ラグジュアリーブランドがねらうアジア
藤岡篤子(ファッション・ジャーナリスト)
アメリカの経済誌「フォーブス」が2008年3月5日発表した2008年版世界長者番付で、10億ドル(約1000億円以上)の資産保有者1125人のうち、ロシアがドイツの59人を抜き87人と2位、4位にインド53人、5位に中国(香港を除く)42人と新興国の躍進が目立った。ラグジュアリー市場の推移もまさにそれを裏付けるかのような展開を見せている。
ラグジュアリーブランド飽和状態の日本
「アルマーニ/銀座タワー」や「ブルガリ銀座タワー」などの高層ビル(銀座は56mの高さ制限有り)の出現、「銀座メゾンエルメス」の増床などで、それ以前に出店していたシャネルやグッチ、プラダなどとともに、銀座ブランド戦争もピークを迎えている。
市場が飽和状態となってきた日本から、次第にアジア、特に中国へのシフトが目立ってきた。北京への初出店に伴って、フェンディが2007年秋、万里の長城で開催したコレクションは、およそ11億円を超す経費と見られ、フェンディを傘下に置くLVMH(モエ ヘネシー・ルイ ヴィトングループ)のこれからの中国市場への期待度の高さを示すものとして話題になった。
ファッション業界の新ターゲット
ルイ・ヴィトンの相次ぐ中国各地への出店は、1980年代の日本への上陸ぶりを思わせるスピードだ。LVMH以外でも、シャネルの上海出店、エルメスの杭州、成都への出店など、ほとんど毎月のように、大都市でのラグジュアリーブランド出店のニュースが流れる。そう言えば、コレクション時期に合わせて発行される「タイムス ファッション版」では、これから期待されるラグジュアリー市場として、中国、ロシア、インドを挙げ、国民が好きなブランドリストや購買特徴などを特集していた。
興味深い部分を引用してみよう。ゴールドマン・サックスの2004年のレポートによれば、中国は、ラグジュアリーブランド購買の世界シェア12%を占め、15年には、アメリカを抜いて、世界一の消費大国になるという予測がされている。道理で、コレクション会場に中国語が飛び交うわけだ。08年春夏のオートクチュールでは、台頭するロシアのニューリッチを意識したロシア語のプレスリリースが登場して話題になった。中国語が登場するのも時間の問題か。ちなみに、日本語のプレスリリースは一度もない。
ロシアはすでにミリオネア(大金持ち)の国で、宝石を散りばめた鉛筆、ゴールドのほ乳瓶などに関心を示す、わかりやすいニューリッチの消費性向と同時に、プライベートヘリコプターなど大物が売れている。5年後には15%のラグジュアリー市場の伸びが予測されている。インドは、25歳以下の若い消費者が急成長していて、これから3年間でラグジュアリー市場は25%の伸びが期待されているという。
マカオでのコレクション
巨大市場中国への高まる関心の中で、「ミュウミュウ」が、08年1月27日、初のアジアでのコレクションをマカオで開催した。これまで、ニューヨークで1回開催したことを除けば、ヨーロッパから外へ出たことがなかった。

パリに続いて08年春夏コレクションをマカオで開催するに当たって、これからの中国に代表されるアジアの発展への熱意と、すでにカジノの売り上げでラスベガスを抜いたマカオをあえてショーの場所に選んだことで、新生中国のイメージを重視していることをアピールした。
招待客の顔ぶれの意味するものとは
コレクションに招待されたVIPゲストは350人。上顧客や芸能人など、すべてアジアンパシフィック(極東)から。中国(北京、香港)、シンガポール、韓国、日本からそれぞれジャーナリストは10人ずつ招待された。
興味深かったのはジャーナリストたちの姿。パリやミラノのパーティーでは、カラフルで個性的なパーティードレスで華やかさが醸し出されるのだが、このパーティーでは、どの国でも無難な黒ずくめ。ジャーナリスト席の景色は真っ黒であった。個性的なデザインやカラーでパーティードレスを着こなすほど成熟していないということか。
また、最年長組が日本だとすると(編集長クラスだけが招待)、北京のジャーナリストたちは、20歳は若い年代が中心である。1980年代のパリコレクションにおける日本人の位置づけに似ている。当時はアジアから取材に来ているのはほぼ日本人だけで、ヨーロッパの取材陣に比べると格段に若く、違和感があった。
より熱狂的な市場へ
あれから、20年以上の歳月が流れ、日本はラグジュアリーブランドの成熟期を迎え、消費者は趣味や余暇など次のステップへと多様化が顕著だ。
さらに大きな、さらに熱狂的なマーケットをめがけて、ラグジュアリーブランドは日本からターゲットを移動させつつある。
著者情報
ファッション・ジャーナリスト
藤岡篤子
ふじおか あつこ
佐賀大学教育学部卒業。国際羊毛事務局を経て、1986年フジオカ事務所設立。ファッション・トレンド分析、毎シーズンの4都市コレクション取材と報告講演会・セミナーや、ファッション誌、単行本などの文筆活動を行う。