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自動運転でクルマは変わるのか

技術は実用目前、制度整備はこれから

大内明彦(モータリング・ライター)

 未来の技術と思われていた「自動運転」が現実化しつつある。メディアで取り上げられる機会も増えた。なぜクルマが自動で動くのか、そのもたらすものは何か。

事故低減、渋滞緩和に効果期待


 ドライバーによる運転操作を必要とせず、機械にすべての操作を受け持たせる「完全自動運転」の考え方は、かなり前から存在した。ここでは簡略化して自動運転と表記するが、発明以来、パーソナル性に優れる移動手段として発展を遂げてきた自動車は、絶えず動力性能や運動性能の引き上げを試みながら、同時に利便性や快適性、そして安全性の追求を図ってきた。
 自動運転の実現は、移動手段としての役割を背負う自動車が目指すひとつの到達点で、自動車の概念を根本から変える大きな変革点になるとも考えられている。
 自動運転化は、自動車を重要な移動手段のひとつとして認識した上で、交通事故低減、渋滞緩和、高齢者移動支援などに大きな効果をもたらすシステムとして着目され、日本でもITS(Intelligent Transport Systems=高度道路交通システム)の一環として政府レベルでの取り組みが行われてきたプロジェクトであった。かつては複数の省庁が関わることで一元化されていなかったが、2014年に国土交通省主導の形で再整理され、国家として本格的に臨む姿勢が打ち出されている。
 なお、自動運転の定義付けについては別表の考え方が示されている。単独機能の安全運転支援システムを基本に、それらの複合化、さらに統合一元化による完全自動運転までの技術的な難易度に従いレベルを4段階に分け、ドライバーの介在を必要とする過渡領域を準自動運転と見なしている。

「走る」「曲がる」「止まる」を自動化

 この自動運転、車両側の働きから見直してみると、自動車に必要な「走る」「曲がる」「止まる」の運動3要素に対する操作・制御を、人間(ドライバー)に代わってメカニズムやシステムが行う機能である。
 大まかな分け方をすれば「走る」はアクセルと変速の操作、「曲がる」はステアリングの操作、「止まる」はブレーキの操作となり、すでに一部自動操作が可能となっている領域もある。オートマチックトランスミッション(AT、自動変速機)や高速道路などの走行で一定速度を保つクルーズ機能などは、早い段階から実用化されたメカニズムで、いずれも変速操作をする、アクセルを踏むという「走る」ための操作を機械に任せ、自動操作としたものだ。
 乗り物を動かすための操作を自動化したものとしては、飛行機のオートパイロットがよく知られている。オートパイロットは飛行機の三次元空間での方角(進路)、高度、速度の維持・調整に関する操縦操作を自動化したもので、高度な制御系が用いられている。その意味では、三次元ではない自動車の自動操縦は簡単に思えるかもしれないが、二次元平面となる道路上という限られたゾーンではあっても、小型車から大型車、乗用車、トラックなど他の様々な車両の間を走行する混合交通のもとでは、車両のポジショニングが制約され、オートパイロットとは異なるむずかしさを抱えることになる。それだけに制御に関する要求精度が高くなり、それらに関わる装備コストを考慮すると、自動運転は理論的に可能でも非現実的なシステムと考えられていた。
 しかし、時代の変化とともに技術やコストが普遍化し、自動運転でも活用することになるいくつかのメカニズム、たとえば駐車支援システム車間距離維持システム緊急時自動ブレーキシステム車両周辺の監視システムなど、運転支援システムの一環としてそれぞれ個別に実用化され、自動運転システムの実現化が具体化してきた、というのが近況である。

開発は自律走行型が主流

 なお、自動運転システムには、車両自体に頭脳を持たせ単独で走行が可能な自律走行型と、道路周辺のインフラから走行情報の提供を受けて走る管制誘導型の2方式が考えられている。現時点では、インフラ投資に多大な費用を要すること、インフラのない道路では自動運転が使えないことなどから、管制誘導型は非効率的な方式と判断され、自律走行型が自動運転の主流となるいきさつがあった。ただ、自動運転システムの精度を引き上げる目的で、場合によっては自律走行型を主体に誘導方式型を併用することも考えられている。
 自律走行型は、誘導走行型と異なり、自動運転に関するすべての機能やメカニズムを車両側で備えなければならないため、基本的な考え方は「自車位置の検知と制御」に始まっている。つまり、走行する車両が、現在、道路(走行帯)上のどの位置にいるかを検知・判断し、本来あるべき位置に自車を保つ制御である。
 走行状態で見れば、走行帯の中央を進み、そこから外れないよう保持する制御である。この状態を基本に、これから進むべき方向や、周囲を走る他の車両との安全な速度や位置関係を決めていくことになるのだが、実はこれが複雑多岐におよぶ判断や制御を必要とするため、難易度が非常に高くなっている。

正確な自車位置検知がカベ

 実際の道路交通に照らし合わせて自動運転を考えてみると分かりやすいが、最もシンプルな状態は、信号のない平坦な直線路における単独走行となる。車両に要求される働きは、直線路であることの判断と進路を保つ制御(ステアリング操舵角調整)、走行速度を一定に保つ制御(スロットル開度調整)が必要となる。しかし、実際には完全にまっすぐで平坦な道路、常にまっすぐに走る状況はあり得ず、車両が受ける横風や突風といった外乱や路面入力、路面状態などで妨げられる直進性に対しては、状況に応じた修正作業が不可欠となる。また、道路形状(直線、カーブ)の判断には、車載カメラが捉えたセンターラインや通行区分帯のラインを方向決定の基準として利用するが、道路上や道路周辺に判断基準となる目標物がない場合には、自車位置の確認ができず、自動運転そのものが成立しなくなってしまう。
 自車位置の検出・確認には、GPS(全地球測位システム)によって得られる緯度/経度/高度(X、Y、Zの座標変換)データを地図データ上に展開して照合する方法(ナビゲーション機能の一部)もある。しかしこの方式では、位置特定に誤差が生じること、地図データの道路形状としか照合できないことなどから、有用な補助情報にはなり得ても決定情報として使用するには精度不足となる。たとえば、工事などにより一時的に道路形状が変更されていたような場合、この方法では対処ができない。

一部交通環境下では実用段階迎える

 もちろん、こうした例に限らず、不測の事態に備え、安全性確保の対策が十分以上に考えられていることは言うまでもなく、むしろ安全対策が大前提としてあり、それを満たした上で実現可能な自動運転システムの一部が実用化されてきた、というのが実際である。現在、市販車に標準、あるいはオプションで装備される運転支援システムを見れば一目瞭然だが、「走る」「曲がる」「止まる」の運動3要素については、安全性の確保が確認された上で実用化された機能ばかりである。
 現状では、自動車の走行が想定されるすべての条件・環境下での自動運転はまだ不可能な段階だが、高速道路や主要幹線道といった交通環境が想定できる場面では、ほぼ自動運転は可能な域にまで達している。
 ただし、メーカー間によって開発段階や方向性には若干の差異があり、内外主要メーカーの状況を眺めると、高速道路はそれほど時間を置かずに対応可能、停止から高速までをカバーする一般道(全車速域)の対応は非公表か、2020年以降の実用化という見通しが発表されている。一方、ヨーロッパメーカーを中心に、渋滞時の低速自動運転を開発目標としているところもある。渋滞の緩和化を図ることで、交通の流れの効率化とそれに伴う排出ガス(二酸化炭素)の低減化を意図したものである。いずれも車両単独による自動運転の成立が前提となっているが、一部インフラからの情報を併用することも視野に入れられている。
 また、自動車メーカー、電気メーカー以外に、グーグルやアップルといったIT企業も自動運転システムの開発に積極的な姿勢を見せている。
 現在の自動車は、内燃機関を主動力としながらも完全に電子制御化された状態にあり、電気モーターとの複合動力となるハイブリッドカー、完全にモーター動力となるEV(電気自動車)など、自動車に占めるエレクトロニクス/エレクトリックデバイスの重要度は非常に高いものとなっている。自動車以外、他分野の産業が自動運転や自動車の開発に乗り出せるのはこうした理由によるものだ。

課題は法律等ソフト面の整備

著者情報

モータリング・ライター

大内明彦

おおうち あきひこ

1955年生まれ。早稲田大学卒業。自動車専門誌ル・ボラン副編集長、ル・ボラン別冊編集長を経て自動車ライターとして独立。メカニズム、ヒストリーの分野で執筆活動を手掛ける一方でモータースポーツの取材活動も行う。日本モータースポーツ記者会会員。著書「日本の名車60台」(学習研究社)など。

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