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ヒーロー番組の「悪」は変わったのか?

時代の変遷と悪の組織の相関を読み解く

鈴木美潮(読売新聞東京本社メディア局編集委員)

 この国では、どうやら「悪」が栄えているようだ。「月光仮面」の時代から21世紀の現在まで、ヒーロー番組の中では多種多様な「悪」が暗躍を続けている。前回2013年4月12日に公開した「昭和の特撮ヒーローが伝えたかったこと」で日本を「八百万(やおよろず)のヒーローの国」と記したが、八百万のヒーローが存在する理由は、同じ数の「倒さねばならぬ悪」が存在しているからにほかならない。ヒーローが時代を映す鏡なら、悪の組織はいったい何を映しているのだろうか。

1970年代の空気、色濃く

 日本でもっとも有名な悪の組織は「仮面ライダー」(1971~73年)に登場する「ショッカー」だろう。誤解されがちなので説明すると、ショッカーとは「キー!」と叫ぶ黒タイツ姿の男の名ではなく、世界征服をたくらむ悪の秘密結社の組織名である。
 ショッカーを読み解くキーワードの一つは「公害」だ。70年の大阪万博が輝かしい未来を歌い上げる裏側で、当時の日本では公害が深刻化していた。放送が始まった71年4月3日の「読売新聞」の調査では、多くの地方自治体首長が公害対策を急務としてあげている。
 川の水面が洗剤の泡で白く覆われ、光化学スモッグ注意報で校庭に出ることが禁じられる日も多かった時代に、ショッカーは毒ガス散布や殺人スモッグなど、公害を連想させる作戦を多く実行した。そこには高度経済成長の影の部分が映し出されているように見える。
 もう一つのキーワードは「過激派」である。あさま山荘事件や連続企業爆破事件を起こす極左グループが形成されたのが70年代初頭。平和なはずのアパートの隣室で実は「学生さん」が爆弾を作っている、そんな危うい時代の空気がショッカーには漂う。
 組織の本拠地は基地ではなく、極左暴力集団と同じように「アジト」と呼ばれた。ヒルゲリラという名の怪人も登場したし、怪人クラゲウルフは過激派さながらにラッシュ時の新宿駅西口を襲おうとした。先日亡くなった同シリーズの平山亨・元東映プロデューサーによると、当時「東京爆破作戦」という仮題の原稿を所持した脚本家が過激派と間違えられ、警察に拘束された「事件」もあったそうだ。

怪獣たちの「事情」

 仮面ライダーに先駆け、66年から放送が始まった「ウルトラマン」。敵は怪獣だが、実はウルトラシリーズにはごく一部の例外をのぞき、組織的な悪は登場しない。怪獣は個別の理由で宇宙から襲来したか、地球で発生した生物である。
 特筆すべきは、悪の側の事情が描かれるエピソードが多いことだ。
 バルタン星人は核爆発で故郷の星を失ったために地球への移住を希望しており、当初は侵略の意思はなかった。態度を豹変させたのは、20億体以上という星人の数に、防衛組織の科学特捜隊が動揺し、移住拒否の姿勢に転じてからだ。いわば「宇宙難民」であるバルタン星人側からすれば、移住を拒否する地球側が非道となる。
 自国に見捨てられた宇宙飛行士が怪獣化したジャミラや、地球人の核実験で星を破壊されたギエロン星獣(「ウルトラセブン」〈1967~68年〉に登場)なども「ワケあり怪獣」であり、三分の、いや、それ以上の理があるように見える。
 異星の生命体との遭遇が夢物語ではなくなってきた今、もしバルタン星人が移住を求めてやってきたらどうするのか。画質の粗い60年代の映像の中で不気味に笑うバルタン星人は、私たちにそんな問いを突きつけてくる。

異彩放つ「死ね死ね団」

 強烈な個性を放つのが「愛の戦士レインボーマン」(72~73年)の敵「死ね死ね団」だ。彼らの目的はなんと「日本人皆殺し」なのだ。
 第二次世界大戦で日本軍の被害にあった外国人で構成され、宗教法人・御多福会を隠れみのに偽札をばらまいてハイパーインフレを起こし、食糧難を発生させるという、今見ても背筋が寒くなるような作戦を遂行した。戦没者の遺骨引き揚げ運動を行っていた原作者・川内康範の独自の哲学が色濃く反映された異色の組織である。

悪の組織に「あの事件」が落とした影

 75年の「秘密戦隊ゴレンジャー」から続くスーパー戦隊シリーズ。今も続く38年間の歴史の中で、大きな転換点は90年代半ばに見える。
 95年の「マシン帝国バラノイア」(「超力戦隊オーレンジャー」)は人間を奴隷にしようとたくらむ「常識的」な悪だ。ところが、翌96年の「宇宙暴走族ボーゾック」(「激走戦隊カーレンジャー」)は、自分たちの娯楽のために地球を花火のように爆発させるという、いささかふざけた目的の集団となる。怪人の巨大化アイテムも、呪術や機械ではなく「芋羊羹(いもようかん)」と、文字通り人を食った設定だ。
 背景には、95年に発生したオウム真理教による地下鉄サリン事件の影響が透けて見える。悪の組織の作戦を超越した犯罪が現実に発生した結果、戦隊の敵は奇抜な方向に舵(かじ)をきるしかなかったのではないか。
 実際、シリーズ初期によくあった邪神をあがめる宗教的組織は以後、登場しなくなる。幼稚園バスジャックや貯水池に毒を投入する作戦も姿を消した。凶悪犯罪が多発し、簡単な理由で人命が奪われる現代は、戦隊界で「悪」が存在することが難しい時代なのかもしれない。

ぼやけるヒーローと悪の境界

 仮面ライダーの敵も変質した。平成ライダーシリーズには、ショッカーのような組織は存在しない。シリーズ第一作に登場したのは、特殊な言葉を操るグロンギ一族(「仮面ライダークウガ」〈2000~01年〉)。無差別連続殺人を「ゲゲル」(ゲーム)と呼ぶ彼らが何者で何が目的なのかは最後まで解明されなかった。
 「仮面ライダー555(ファイズ)」(03~04年)はライダーがウルフオルフェノク(狼怪人)でもあり、逆にオルフェノクも変身ベルトをつければライダーになるという設定だった。現在放送中の「仮面ライダーウィザード」では、ファントム(怪人)は普通の人間の絶望の中から誕生する。ヒーローと悪の境界はぼやけ、物語は混沌としてきている。

きちんとした「悪」であってほしい

 1980年代後半の東西冷戦終結により、東西を隔て、自分側の体制を「正義」と見なす鉄のカーテンは消滅した。さらに、2001年のアメリカの9.11同時多発テロ事件とその後のアメリカのイラク侵攻は、人々の心に「正義」というものへの疑念を生じさせた。疑念はヒーロー界にも及び、生じた迷いによって正義と悪の同質化が進んできた感がある。
 確かに「正義」は一つではない。強者の「正義」がうさん臭いことも歴史が証明している。
 しかし、「正義」はなくても、「善いこと」と「悪いこと」は確かにある。「人を殺してはいけない」「弱いものいじめはいけない」という規範は、時代が変わっても不変なはずである。
 ヒーロー番組は、この国に生まれた多くの子どもが人生で初めて目にする本格的な映像作品だ。だから、その中の「悪」にはもっとシンプルでしっかりした存在であってほしい。子どもたちに、善いことと悪いことをきちんと教えてほしい。大人になって迷った時に、指針となるものを心の中に作ってほしい。悪の側にそんなことを求めるとは、いささか逆説的かもしれないが。
 こんな時代だからこそ、善悪のはっきりしない消化不良の「悪」ではなく、ブレない憎々しい「悪」に頑張ってもらいたいと心から願っている。

著者情報

読売新聞東京本社メディア局編集委員

鈴木美潮

すずきみしお

法政大学からボストン大学への留学を経て、1988年、ノースウエスタン大学大学院にて政治学修士号を取得。89年、読売新聞社入社。政治部、文化部などを経て現職。大の特撮ファンとして知られ、「日本特撮党党首」を名乗る。日本テレビ「イブニングプレスdonna」や「PON!」パネリストなど、テレビやラジオにも出演した。特撮ヒーロー番組の出演者やスタッフを招いてのトークライブイベント「340 presents」を主催するほか、「よみうり大手町ホール」の企画プロデューサーとしても活動している。

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