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昭和の特撮ヒーローが伝えたかったこと

過去のヒーローたちが残してくれたメッセージを思い返す

鈴木美潮(読売新聞東京本社メディア局編集委員)

 日本は八百万(やおよろず)の特撮ヒーローの国である。月光仮面が「疾風(はやて)のように」現れて以来、数え切れないヒーローが弱いものを救い、子どもたちに勇気と強さ、そしてやさしさを教えてきた。これほど多くのヒーローを生み出している国は世界でも日本だけだ。現在放送中の『獣電戦隊キョウリュウジャー』や『仮面ライダーウィザード』(テレビ朝日系列)へと受け継がれる特撮ヒーロー文化。礎を築いた昭和のヒーローたちは時代の何を映し、何を伝えてきたのか。

「正義の味方」にあらず

 「ヒーロー」=「正義の味方」。この定義を疑う人は、まずいないだろう。
 では、1971年に誕生した『仮面ライダー』は正義の味方か? 答えは、主題歌最後に流れるナレーションの中にある。仮面ライダーがショッカーに改造された改造人間であることを説明するナレーションには、正義という言葉は一切出てこない。ライダーが戦う理由は、正義ではなく「人類の自由のため」だ。
 これこそが、少年時代に第二次世界大戦を経験したスタッフのこだわりだった。「正義という言葉だけは使いたくなかった。ヒトラーみたいな独裁者だって『正義』を唱えるから」とは、同シリーズの平山亨・元東映プロデューサーが折に触れて口にする言葉だ。自分が絶対的な正義と思うからでも、ショッカーが異形の集団だから戦うのでもない。人々が平和な暮らしを享受する自由を奪おうとするから、仕方なく戦いを挑む。それが仮面ライダーなのである。

泣きながら戦う

 仮面ライダーの戦いは泥くさい肉弾戦だ。負けを喫せば、スポ根顔負けの特訓に臨む。
 第31話「死斗!ありくい魔人アリガバリ」(71年10月30日放送)では仮面ライダー2号・一文字隼人が怪人アリガバリに苦戦、ライダーファンの少年が重傷を負ってしまう。「ライダーが負けた」と病院のベッドで譫言(うわごと)を言う少年を見て自責の念にかられた隼人は「戦う自信がない」と戦意を喪失。それに対し「おやっさん」こと立花藤兵衛は平手で隼人の頬を打ち、「たった一人の子どもの願いも叶えてやれずに、やれ正義だの人類を守るだの、でかい口をたたくな」と言うのだ。
 この言葉に発奮した隼人は特訓で新必殺技を編み出し、怪人に勝利。仮面ライダーの姿のまま病院に現れ、病室の窓越しに少年に勝利を報告、「君も頑張れ」と激励する。
 なんとも人間くさく、そして現実の生活と地続き感のあるヒーローではないか。傷を負ってのたうち回り、少年に勝利報告をするライダーの面には表情がないはずなのに、悔しさや悲しさ、喜びがにじみ出ている。
 ちなみに、最近ではライダーの面の目の下にある黒い部分は、原作の故・石ノ森章太郎が涙をイメージしたとの解釈もあるとか。言われてみれば、同じく石ノ森ヒーローであるキカイダーにもイナズマンにも、目の下に涙のようにも見える一筋のラインがある。実際、石ノ森ヒーローは、孤独に耐え、殴った拳の痛みに耐え、まさに泣きながら戦っているように見える。となると、あのラインはヒーローが流す涙なのか。ご本人に伺ってみたかった。

込められたウルトラのメッセージ

 仮面ライダーに先駆け、66年から放送が始まった『ウルトラマン』。製作はカラーだが、同年の経済白書によると各世帯へのカラーテレビ普及率はわずか0.3%。だから、カラータイマーの色が変わると、「青から赤に変わった」というナレーションがわざわざ流された。
 ウルトラシリーズには、軍拡競争やベトナム戦争、差別など時事を反映した作品が多い。
 中でも『ウルトラセブン』第42話「ノンマルトの使者」(68年7月21日放送)は出色だ。海底に先住民族・ノンマルトがいたという情報がもたらされ、ウルトラセブンは「もし本当に先住民族がいたなら、自分は地球人という侵略者の協力をしていることになる」と悩む。返還前の沖縄からやってきたシナリオライターの故・金城哲夫がこの作品を書いたことを知る時、作品に込められた深いメッセージに思いを馳せずにはいられない。
 もちろん、怪獣ブームに熱狂した当時の子どもたちがそうしたメッセージすべてを理解できていたとは言い難い。しかし、蒔かれた種は時を経て花を咲かせ、やがて実を結ぶ。
 『ウルトラマンA(エース)』最終回(73年3月30日放送)で、宇宙に去りゆくAが語った「優しさを失わないでくれ。弱い者をいたわり、互いに助け合い、どこの国の人達とも友達になろうとする気持ちを失わないでくれ。たとえ、その気持ちが何百回裏切られようと。それが私の最後の願いだ」と語りかける名台詞が、Aの声を担当した納谷悟朗の訃報がもたらされた日、ツイッター上で拡散されていくのを見て、改めてそう実感した。

国際婦人年に誕生

 38年間、ほとんど切れ目なく続いているのがスーパー戦隊シリーズだ。これほど長期間続く1年間完結の連続ドラマは、戦隊以外では大河ドラマだけである。
 同シリーズの大きな特徴は、それまで男性の補佐役にすぎなかった女性を初めて本格的に戦うヒロインとして描いたことだ。奇しくも、初代『秘密戦隊ゴレンジャー』の放送がスタートした75年は国際婦人年であり、イギリスで保守党に初の女性党首となる故・マーガレット・サッチャーが誕生した年であった。
 シリーズは38年間の世相の変化を写し出す。映画『サタデー・ナイト・フィーバー』(78年公開)でディスコブームが起きればヒーローも踊る『バトルフィーバーJ』(79年)、84年のロサンゼルス・オリンピックに向け新体操ブームが起きれば新体操技で戦う『大戦隊ゴーグルV(ファイブ)』(82年)と、折々の流行を取り込み、進化を続けてきた。
 中でも異色なのは『超新星フラッシュマン』(86年)だ。81年に初来日した中国残留日本人孤児をモチーフにしているのである。宇宙にさらわれた子どもたち=フラッシュマンが、地球に親探しに来る。しかし、長い宇宙暮らしのため、次第に体に地球に対する拒否反応が出てしまい、親と巡り会えぬまま宇宙に去る。当時のニュースでたびたび流れた、親に会えず肩を落として帰国していく孤児たちの姿が、そこには重ねられた。

「憎むな殺すな赦しましょう」

 第二次世界大戦後初の国産テレビ特撮ヒーローは、58年に放送が始まった『月光仮面』である。川内康範が世に送り出したヒーローは「憎むな、殺すな、赦(ゆる)しましょう」を掲げていた。
 放送が始まった2月24日の読売新聞を見ると、「中学生の暴力グループ全校のガラス千枚割る」「中学生4人組高校生を切る」「銀座で4人刺される グレン隊行きずりのケンカ」という見出しが、まだ豊かさには遠い時代の日本の、すさんだ子どもたちの様子を伝えている。
 現代の感覚では「赦す」は甘いように思えるが、時代背景を重ねてみると、荒れる子どもたちを赦し、寄り添い、そして導くヒーローが必要だったことが見えてくる。
 時は流れ、平成の日本は月光仮面の時代と比べれば経済的にはるかに豊かになった。それでも、社会にはあの頃とは違う種類の不安が渦巻いている。そんな時代の閉塞感を破り、人の心を支えてくれるヒーローは、キョウリュウジャーかウィザードか。あるいは、全く違う新ヒーローが現れるのか。「呼べば必ず答えてくれる」はヒーローのお約束だ。時代の声に応え、どんなヒーローが現れてくるのか、これからもヒーローの「進化」を見守りたい。

著者情報

読売新聞東京本社メディア局編集委員

鈴木美潮

すずきみしお

法政大学からボストン大学への留学を経て、1988年、ノースウエスタン大学大学院にて政治学修士号を取得。89年、読売新聞社入社。政治部、文化部などを経て現職。大の特撮ファンとして知られ、「日本特撮党党首」を名乗る。日本テレビ「イブニングプレスdonna」や「PON!」パネリストなど、テレビやラジオにも出演した。特撮ヒーロー番組の出演者やスタッフを招いてのトークライブイベント「340 presents」を主催するほか、「よみうり大手町ホール」の企画プロデューサーとしても活動している。

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