「AKB48」というビジネスモデル
吉田就彦((株)ヒットコンテンツ研究所代表取締役)
AKB48はどうしてヒットしたのか? その理由をあきらかにしながら、日本式アイドルのつくり方が世界に通用するビジネスモデルになりうるのかを探る。
アイドル仕掛け人、秋元康
「AKB48」は、1980年代に大ヒットした「おニャン子クラブ」の仕掛け人の一人である、秋元康プロデューサーが、2000年代に改めて仕掛けた、女性集団アイドルグループである。
そのコンセプトは「いつでも会いに行けるアイドル」。たった7人のお客様からスタートしたという秋葉原の専門劇場でのライブで、ファンが毎日見に行って、彼女らの成長を見守れるというしくみだ。
おニャン子クラブは、フジテレビというマスメディアが、メディアの仕掛けとして成功させた「メディア自前のアイドル」であるのに対し、AKB48は、「場」が生んで、「場」に付随した「コンシューマー自前のアイドル」と言える。
ちなみに、その間の1990年代に、大ブレークした「モーニング娘。」は、メディアをかけ登ろうとする少女たちのプロ意識と、それを応援するテレビを使った、インタラクティブ性で成立したアイドルで、メディア自前からコンシューマー自前への移行期アイドルととらえることができる。
ヒットアイドルの法則
それらのヒットサイクルは、多摩大学大学院教授でシンクタンク・ソフィアバンク代表の田坂広志の著作「未来を予見する『5つの法則』」で述べられた理論、「世界は、あたかも、螺旋階段を登るように、発展する。」のように、ほぼ10年サイクルで、いまAKB48のヒットが現れたのである。
80年代のおニャン子クラブのヒットは、アナログのメディアミックスが生んだアナログ時代のヒットであり、90年代のモーニング娘。は、デジタル第1世代が支えたネット時代のアイドルである。
それに比べてAKB48は、Web2.0のブログ時代のヒットで、完全にデジタルを自分のものにしたデジタル第2世代のアイドルと言える。それらのファンがちょうど10年のサイクルで入れ替わり、まったく新しい社会現象として、女性集団アイドルグループのヒットを生んだのである。
なぜAKB48はヒットしたのか?
AKB48のヒットの理由を分析してみよう。第一に、そのコンセプト「いつでも会いに行けるアイドル」に象徴される、出現した「シーン」の新しさがある。秋元プロデューサーが取材などでも発言しているように、そもそも下北沢などの小演劇やライブハウスでの、若者の盛り上がりの中から、アイドルが育成できないかという発想からスタートしたもので、これまでのテレビ中心のアイドルシーンに革命的な新しさを生んだのだ。しかも、ファン層のデジタル第2世代は、テレビよりもケータイやゲームを好む。
第二は、その場が秋葉原であること。クール・ジャパンと言われるコスプレなどが流行っている秋葉原は、ある意味では、現在唯一、アイドル活性の下地がある「場」である。タレントショップが多い原宿などの消費の「場」ではなく、声優イベントやゲーム関連のアイドルイベントの発信地である秋葉原を、発信の「場」に選んだのは秀逸の選択である。
しかもその劇場は、若者の消費の象徴「ドン・キホーテ」の上階にあり、デジタル・コミュニケーション感度の高い若者が多く集まり、その人だかりはカッコウの話題となった。
第三が、デジタル第2世代の発信力。「場」からの発信というコンセプトが具現化するのは、自分に近いアイドルたちの成長物語を直に体感できるというリアリティーである。特に、秋葉原に集まる若者たちはデジタル・リテラシーが高く、ブログ、SNS、2ちゃんねるなどのデジタルツールを日常的に駆使するので、そのデジタル・コミュニケーション力を使って、盛んにそのリアル体感を発信したと考えられる。
また、秋元プロデューサーも劇場に足しげく通いファンと対話し、ネットに書き込まれたことなども参考に、プロデュースに生かしたわけだから、彼らの参加意識のモチベーションが上がるのは当然で、「場」が起こした熱の盛り上がりをデジタルが広げヒットをけん引した。
日本式ヒットアイドルのつくり方
このAKB48に象徴されるような、日本のアイドル製造ビジネスモデルは、実はすでに広く海外に浸透している。あのスーザン・ボイルを生んだイギリスの公開オーディション番組「ブリテンズ・ゴット・タレント」は、まるで30年前の「スター誕生」(日本テレビ)であり、イケメンで動きがカッコイイ、アメリカの男性POPグループ「バックストリート・ボーイズ」は、まさにジャニーズ系である。
これらの日本的なアイドル製造ビジネスの方法論のひとつとして、先述したクール・ジャパンのように、日本のサブカルチャーが世界的に人気となっている今をチャンスととらえ、秋元プロデューサーがAKB48のビジネスモデルで世界に打って出るということは、自然な流れかもしれない。
2010年のパリでのジャパン・エキスポやMIPCOM(ミプコム)でのプレゼン活動が話題になったが、秋元プロデューサーはAKB48をビジネス・フォ-マットとして海外に輸出しようとしているのだ。
アルファベット3文字のスタイル「●●●48」で、AKB48と同じ楽曲を使用し専門劇場でのパフォ-マンスを行うというAKB48のビジネスモデルを、海外のパートナーに販売するという図式だ。すでにテレビ番組などでは番組フォ-マットを販売するということが日常的になってきている今、「日本の近代伝統芸能」とでも言うべき、アイドルというビジネスモデルを輸出するチャンスだととらえているのだ。
AKB48はビジネスモデルになりえるか?
筆者はそのようなAKB48のフランチャイズ・ビジネスモデルを「ディズニーランド的」ととらえている。ディズニーランドは、映画を中心に毎年さまざまなキャラクターを開発して、独自の世界観を展開するテーマパークである。まさに、研修生を含めどんどん増え続けている「KB48の個々人をキャラクターと見立てると合致する。
さらに、その「場」という存在。浦安の東京ディズニーランドという場所がブームの発火点になり、そこで1日遊ぶというディズニー世界観への体感が、さらにリピーターを生んでいる。その場に行くことが楽しいイベントとなっているのだ。同様にAKB48には帰るべき秋葉原の劇場がある。
そして、そのようなビジネスモデルをフランチャイズするシステムがある。AKB48は名古屋・栄に「SKE48」を生み、大阪・難波にも「NMB48」が展開されている。まさにAKB48の支店展開である。もちろん、これはディズニーランドのお家芸でもある。
このように、ディズニーランド的なAKB48のビジネス展開が、成功するか否かは、それこそディズニーの戦略を学ぶことが参考になる。それは、海外展開においては普遍性と地域性の融合に尽きるということだ。誰もが好きになるワールドワイドで普遍的な楽しさやワクワク感。その本質的な素晴らしさと、その国ならではの事情をどう組み上げて生かすかで、その国の文化によい意味で新鮮な驚きとなることが重要なのだ。
プロデューサーの力
筆者が提唱する「ヒット学」の“6つのヒット法則”のその2「常に新鮮な驚きがヒットを生む」ためには、フォ-マットにこだわり過ぎないこと、そんな微妙なさじ加減こそが海外でAKB48のビジネスモデルが成功するかどうかの分かれ道となる。それを行うのがまさにプロデューサーの役目であり、AKB48輸出の成功の最大のポイントは、その国々で秋元康の代わりになりえるプロデューサーを見つけられるかどうかに尽きる。ビジネス・フォーマットを販売することは簡単だが、それを成功に導くためには、やはり優秀なプロデューサー(人)が必須というパラドックスが存在する。
いずれにしても日本の芸能界の悲願であり、アニメやゲームに続く、クール・ジャパンの次世代コンテンツ産業として、大げさに言えば、国のGDPを上げる可能性を秘めるAKB48の海外進出である。成功を祈るとともに、ひとつの日本の製造業=ものつくりの姿を世界に見せるチャンスとして注目したい。
著者情報
(株)ヒットコンテンツ研究所代表取締役
吉田就彦
よしだ なりひこ
1957年生まれ。早稲田大学理工学部機械工学科卒業。ポニーキャニオンにて、音楽、映画、ビデオ、ゲーム、マルチメディアなどの制作、宣伝業務に20年間従事。「チェッカーズ」や「だんご3兄弟」のヒットを生む。退職後ネットベンチャーのデジタルガレージ取締役副社長に転職。現在はデジタル関連のコンサルティングを行うかたわら、デジタルハリウッド大学大学院教授としてヒットの研究や人材教育にも携わっている。著書に『ヒット学―コンテンツ・ビジネスに学ぶ6つのヒット法則』『アイデアをカタチにする仕事術―ビジネス・プロデューサーの7つの能力』、共著に『大ヒットの方程式― ソーシャルメディアのクチコミ効果を数式化する』など。