imidas - 情報・知識&オピニオン

探究

サイエンス

「安全な原発」の輸出で日本は潤うのか?

原発輸出外交でこの国が得るもの、失うもの

布施祐仁(ジャーナリスト)

小出裕章(元京都大学原子炉実験所助教)

安倍政権による原発輸出に向けた「トップセールス」が止まらない。安倍晋三首相は2013年10月末、国会会期中にもかかわらずトルコを訪問。これに合わせて、トルコ政府は同国の黒海沿岸シノップに原発4基を建設する計画について、三菱重工業を含む日・仏企業連合が受注することで合意したと発表した。日本はさらに、ベトナム、ヨルダン、インド、東ヨーロッパなどへの原発輸出を目指している。福島第一原発であれだけの事故を起こしながら、それもいまだ収束の見通しすら立っていないにもかかわらず、なぜ政府をあげて原発輸出の売り込みに躍起になっているのか。
 その問題点と背景について、ジャーナリスト・布施祐仁が、京都大学原子炉実験所・小出裕章助教の見解を聞く。

「世界一」どころか「世界最悪」の原子力技術

 ――福島第一原発であれだけの事故処理が現在も継続中にもかかわらず、日本はなぜ原発輸出に力を入れているのでしょうか?

 日本の原発建設は、1990年頃からほとんど伸びていません。70年頃から90年頃までは、毎年2基のペースで原発が建設されていました。三菱重工が加圧水型原子炉(PWR)を1基、日立と東芝が沸騰水型原子炉(BWR)を交代で1基造るという歴史をずっとたどってきました。
 それが、90年代の末頃から、新規建設がほとんどゼロになってしまいました。三菱にしても、日立や東芝にしても、それまでは原発建設のために生産ラインを作って、そこに技術者や労働者を張り付けて、それで儲けてきたわけです。企業としては、それがなくなってしまうと困るので、その分を何とか海外への輸出で調達しようとしているのだと思います。

 ――安倍首相は、福島の事故の経験と教訓を生かして、「世界一安全な原発を輸出する」と話していますが…。

 福島であのようなひどい事故を起こしたにもかかわらず、「世界一の原子力技術」だなど、漫画のようだとしか言いようがありません。
 「事故の経験と教訓を生かして」と言いますが、事故原因を調べたくても放射線量が高くて現場に見に行くことすらできませんし、汚染水にしてももうどうにもならない状況です。世界一どころか、「世界最悪の原子力技術」と言ったほうがよいのではないかと思います。
 ただ、安倍首相のように、国際競争に打ち勝って経済的に成長していくことしか頭になければ、当然「今やるしかない」と思うでしょうね。
 

日本の原発メーカーに独自の技術などない

 ――一方、現在約400基超が稼働している世界の原発は、今後20年間で倍増の800基にまで増えるという試算もあり、「200兆円ビジネス」として注目されています。国際的な原発市場の状況はどのようになっているのでしょうか?

 ずっと原発を造ってきた主要なメーカーは、米国のウェスティングハウス社とゼネラルエレクトリック(GE)社、そしてフランスのアレバ社です。日本のメーカーも、加圧水型では三菱がウェスティングハウスに付き、沸騰水型では日立と東芝がGE社に付き、それぞれひたすらに技術を教えてもらいながら、これまで事業を展開してきたわけです。
 日本国内では加圧水型と沸騰水型の数はほぼ同じですが、世界の原発市場では加圧水型の需要が圧倒的です。これまで、日立と東芝はGE社に付いて沸騰水型を進めてきたわけですが、これから世界に出て行こうと思ったときに、加圧水型に転向しなければならないと気がついたわけです。そこで東芝が奇策に出て、ウェスティングハウスを2006年に丸ごと買収してしまったのです。一方、ウェスティングハウスを東芝にとられた三菱は、フランスのアレバと組んで世界に打って出ようとしています。また、日立もGE社との合弁会社を2007年に設立しています。
 これらが示しているのは、日本のメーカーは単独では原発を輸出できないということです。なぜなら、自分の技術を持っていないからです。だから、自分で作った技術を持っているウェスティングハウスやGE社やアレバと付く以外には、海外に原発を売り込むことができないのです。
 一方、米国では1979年のスリーマイル島原発の事故以降、原発の建設がストップしてしまいました。そのため、ウェスティングハウスやGE社は自前の技術は持っているけれど、生産ライン自体はすでに失っています。そういう中で、原子力産業として金儲けをしようと思えば、誰かに自社の技術に基づく原発建設を進めさせることによってパテント料で稼ぐしかありません。それを日本のメーカーにやらせようとしているわけです。

地震地帯に原発を建ててはいけない

 ――そこで日米原子力産業の思惑が一致しているわけですね。2013年10月末の安倍首相の「トップセールス」で三菱などが受注を決めたトルコへの輸出について、どうお考えですか? ちなみに、トルコは1970年代から原発を造ろうとしていて、90年代末には、三菱がウェスティングハウスと、日立がカナダのメーカーと組んで応札しています。しかし、99年8月にトルコ北西部で大地震が発生して、こんな所に原発を造ったら危ないということになり、いったん計画が凍結されました。それがまたよみがえったわけです。

 そもそも、地震地帯に原発を造るというのは、やってはいけないことです。
 米国には約100基の原発がありますが、ほとんどが東海岸にあります。なぜなら、米国の東海岸は地震がないからです。世界で地震があるのは、「環太平洋地震帯」という太平洋を取り巻いているところと、ヒマラヤから始まって地中海へ抜けるラインだけです。米国では、地震のある西海岸には、原発はほとんどありません。
 ヨーロッパでは、イタリアはかなり地震があるけども、イタリアはもう原発をやめてしまいました。ヨーロッパ大陸の大部分は、カンブリア大地といって、古生代という古い地層でできていて安定しているのです。ヨーロッパには原発が150基ありますが、それは地震がないから造れたというだけであって、もともと地震地帯に原発など造ってはいけないのです。

経験を重ねた最新の原発も安全ではない

 ――三菱のプレスリリースによれば、トルコに造る原子炉は、三菱とアレバが共同で開発した最新鋭の加圧水型原子炉「アトメア1」になるようです。この原子炉は、三菱とアレバで合わせて130基以上の原子炉を設計・建設してきた経験に裏打ちされた「最高レベルの安全性を有する」原子炉とのことですが、先生はどのように思われますか?

 たくさん造ってきたから安全かというと、そうではないですよね。ウェスティングハウスも、自分で技術を開発してたくさんの原発を造ってきたけど、スリーマイル島原発で事故は起こりました。GE社も、世界中におそらく100基くらい沸騰水型を造ってきたけれど、福島で事故を起こしているわけですから。原子力の場合は、実績があるから安全だとは、必ずしも言えないと思います。

 ――この原子炉の売りの一つは、圧力容器の下部にコアキャッチャーという構造物があることだそうです。これがあるので、仮にメルトダウンが起こっても、福島の事故のように、熔け落ちた核燃料がどこにあるかわからないという状況にはならないとアピールしています。

 福島では、熔けた炉心がどこにあるのかもいまだにまったくわからないという状況ですので、そういう事態を避けようと設計することはもちろん良いことだし、ぜひともやってほしいと思います。ただ、コアキャッチャーがあったとしても、炉心が熔けてしまったら大量の放射性物質が外に出るのは避けられません。ですから、熔けた炉心がどこにあるかということは大切な問題ですが、大量の放射性物質が放出されて周辺を汚染するということに関しては、ほとんど役に立ちません。
 冷却ができなくなって炉心が熔けると、大量の放射性物質を含んだ猛烈な蒸気が格納容器内に充満し、圧力も温度もどんどん上がっていくわけです。格納容器にはふたがついていて、パッキンを挟んでボルトで締めてあります。今回の福島の事故でもそうだったとみられていますが、内圧と温度が高くなると、まずパッキンがもたなくなって、ふたとの隙間から気体の放射性物質が漏れ出します。それだけではなく、格納容器には配管や電源ケーブルなどの貫通部もたくさんあるので、そこからも漏れたのだろうと私は思います。
 コアキャッチャーがあろうとなかろうと、こういうことは起きるのです。

地震や事故を考慮したら原発輸出はできない

 ――日本は、同じ中東のヨルダンにも原発を輸出しようとしています。ヨルダンも、三菱がアレバと組んだ原発を受注しようとしているのですが、建設予定地が首都アンマンから30キロと近く、しかも砂漠のど真ん中で、冷却水は7キロ離れた下水処理場の処理水を使うといいます。下水処理場との間には高低差も100メートル近くあり、停電や故障などでポンプが止まった場合、原子炉の冷却ができなくなる危険性も懸念されています。このような場所に原発を造ることについて、どのように思われますか?

著者情報

ジャーナリスト

布施祐仁

ふせ ゆうじん

1976年、東京都生まれ。『ルポ イチエフ 福島第一原発レベル7の現場』で平和・協同ジャーナリスト基金賞、JCJ賞を受賞。三浦英之氏との共著『日報隠蔽 南スーダンで自衛隊は何を見たのか』で石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞を受賞。著書に『日米密約 裁かれない米兵犯罪』『経済的徴兵制』、共著に『主権なき平和国家 地位協定の国際比較からみる日本の姿』などがある。
イミダスの連載「伊勢崎賢治・布施祐仁に聞く『日米地位協定と主権なき日本』」はこちら!

元京都大学原子炉実験所助教

小出裕章

こいで ひろあき

1949年生まれ。東北大学工学部原子核工学科卒、同大学院修了。74年から現職。伊方原発訴訟住民側証人。原子力研究の現場から原子力廃絶をうったえる異端の研究者とされてきたが、福島第一原発事故の際に発信し続けた的確な分析と警告が多くの人々の信頼を得て、一躍時の人となった。著書に『原発のウソ』(扶桑社新書、2011年)『隠される原子力 核の真実』(2011年、創史社)など。『imidas』では、1997年版から「原子力」分野の執筆を担当。

関連記事