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納豆のネバネバは人類を救う?

多彩なメリットをもたらしてくれる「納豆樹脂」の潜在力

原敏夫(株式会社ハラテックインターナショナル副社長)

 日本人なら誰もが知るところの納豆。あのネバネバには、人類が抱えているさまざまな問題を解決してしまう潜在力が備わっているのです。

ネバネバの正体は?

 納豆といえば、長く糸引くネバネバ。その成分はうまみ調味料のグルタミン酸が5000個以上つながったポリグルタミン酸というものです。かつて筆者は、遺伝子解析の手法を駆使して納豆の「家系図」を作ることで、納豆のルーツが中国の雲南にあったことを突き止めました。納豆の過去を解明すると、今度は納豆を使って、未来につながっていくモノづくりに挑んでみたくなりました。
 納豆の糸は、少し古い世代のナイロンの構造に似ていますが、加工性が悪く、そのままでは実用に耐えられません。より強い素材にするためのヒントは放射線でした。たとえば、自動車などのタイヤは放射線を照射すると、分子レベルでゴム同士が強く手をつなぐことにより強度を増すのです。橋を架けるようなかたちを作るので、これを架橋構造と呼んでいます。
 放射線照射はポリグルタミン酸にも効果があり、その主要な骨格をなす炭素原子同士が手をつなぎ、架橋構造をかたちづくりました。納豆樹脂の誕生です。

納豆樹脂とは何か?

 納豆樹脂は、蜂の巣状の六角形構造が無数に並んだ構造になっていて、ここに桁外れに大量の水を取り込むと、納豆樹脂はゼリー状の透明なゲルになります。照射線量が40キログレイのとき吸水率は最大となり、自重の5000倍もの水を吸い込むことができます。そして、重要なのは、納豆樹脂は人体にも自然環境にも優しく、無害だということです。
 納豆から直接納豆樹脂を作ろうとすると、納豆1キロからわずか1グラム程度しか得られません。現在は、(1)タピオカとも呼ばれるキャッサバのでんぷんを原料として、グルタミン酸生産菌によりグルタミン酸を発酵生産し、(2)さらに、グルタミン酸ナトリウムを発酵原料として納豆菌を使ってポリグルタミン酸へと変換、(3)水に溶かして放射線を照射、(4)得られた架橋体を凍結乾燥して微細化することで納豆樹脂を生産しています。ベトナムに敷設した75トンの発酵タンク3基を運転することで、1日当たり1トンのポリグルタミン酸を生産できます。

紙オムツの隠れた問題点

 現在使われている日本製紙オムツは、世界トップレベルの性能です。軽量で携帯に適し、使用時の圧迫感も少なく、肌触りや装着感もよいという、世界に誇る優れた製品です。中でも吸水性ポリマーは排泄(はいせつ)物を確実に捕らえ、吸水速度も速く、低価格で大量に生産されています。
 しかし、使用後に課題があります。たとえば、吸水性ポリマーはアクリル酸ポリマーという安定した物質ですが、自然崩壊により出現するアクリル酸モノマーなどは毒性が強く、過去に地下水に溶け込み中毒事件を引き起こしたことがあります。
 また、使用済み紙オムツは、水分を大量に含むので高温で焼却する必要があり、ボイラー設備や燃料費は高額になりますし、焼却時に発生するダイオキシンも無視できません。
 しかも、発生量も多く、2008年の福岡市のデータによれば、療養型病院や介護老人福祉施設などから生じる約1万3400人分の「事業系」の使用済み紙オムツだけでも、1年間で7124トンにも達するといいます。

土に還る紙オムツを作りたい

 紙オムツは、吸収材、肌と直接触れる不織布、それらを覆う防水性の表面材からなります。納豆樹脂開発当初から、これを吸収材として利用する紙おむつの開発が夢でした。つまり、土に埋めることができる生分解性の紙オムツというわけです。
 アクリル酸ポリマーの代わりに納豆樹脂を利用すれば、まず吸収材が生分解性になります。表面材と不織布は生分解性プラスチックを利用することになり、表面材は市場に出回っている生分解性のごみ袋がベースになります。問題は、不織布です。直接肌に触れるパーツであるために肌触りのよさが求められますが、化学薬品の軟化剤を多用すると環境への優しさと離反することになります。
 数年前、まるで絹かと思わせるほど肌触りが素晴らしい不織布を、筆者が在籍した大学の先輩に試作していただいたことがあります。生分解性プラスチックを極めて細い繊維にしたうえで、やわらかく絡み合わせる高度な手法によって、肌触りのよさや柔軟性を実現したのです。生分解性プラスチックから、新生児にも使えそうな不織布ができることは確認できました。不織布の量産化プロセスの確立と製造コストの圧縮という課題が見えてきました。

納豆樹脂は植物栽培を変える

 地球は水の惑星といわれています。しかし、飲用に適した水はわずか0.74%にすぎません。そのうちの65%は農業用水に利用されており、この割合を少なくすることは急務です。
 納豆樹脂を保水材とした節水農法を確立することも夢の一つです。これまで、腐食した有機物からなるヘドロを肥料と考え、種子と納豆樹脂を混和したヘドロシード・ペレットを開発し、阿蘇山麓で実証試験を行ったことがあります。浚渫(しゅんせつ 水底の切削)による「水圏の再生」と、緑化による「陸圏の修復」を狙った一石三鳥にもなる発想です。
 一方で、今年、京都府立木津高校システム園芸科の生徒たちによって、納豆樹脂を畑に散布することで、水田で栽培する水稲を陸稲のようにふつうの畑で栽培する試みがなされました。納豆樹脂が雨水などを吸水し、蓄え、土の乾燥を防ぎ、地温上昇も抑えてくれると期待したのです。
 指導教諭のもと、水稲としてコシヒカリ、陸稲としてNERICA(ネリカ)という品種を用意し、5月下旬からそれぞれ納豆樹脂を表面散布したブロックと、散布しなかったブロックとで栽培しました。結果は、納豆樹脂をまいたブロックのほうが両方の稲とも目に見えて豊かに育ち、土壌水分含有量も45%以上に保たれ、地温も5度低く抑えることができました。今後は、納豆樹脂の粒径や散布量の最適値などを調べていく予定です。

医療応用への可能性も大きい

 納豆樹脂の医療応用も考えています。一つには、アトピー性皮膚炎に悩む患者さんに保湿剤を提供することですが、まずは「REFAHREリファーレ)」という化粧品として市販を始めました。添加物を一切加えず、水と納豆樹脂と防腐剤のみの配合です。納豆のにおいやベタベタ感は全くなく、同時にサラサラ感とシットリ感には驚かれることでしょう。一般に保湿化粧品にはグリセリンやシリコーン類が配合されているのですが、汗や皮膚呼吸で生じる水分を吸収できずに浮き上がってしまい、化粧くずれを起こしやすいのです。対して、リファーレは皮膚になじんで汗も吸ってしまうために化粧くずれが起こりづらく、リピート率はふつうの化粧品の2倍にもなる約20%という高い評価を得ています。

透析患者の苦しみを減らせる可能性

 日本透析医学会の報告によると、腎臓病のために透析が必要な患者数は、2012年12月には約31万人に達したとのことです。人工透析は、本来なら尿として排出される老廃物を血液から取り除く操作ですが、水分も一緒に取り除かれてしまうため、患者さんは激しいのどの渇きを覚えます。週に2回、1回につき4~5時間も、それに耐えなければならないという、非常につらい治療です。
 水に関する問題となれば、納豆樹脂の出番です。マウスにごく少量の納豆樹脂を水と一緒に経口投与したのち、排泄物中の水の量を測定すると、体内に摂取した大部分の水が保持されることが分かりました。そこで、腎臓透析の専門医の立ち会いのもとで透析前の患者さんにほんの少しの納豆樹脂をコップ一杯の水と一緒に飲んでもらった結果、透析中にのどの渇きを覚えなかったと評価されました。納豆樹脂が体内で水を保持・滞留させることで、のどの渇きを軽減できる効果が確認できたのです。
 これには後日談がありまして、食品衛生法では放射線の食品照射は禁止されているのです。しかし、例外があり、発芽防止のため、じゃがいもに放射線照射することは認められています。放射線照射されたじゃがいもは食べても問題ないとされているにもかかわらず、のどの渇きを軽減できる納豆樹脂を約31万人もおられる透析患者さんに提供することはできないのです。

社会に役立つ成果物の開発を目指す

 納豆樹脂の有用性はさまざまな実証試験で確認できているのですが、汎用性資材としての製造コスト、市場動向、メーカーの事情、そして法律による規制など、実用には数々の複雑なハードルが立ちふさがっています。それらを個人の力だけでクリアしていくことは容易ではありません。しかし、今後も納豆樹脂の可能性を求めて挑戦を続けるつもりです。

著者情報

株式会社ハラテックインターナショナル副社長

原敏夫

はら としお

1949年生まれ。九州大学農学部卒。78年から九州大学農学部助手、ロンドン大学王立医科大学院大学への留学を経て、89年から九州大学農学部助教授。専門は微生物遺伝子工学・環境科学。2003年、九州大学発の大学ベンチャーとなる有限会社ハラテックを起業。04年、株式会社ハラテックインターナショナルに変更。

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