レズビアンカップル、妊活する(2)
(構成・文/濱野ちひろ)
子どもはセックスではなく話し合いで生まれる
――家族を作るとき、血のつながりを重視しますか?
増原 いえ、私は全くそういった考え方はないんです。ただ、特別養子縁組は婚姻関係にある男女の夫婦にのみ認められるものですから、私たちにはできません。もしもその選択肢があれば、私自身はそれも含めて検討したかったのですが、そもそもそれは選べないので、人工授精をして自ら妊娠・出産しよう、と思うようになりました。
東 私ももちろん、養子縁組は素晴らしいと思います。家族の定義とは、本当のところ血のつながりではないと私は思っています。しかしその一方で、保守的な金沢に育ち、血のつながりを重視しがちな価値観を内面化している自分に気づかされることもあります。家族って何だろう、と探りながら歩んでいるので、自分自身の変化も含めとても面白く感じます。
増原 子どもを持ちたい、育てたいという気持ちは一致しているのですが、妊娠や出産に対する感じ方はちょっと違うんです。私は、産んでもいいし産まなくてもいい、と思ってきたタイプです。どうしても産みたいとこだわっていたわけではないんです。
東 私は、やっぱりせっかくなら妊娠・出産も経験してみたい、と思うタイプです。どんな女性も「産みたい」と考えているかといえばそうではないのと全く同じで、レズビアンである私たちもそれぞれ違う。
増原 私は今、単純に「子どもがほしいな」って思います。そこにあまり明確な理由はない。それは男女のカップルでもきっと同じですよね。「こういう理由で子どもがほしい」って、妊娠・出産に臨むわけでは必ずしもないと思う。
東 うんうん。子どもが持ちたいと思う気持ちには、異性カップルでも同性カップルでも、きっと大きな違いはないはず。ただ、男女のカップルと私たちが決定的に異なるのは、「おめでた婚」があり得ないことだね。
増原 そうだね。
東 だから、同性カップルの間の子どもは「セックスで生まれる」というよりも、「話し合いで生まれる」。
増原 子どもが生まれるまで、私たちも長い時間を掛けて議論して、なおかつ精子提供者ともとことん話し合う必要があるからね。
東 多くの男性たちのお話を伺う中で、精子提供に対する考え方も一人ひとり様々なことが分かったよね。
増原 女性の身体を持つ私たちにとっては、勉強になることも多かったです。中には献血感覚で精子提供を考える人もいる。「こんな僕の精子でよければ」と、人助けとして提供する。でも生まれる子どもにはパパとは呼ばれたくないし、父親だという感覚は全然ない。
東 その一方で、精子を提供する以上、自分の子どもが生まれてくるんだと強く感じている人もいたね。
増原 いろんな人と話してみて、「私は精子を持っている人の考え方が全然分かっていなかった」と本当に思いました。
東 私は、卵子提供と精子提供は随分違う問題だとも感じました。女性の場合、1泊以上の入院をして麻酔を掛けて手術して卵子を取り出す必要があり、体にも負担があります。卵子の数には限りがありますが、精子は日々生産される、ということもやはり大きな違い。女性が卵子提供を考える時、「献血感覚」とはやはり思わないのではないでしょうか。卵子提供と精子提供は、同じように見えて大きな差があるんだな、と感じましたね。
法律上は他人という厳しいハードル
――家庭を持つ上で最も難しいと感じることは何ですか?
東 同性カップルにとっての最大の問題はやはり法律面です。妊娠・出産のバイオロジカルな部分では、今までお話しした通りの方法で解決できるんです。子どもを授かるか授からないかは、異性カップルでも不妊で悩む方々は多いですし、私たちばかりが苦労しているとは考えていません。それに、そもそもゲイカップルの方が、子どもを持ちたくても自分自身で妊娠することができませんから、より大変でしょうし……。

増原 レズビアンカップルで子どもを産み育てている人たちを、私たちは20~30組は知っています。ロールモデルが既に数多くいるんです。その一方で、代理母出産で子どもを授かり、子育てをしているゲイカップルにはまだ日本では会ったことがありません。彼らの悩みは深いと思います。
東 法律面での重要課題は、具体的には共同親権です。私たちは共同親権を持ちたいと思っていますが、現状では無理なんです。
増原 まず私が子どもを出産できたとすると、私とその子の間には当然ながら自動的に親子関係が発生します。しかし小雪ちゃんとその子は他人のままです。また、精子提供者の男性と私が婚姻するわけではないので、子どもは非嫡出子となります。
東 男性には認知をしてもらわない方針で考えていて、それは、相続が発生するのを避けるためです。
増原 ですから私は非嫡出子の子どもを持つシングルマザーという枠組みの中に入ることになります。
東 裕子さんの産んだ子どもは私たち二人の子どもなのですが、私自身がその子と法律上は他人である、ということが一番問題です。子どもの立場が不安定になってしまいます。
増原 もしも私が先に死んでしまったら、子どもはどうなってしまうのだろう? 小雪ちゃんと引き離されてしまうのだろうか? それがとても不安です。でき得る限り、公正証書などで自衛手段を取るしかないと考えています。ところで、2013年の冬にある興味深い判決が出ましたね。FTM(生まれたときの身体は女性であるが性自認が男性)の方が女性と結婚し、第三者の精子提供によるAID(非配偶者間人工授精)で子どもを設けたのですが、そのFTMの男性が父親として認められたのです。FTMの方ですから生物学上はもともと女性。でも戸籍を男性に変えている。つまり、そのカップルの間に精子がないことは明らかなのですが、戸籍上は男女なので、婚姻関係が認められ、父親としても認められたということなんです。
増原 私たちの場合は二人とも女性として生きていて、レズビアンカップルであることをカミングアウトしている。私たちは同性カップルだから、結婚できず、親権の問題の解決が難しい。
東 つまり、まずは日本でも同性婚が認められるようにならないと、話は進まないんです。
増原 法律を変えていくのは確かに大変なことです。けれど、近年LGBTの当事者たちのカミングアウトが増えています。当事者の顔が見えることが、やはり大切だと思う。その積み重ねが社会を動かし、法律を動かしていくことになるはずだから。一気には変わらないでしょうが、少しずつ前進していけたら、と思います。
東 もう一つ、私が後々のことで気になっているのは、子ども自身が行う認知請求のこと。
増原 そうだね。私たちは精子提供者の男性には、認知をしないでいただくことを決めごとにしようと考えているのですが、とはいえ、子ども自身の権利として認知請求をすることが認められています。
東 私たちが精子提供者の男性に迷惑や負担を掛けたくないと考えていても、子ども自身が生物学上の父親である男性に対し、自分を認知してほしいと請求した場合にはそれを止められません。それが将来的にトラブルを生む可能性はゼロではないのです。ですから、精子提供者の男性にもやはり覚悟を強いてしまう面があります。
増原 問題は山積みではあるのですが、でも、前に進まなければ妊娠も出産もできないので。だから恐れるよりもまずはチャレンジしてみようかなって思っています。
同性カップルに子どもが生まれても、それがフツーの社会に
――お二人で新しい家庭を築いていくことについて、今、率直にどんな気持ちですか?
増原 私は特別な気負いもないんですよ。それは今まで通りで、とにかく私たちらしく生きていこうと思っているだけなんです。私たちが願うことは、LGBT当事者に限らず多くの人が望んでいることと共通する部分があると実感していますし、私たちが一歩一歩これからも進んで行くことには意味があるのかな、と思っています。
東 子どもが生まれたら、私たちは公表するつもりです。最初はニュースになるかもしれませんね。こういったことがいつか当たり前になり、報道されない日が来るといいな、と思っています。
増原 私たちは、これまでもいろんなことと闘ってきたので、子どもができて仮にそれで何か大変なことがあったとしても、きっと闘えると思っています。
東 うん。私たちは立ち向かえるってことを、もう知っているから。
増原 そうだね。
東 仲間がいるということ。周りの人たちに私たちの考え方を知ってもらえていること。問題意識を共有したり、理解してもらえたりしていること。私たちに子どもが生まれたら、お祝いをしてくれる人たちが周りにたくさんいること。
増原 それに、万一にっちもさっちもいかなくなったとしても、きっと周りの人が飛んできてくれるって分かっている。
東 こういう連帯感や安心感って、私たちに限らず、どんな人にも必要だよね。セクシュアリティの問題とは別に、子育てに悩む人たちは日本にたくさんいる。異性カップルも、シングルマザーも、シングルファザーも、私たちも、みんなで分かち合っていくべき問題だと思います。昔は、完璧にならなきゃという思いが私は強過ぎたけれど、最近変わってきたんです。たくさんの人に助けてもらえるような関係性を築いていく方が、ずっと大事なんだって。何かあれば助け合えるつながりを持っていることが、新しい家族を作るためにも必要だと思います。
増原 私たちはお母さんが二人いる家庭になるわけだから、例えば息子が生まれたとして、子どもが思春期になったときに気軽に相談できるような男性の先輩やお兄さん、おじさんのような存在もいてほしいよね。
著者情報
株式会社トロワ・クルール代表取締役
増原裕子
ますはら ひろこ
1977年、神奈川県横浜市生まれ。株式会社トロワ・クルール代表取締役、LGBTコンサルタント、LGBT研修講師。慶應義塾大学文学部卒業、慶應義塾大学大学院フランス文学修士課程修了。在学中にパリ第3大学(新ソルボンヌ)へ留学。在外公館(ジュネーブ)、会計事務所、IT会社勤務を経て現職。雑誌『日経ビジネス』『日経ビジネスアソシエ』『日経ウーマン』(ともに日経BP社)などメディア掲載多数。LGBTとアライを対象にした日本初のオンラインサロン「こゆひろサロン」運営。著書に『ふたりのママから、きみたちへ』『レズビアン的結婚生活』(共著。ともに2014年、イーストプレス)、『同性婚のリアル』(共著。2016年、ポプラ社)『女どうしで子どもを産むことにしました』(共著。2016年、KADOKAWA)。
LGBTアクティビスト
東小雪
ひがし こゆき
1985年、石川県金沢市生まれ。元タカラジェンヌ。LGBT研修講師。企業研修、講演、テレビ・ラジオ出演、執筆など幅広く活躍中。テレビ「私の何がイケないの?」(TBS)、「ビートたけしのTVタックル」(テレビ朝日)、「ハートネットTV」(NHK Eテレ)、「みんなのニュース」(フジテレビ)、「モーニングCROSS」(TOKYO MX)などメディア出演多数。2013年、東京ディズニーシーで初の同性結婚式を挙げ国内外で話題に。2015年、渋谷区パートナーシップ証明書交付第1号。著書に『なかったことにしたくない 実父から性虐待を受けた私の告白』(2014年、講談社)、『ふたりのママから、きみたちへ』『レズビアン的結婚生活』(共著。ともに2014年、イーストプレス)、『同性婚のリアル』(共著。2016年、ポプラ社)『女どうしで子どもを産むことにしました』(共著、2016年、KADOKAWA)。ブログ「元タカラジェンヌ東小雪の『レズビアン的結婚生活』」を発信中。