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「レズビアン」として生きる

LGBT、セクシュアル・マイノリティーと社会

東小雪(LGBTアクティビスト)

(構成・文/濱野ちひろ)

 皆さんは「LGBT」という言葉を知っていますか? またセクシュアル・マイノリティーについてどれくらい関心を持っていますか? 性別は「男」と「女」だけではありません。「性」はまた、揺れ動くものでもあります。自分の「性」と向き合うことで「自分らしく生きる」ことに気づくこともります。多様な「性」について考えてみませんか。

女性が女性を好きになること

 高校2年生のころ、私には仲の良い同級生がいました。頭が良くてスポーツも得意、誰に対しても優しい彼女はクラスの人気者でした。私たちは石川県の中高一貫の女子校に通っていて、テスト前には学校帰りにカフェで一緒に勉強するのが習慣でした。ある時、いつものようにカフェの片隅で教科書を広げていると、何だか彼女の様子がおかしい。そわそわと落ち着かず、勉強が手に着いていないんです。「どこか具合でも悪いの?」と心配して尋ねると、彼女は突然ぽろぽろと涙をこぼし始め、「実は」と口を開きました。「道ならぬ恋をしているの」と。「えっ、どういうこと!? もしかして、既婚の男性と恋愛しているの?」おろおろする私に、彼女はこう告白してくれました。「私、女の子と付き合っているの」
 私にとって、それはとても衝撃的な出来事でした。「女の子が女の子と恋愛をする」ということが、現実にあり得ることだとその時初めて気づかされたのです。世間には同性愛というものがあることも、ゲイの人たちがいることも、レズビアンという言葉も知ってはいました。しかし16歳の私にとっては、それはテレビや書籍などメディアの世界の話に感じられ、どこか遠い存在でした。少なくとも自分の身近には、同性愛者であることをカミングアウトして暮らしている男性も女性もいなかったからです。
 彼女の涙を見てハッとした私は、二つのことに気づきました。一つは、「女の子が女の子を好きになることは、本当にあるんだ」ということ。もう一つは、私自身の初恋についてです。
 クラスで同級生たちが好きな男の子の話をして盛り上がっているのを聞いても、私はなぜかぴんとこなかった。「オクテなだけで、もう少し大人になったら私も男の人を好きになる日が来るのかなあ?」と考えることもありました。でも、その日彼女の告白を受けて、私は自分の気持ちがわかったんです。「あ、私も女の子が好きなんだ」と。
 親友の彼女への思いは、友情というよりも恋愛感情だったのです。もっと近づきたいな、一緒にいたいなという気持ち。メールの返事が来ないとやたら心配になったり、近づくとドキドキしたり。でも相手が女の子だから、それを「恋愛」と名づけることができなかったのです。しかし、この日を境に理解できるようになりました。私の初恋の相手はつまり、目の前で泣いている彼女でした。悲しいことに、私はその恋に気づいた瞬間に失恋しているのですが(笑)。というのも、彼女は私ではなく他の女の子と恋に落ちていたわけですから。失恋と同時に私は自分のセクシュアリティーに気づき、また、同じセクシュアリティーを持つ仲間を得ることになったのです。
 セクシュアリティーを自覚した私がまず思ったのは「どうしよう! 結婚できない。子どもも産めない!」ということでした。親不孝だと感じたし、これからどうやって生きていけばいいのだろう、と途方に暮れたのを覚えています。私たちは、男性と女性が恋愛するのが当たり前とされる社会に生きています。男女は恋愛し、結婚し、家庭を持って子どもを授かり育てるのが一般的なこととされています。そのジェンダー規範があまりにも強固過ぎて、私自身もその価値観を内面化していました。きっと私の初恋の彼女も同じだったのでしょう。だから、女の子に恋をしてしまったことを「道ならぬ」と表現し、泣いてしまったのです。
 私が自分自身のセクシュアリティーをカミングアウトし、元タカラジェンヌであるという経歴を公表したのは、2010年、25歳の時です。それまでは、自分自身がレズビアンであると公にできないこと自体が大きなストレスでした。別に悪いことをしているわけではないのに、言ってはいけない気がするのはどうしてだろう?と感じていました。
 カミングアウトをしないで生活するのは、実はけっこう大変です。たとえば、会社で働いているとしましょう。デスクの脇に家族の写真を置いたり、雑談で恋人の話をしたりするのは、一般的な光景ですよね。でも、カミングアウトをしていない同性愛者は、気楽にそんな話に入っていけない。休日にどこへ誰と行ったよ、という何げない会話にも詰まってしまう。プライベートの話を一切出さないでいると、とっつきにくい人と思われて人間関係もスムーズにいかない。秘密を抱えたままでいるというのは、不便なものなんです。

LGBTだけじゃない多様な性を考えてみる

 18歳で宝塚音楽学校に入学し、それからはレッスン一色の日々でした。小さいころからバレエを習い、舞台女優を目指していた私にとって、宝塚はまさに憧れの場所。とにかくレッスンに打ち込む日々だったので、このころは自分自身のセクシュアリティーの問題や、友情や恋愛などはすべて棚上げしていました。宝塚では下級生が上級生に疑似恋愛的に憧れることはあっても、本気で恋をすることなど考えられませんでした。舞台の上では、女性同士で恋愛物語を演じているのに、女性同士の現実の恋はタブーなのです。ちょっと不思議ですね。
 2005年に花組で初舞台を踏みました。しかし、体調を崩してそのまま復帰できなくなり、06年に退団することになりました。
 2010年に「元タカラジェンヌでレズビアン」とカミングアウトしてからは、LGBTアクティビストとして活動を始めました。LGBTとは、L=レズビアン、G=ゲイ、B=バイセクシュアル、T=トランスジェンダーの頭文字を並べたもので、セクシュアル・マイノリティーの総称として使われています。レズビアンとは女性の同性愛者、ゲイは男性の同性愛者、バイセクシュアルは両性愛者であり、この三つの言葉は性的指向の違いを示しています。トランスジェンダーは生まれた時に割り当てられた性別と異なる性別として生きる人々をいい、性同一性障害者を含む場合もあります。12年に電通総研が約7万人を対象に行った調査によると、日本におけるLGBTの割合は5.2%となっています。およそ20人に一人ですから、学校でいえばクラスに一人か二人はLGBTの人がいることになります。
 私が自分自身のセクシュアリティーを自覚したのは16歳の時でしたが、気づきがいつあるかは人それぞれです。幼稚園の時からわかっていたという人もいれば、私のように思春期で気づきを迎える人、異性と結婚した後で実は自分が同性愛者であったことを認識する人、妊娠・出産を経てから違和感に気づく人、中高年になってから変化する人……と本当に多様です。自分の恋愛対象が女性なのか男性なのかを定められないで揺れ動いている人もいますし、これまでずっと異性愛者だと思っていたのに、ある時、同性を好きになる人もいます。
 セクシュアル・マイノリティーと呼ばれる人々は、レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダーだけではありません。他にも様々な人々がいます。
 生まれ持った性別にとらわれず、男性でも女性でもなく中性、無性、あるいは両性の自認を持つ人々を「Xジェンダー」といいます。体は女性でも、性自認は「中性」というケースもあれば、見かけは男性でも性自認は「両性」ということもあります。
 また、「他者に対して恋愛感情も性的欲求も抱かない」という人もいて、そういった方々を「Aセクシュアル」といいます。恋愛感情は抱くが性的欲求はない人たちは「ノンセクシュアル」。異性愛者でも同性愛者でも、ノンセクシュアルの人はいます。
 他にも、生まれつき男女両方の特徴を備えていたりして、身体的に男女の判別がつきにくい人々を「インターセックス(性分化疾患)」といいます。インターセックスの人々が、自分自身の性別をどのように捉えるかは様々ですし、さらに性的指向も人それぞれです。
 強固なジェンダー規範のもとに生まれ育った私たちは、つい性を固定したものとして捉えがちです。しかし、実際にはセクシュアリティーは一生の中で揺れ動く可能性のあるものです。だからこそ、それを表す言葉も多様なのです。
 高校生のころの私には、自分自身のセクシュアリティーを十分に説明する言葉がありませんでした。しかし大人になるにつれ情報を得て、言葉を知り、自分のことを理解できるようになりました。多くのセクシュアル・マイノリティーの人々が、このような経験をしていることと思います。たとえば「私はレズビアンじゃないけど男性のことも好きにはなれないみたいだし……。何だかモヤモヤするなあ」と思いながらも、ジェンダー規範に従った女性として生活せざるを得ない状態で過ごしてきたのだが、「Aセクシュアル」「ノンセクシュアル」という言葉を知って初めて「ああ、そういうことだったのか」と納得するというケースもあるでしょう。言葉や情報を知らないために、自分のセクシュアリティーを理解できず苦しみ続けることもあるのです。
 また、「男性はこうあるべき、女性はこうあるべき」という固定観念がもしも存在しない社会であれば、セクシュアリティーについて一つひとつ説明する必要さえないはずだともいえると思います。

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著者情報

LGBTアクティビスト

東小雪

ひがし こゆき

1985年、石川県金沢市生まれ。元タカラジェンヌ。LGBT研修講師。企業研修、講演、テレビ・ラジオ出演、執筆など幅広く活躍中。テレビ「私の何がイケないの?」(TBS)、「ビートたけしのTVタックル」(テレビ朝日)、「ハートネットTV」(NHK Eテレ)、「みんなのニュース」(フジテレビ)、「モーニングCROSS」(TOKYO MX)などメディア出演多数。2013年、東京ディズニーシーで初の同性結婚式を挙げ国内外で話題に。2015年、渋谷区パートナーシップ証明書交付第1号。著書に『なかったことにしたくない 実父から性虐待を受けた私の告白』(2014年、講談社)、『ふたりのママから、きみたちへ』『レズビアン的結婚生活』(共著。ともに2014年、イーストプレス)、『同性婚のリアル』(共著。2016年、ポプラ社)『女どうしで子どもを産むことにしました』(共著、2016年、KADOKAWA)。ブログ「元タカラジェンヌ東小雪の『レズビアン的結婚生活』」を発信中。

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