思います。
増原 周りのゲイカップルを見渡したとき、「僕たちは子どもは持てないから」と言います。ネガティブな言い方でもなく、軽く、当たり前のように言う。それは「最初から子どもは持てない」と思わざるを得ないからですよね。でも、レズビアンカップルと話すと「子どもは持てる。あきらめなくてもいい」と積極的な意見を多く聞く。
東 私自身、高校生の時に自分は女の子が好きなんだと気が付いたとき、「私は結婚も家族も子どもも持てない」と思いこんでいました。でも、それから時が経って、今は世界的に同性婚が認められる方向へ向かっている。できないと思っていたこともできるようになってきている。同性婚は法律の問題で、出産は法律のみならず生殖医療という技術にも関わる問題ですが、「できない」と思いこんでいたことがいつか可能になるとすれば、それはいいことなのではないかと思います。
なぜ子どもを欲しいのか?
【「僕はたくさんの甥や姪に恵まれていて、昔から子どもが好きなのはわかっていたんです。兄や姉の家庭を見て、自分も子どもを育てられたらいいなと思ったことは何度もありますが、当然のように、とうの昔にそんな願いは捨てていました」とみっつんさんは言う。「家庭を持てるかもなんて、期待すらしていなかった。でも11年末にリカに初めての姪ができたんです。その経験がリカには大きかったようで、少しずつ考え始めたんです」。とはいえゲイカップルが子どもを持つのは簡単ではない。「とことん話し合い、リサーチし、結論を出すまでに2年以上かかりました。様々なワークショップにも参加して、自分が親になるとはどういうことか、ということを突き詰めました。こういった経験は、同性カップルならではだと思います。考え抜かなければ子どもを持つことができない。“できてしまった”ということがあり得ないので、自分自身にしっかり向き合ってから行動を起こすことになるんです」】
――なぜ子どもを欲しいか、という問いかけは、誰にも簡単に答えられるものではないと思います。みっつんさんとリカさんも、東さんと増原さんも、そこは何年もかけて考えてらっしゃいますね。
増原 “なぜ”と問われると、それはいまだに私たちにもわからないんです。でも、それは異性愛のカップルであれ、誰であれ、おそらく同じではないでしょうか。ただ、私たちは子どもが生まれた後、どう育てていくかについてはすごく真剣に考えています。
東 子どもにとって、自分が人工授精で生まれたのかセックスで生まれたのかという受精に至る経緯よりも、両親がどのような思いでその子を産み、愛し、育てているかを伝えることのほうが大切だと思います。私たちは生まれてくる子どもに対して「心からあなたを望んで、苦労もして、あなたを待っていたんだ」と100%言える。育っていく過程において、子どもが必要とする情報は必ず与えるし、生物学的な父親ともかかわりを持ち続けることにしています。
増原 同性カップルが子どもを持つまでに考え抜くことは、「なぜ自分が産みたいのか」というよりも「どのように幸せな家庭を築いていくか」と言えるかもしれません。
妊娠、出産の「自然」「不自然」って?
――妊活について公にされていますが、批判を受けることはありますか。
増原 あります。「不自然な妊娠出産だ」という意見がやはり多いです。ただ、生殖補助医療がこれだけ発達している現在、妊娠出産について何が自然で何が不自然なのかという議論は、線引きがしにくい。男女のセックスでの自然妊娠だけを認める、という立場なのであれば、体外受精(IVF)も顕微授精も不自然ということになってしまう。
東 現在、体外受精児は、出生児約24人に1人ほどの割合で生まれているという統計があります(日本産科婦人科学会「倫理委員会・登録・調査小委員会報告 体外受精・胚移植等の臨床実施成績及び登録施設名」15年9月)。不妊治療をしている女性はとても多い。日本では60年以上前からAID(非配偶者間人工授精)で赤ちゃんを授かる方もいらっしゃいます。子どもの作り方、でき方に関して、今は様々なお手伝いの段階があります。
増原 1980年代に、日本でも体外受精が技術として現れたとき、大騒ぎになりました。でも、今はもう生殖補助医療として支持され、騒ぐ人はいません。同性カップルが子どもを持とうという行為はまだまだ認知されていませんし、技術面で言うと代理出産もまだ一般的ではありませんが、やはり「慣れ」の問題はあって、そのうち当たり前になっていくのかもしれません。
――批判する側の「不自然だ」という意見の根底には、生殖補助医療への懐疑のみならず、異性の両親が自然であり、同性の両親は不自然だという固定観念があるのでしょうか。
東 そうかもしれません。というのも「子どもがいじめられるだろうからやめておきなさい、子どもがかわいそう」「同性愛者の苦労は、お二人で留めておいたら?」という批判もされるからです。
増原 そういった批判は、「いじめられるかもしれない」という仮定に基づいているだけなので、真に受けないようにしています。
東 そういった固定観念が差別やいじめを助長していると思います。
増原 2015年のNHKの調査では、2600人のLGBTのなかで100人近くが「子どもがいる」と答えたんですよ(NHK「LGBT当事者アンケート調査」15年)。ほとんどがレズビアンの子どもではないかとは思いますが、それにしても100人のLGBTが人の親なんです。それを「かわいそう」「いじめられる」と思うことのほうが、おかしいと思います。話は少しずれるけれど、「自然」とされる異性カップルにも、虐待問題が起きたりしているわけで……。お父さんとお母さんがいればそれだけで幸せなのか、と考えてしまいます。
東 みっつんさんがおっしゃっていたことなんですが、「新しい命を授かるためにどれだけ医療的介入があったとしても、最終的には男性も女性も、何もできない」。私はその言葉を聞いたときに本当に腑に落ちたんです。たとえ採卵できて受精卵ができて胚移植しても、それが胎内で着床して育っていくかどうかは、誰にもどうにもできないことなんですよね。医療的介入で受精にいたるまでのお手伝いはできても、着床するかどうかは祈るほかない。
増原 さらに言えば、着床しても流産の可能性もある。
著者情報
株式会社トロワ・クルール代表取締役
増原裕子
ますはら ひろこ
1977年、神奈川県横浜市生まれ。株式会社トロワ・クルール代表取締役、LGBTコンサルタント、LGBT研修講師。慶應義塾大学文学部卒業、慶應義塾大学大学院フランス文学修士課程修了。在学中にパリ第3大学(新ソルボンヌ)へ留学。在外公館(ジュネーブ)、会計事務所、IT会社勤務を経て現職。雑誌『日経ビジネス』『日経ビジネスアソシエ』『日経ウーマン』(ともに日経BP社)などメディア掲載多数。LGBTとアライを対象にした日本初のオンラインサロン「こゆひろサロン」運営。著書に『ふたりのママから、きみたちへ』『レズビアン的結婚生活』(共著。ともに2014年、イーストプレス)、『同性婚のリアル』(共著。2016年、ポプラ社)『女どうしで子どもを産むことにしました』(共著。2016年、KADOKAWA)。
LGBTアクティビスト
東小雪
ひがし こゆき
1985年、石川県金沢市生まれ。元タカラジェンヌ。LGBT研修講師。企業研修、講演、テレビ・ラジオ出演、執筆など幅広く活躍中。テレビ「私の何がイケないの?」(TBS)、「ビートたけしのTVタックル」(テレビ朝日)、「ハートネットTV」(NHK Eテレ)、「みんなのニュース」(フジテレビ)、「モーニングCROSS」(TOKYO MX)などメディア出演多数。2013年、東京ディズニーシーで初の同性結婚式を挙げ国内外で話題に。2015年、渋谷区パートナーシップ証明書交付第1号。著書に『なかったことにしたくない 実父から性虐待を受けた私の告白』(2014年、講談社)、『ふたりのママから、きみたちへ』『レズビアン的結婚生活』(共著。ともに2014年、イーストプレス)、『同性婚のリアル』(共著。2016年、ポプラ社)『女どうしで子どもを産むことにしました』(共著、2016年、KADOKAWA)。ブログ「元タカラジェンヌ東小雪の『レズビアン的結婚生活』」を発信中。