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学術系クラウドファンディング「アカデミスト」の挑戦

面白い研究を応援して、魅力的なリターンをもらおう!

柴藤亮介(アカデミスト(株)代表取締役)

(構成・文/山田久美)

面白い研究や魅力的な研究者が集まるサイト、いろいろな人がアクセスし研究を応援できるようなプラットホームをつくりたい! そうした思いから誕生した、学術研究特化型のクラウドファンディング「academist(アカデミスト)」。その狙いと特徴、今後の目標について、サイトを運営するアカデミスト(株)代表の柴藤亮介氏に話を聞いた。

学術研究に特化した日本初のサービス

 クラウドファンディングとは、クラウド(群衆)とファンディング(資金調達)を合わせた造語で、その名の通り、インターネット経由で不特定多数の人々から自分が実現したいことに対する資金を募るサービスのことです。日本では、東日本大震災後、被災者支援のためのプロジェクトが複数立ち上がり、クラウドファンディングを通して支援金が集められたことから、その名が広く知られるようになりました。
 一方、海外ではアメリカを中心にさまざまなジャンルのプロジェクトを扱うクラウドファンディングが運営されています。従来は、ジャンルにこだわらない総合型が主流でしたが、最近では特定のジャンルに特化したものも増えてきています。その中の一つに、学術研究系があります。
 私が2014年4月に立ち上げた「academist(アカデミスト)」も、国内では初となる、学術研究系に特化したクラウドファンディングです。
 クラウドファンディングでは、支援金を募る際、挑戦するプロジェクトに必要な目標金額と募集期間を設定します。支援金の額が目標金額に達しない場合でも期間内に集まった支援金を受け取ることができるタイプ(Keep it All ; KIA型)もありますが、我々が採用しているのは支援金の額が目標金額に達したときのみ受け取ることができるタイプ(All or Nothing ; AON型)です。支援者から見れば、目標金額に達したときだけ決済手続きが行われることになります。
 この場合、仮に目標金額が100万円で期間内に99万円分の応募があったとしても、目標に達していないので挑戦者は1円も受け取ることができません。しかし、条件が厳しい半面、目標金額に達するよう支援者が積極的にプロジェクトを宣伝してくれたり、「あと少しで目標に届くなら応援しようかな」という心理が働いたりするという側面があり、KIA型よりも達成率が高いという調査結果も報告されています。

「研究費獲得」と「アウトリーチ活動」の一石二鳥

 具体例の前に、「アカデミスト」を立ち上げた背景について説明しましょう。
 現在、日本における学術研究の世界は二つの課題に直面しています。
 一つは、研究者の「アウトリーチ活動」に関する課題です。近年、科学技術に対する国民の理解を深めるため、研究者には研究成果を広く社会に分かりやすく発信するアウトリーチ活動が求められています。しかし、研究者の多くは研究や教育活動に忙しく、アウトリーチ活動に時間を割いている余裕がありません。せっかく面白い研究が行われているのに、一般市民にはそれを知る機会がなかなかないのです。
 二つ目は、国(文部科学省)から支給される「科学研究費補助金(科研費)獲得のしくみ」に関する課題です。既存の科研費獲得のしくみは閉鎖的で、研究者はまず、大学などを通して文部科学省に申請書を提出し、専門家の審査を通過しなければ科研費を受け取ることができません。審査を通過するのは大変な上、利用用途が限られる、少額の研究費をすぐに使いたい場合には対応できないといった課題を抱えているのです。
「アカデミスト」には、これらの課題を一気に解決できる可能性があります。
 まず、クラウドファンディングというしくみを使って支援金を募るには、広く一般に向けて、強い説得力をもって研究内容を明確に伝える必要があります。「アカデミスト」では、挑戦者の研究内容を伝えるために文章、画像、動画を使いますが、これはまさにアウトリーチ活動そのものです。
 また、科研費の場合、それを受け取ることができる研究者は一部に限られる上、まだ予算が下りていないような新領域の学術研究分野では応募することも難しい。それに対し、「アカデミスト」であれば、支援者が「面白そうだ」あるいは「将来性がありそうだ」と感じ、「ぜひ、研究を支援したい」と思ってくれさえすれば良いので、実績のない若手の研究者であっても応募することができます。その点で、若手研究者の育成を支援し、可能性を広げるサービスでもあるといえるでしょう。
 つまり、「アカデミスト」は、アウトリーチ活動と研究費の獲得が同時に行える一石二鳥のシステムなのです。

第1弾は深海生物「テヅルモヅル」の研究

 これまで「アカデミスト」が扱ってきたプロジェクトの件数は、2016年1月末時点で22件(募集中1件含む)、合計支援額は約1700万円。目標金額への達成率は約80%です。

 研究分野は幅広く、挑戦者の多くは若手研究者で、博士課程を終えたポストドクター(ポスドク)や助教、大学院生が大半を占めますが、大学教授もいます。
「アカデミスト」初の挑戦者は、京都大学瀬戸臨海実験所の岡西政典研究員(当時)で、テーマは「深海生物テヅルモヅルの分類学的研究」でした。2014年4月10日~6月5日の募集期間で、目標金額の40万円を上回る63万4500円の支援を集めることに成功し、インターネットでも大きな話題となりました。岡西さんは私の大学院時代からの友人で、「今度、学術研究系のクラウドファンディングを始めるので、挑戦しないか」と声をかけたところ、快く応じてくれたのがきっかけです。
 テヅルモヅルに関するプロジェクトは、「アカデミスト」にとっても記念すべき第1弾ということで、一体どれくらいの支援者が集まるのか、正直言って想像もつきませんでした。しかし、非常にインパクトのある深海生物であるということに加え、岡西さんの研究に対する強い熱意が十分にサイトの閲覧者に伝わったことが、目標金額達成につながったと思います。
 このように、研究内容と研究者自身の魅力は、目標金額達成の大きな成功要因となるのですが、もう一つ欠かせないのが魅力的なリターン(見返り)の設定です。テヅルモヅルの場合、5000円の支援で「テヅルモヅルポロシャツ」、3万円支援で「テヅルモヅルの乾燥標本」というリターンを設定したのですが、研究内容に応じていかに魅力的なリターンを設定できるかは我々の腕の見せどころであり、学術研究系に特化したサービスならではの面白いところでもあります。

学術系ならではの魅力あるリターン

 リターンの設定では、研究者のもつ「専門知識」が強い武器になると感じています。キーワードは「情報」と「体験」、「オンラインからオフラインへ」です。
 例えば、目標金額30万円に対して、達成率127%(38万3360円)を記録した「太古の海洋爬虫(はちゅう)類モササウルスの眼の機構を調べたい!」プロジェクト。挑戦者である東京大学大学院理学研究科地球惑星科学専攻の博士後期課程に在籍する大学院生が、1万円の支援金に対するリターンとして、東京都上野にある国立科学博物館の古生物コーナーの解説ツアーを行い、非常に好評でした。現役の研究者に解説してもらいながら実際に展示会場を巡ることができるツアーは、恐竜好きにとっては貴重な体験となったに違いありません。私も同行させていただきましたが、非常に楽しく有意義な体験でした。
 また、目標金額130万円に対して、達成率118%(153万8455円)を記録した「南米先史社会『シカン』の発展と衰退の謎を解明したい」プロジェクトでは、約1000年前に南米ペルーで栄えた幻の都市、シカンの現地発掘調査に同行できるリターンを用意しました。支援金15万円という高額ながら(しかも同行の旅費等は自腹です)、なんと3人の支援者が現れました。
 このように、現役の研究者から直接、専門的な知識やマニアックな情報を得ることができたり、他にはない貴重な体験をできたりするリターンというのは、学術研究系クラウドファンディングならではの強みではないかと感じています。
 今後は、挑戦者主催のサイエンスカフェを開くなど、オンラインからオフラインへという流れを充実させていきたい。これは、研究者や研究分野に対するファンのすそ野を広げる活動であり、理想とするアウトリーチ活動でもあるのです。

面白い研究者が集まるプラットホームに

著者情報

アカデミスト(株)代表取締役

柴藤亮介

しばとう りょうすけ

首都大学東京大学院理工学研究科物理学専攻博士後期課程単位取得退学。専門は原子核理論、量子多体物理。2014年4月、研究費獲得のための学術系専門クラウドファンディングサイト「academist(アカデミスト)」を開設。

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