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宇宙新時代、人類は惑星へ向かう

有人惑星探査の時代が始まる

松浦晋也(科学ジャーナリスト)

 「1960年代のうちに人類を月に送る」というケネディ大統領の宣言で実現した月面着陸から40年。アメリカの新宇宙政策を皮切りに、新たな宇宙の時代が始まった。中国、ロシア、ESA、日本は、どのようして月面観察、月面基地の建設、有人惑星探査を行うのか。

アメリカ「地球から月へ、月から火星へ」

 アメリカのブッシュ大統領は、2004年1月14日、スペースシャトル国際宇宙ステーションISS)から、有人月探査へと大きくかじを切る新しい宇宙政策を発表した。
 スペースシャトルは2010年に引退、ISSは15年で運用終了。代わって新たに、オリオンと命名されたカプセル型宇宙船CEVを開発し、20年までに有人月探査に復帰する。月は、火星有人探査で始まるそれ以遠へのミッションの基地となり、同時に太陽系の、さまざまな場所への無人探査ミッションを実施する、というプランだ。
 有人月探査のためにNASA(アメリカ航空宇宙局)は、有人打ち上げ用ロケットアレス1、貨物輸送用大型ロケットアレス5、オリオン、そして月着陸船からなるシステムの開発を開始した。
 無人の月着陸船と、月に向かうためのロケットをアレス5で、宇宙飛行士が乗るオリオン宇宙船をアレス1でそれぞれ打ち上げ、地球を回る軌道でドッキングさせて月に向かう。

詳細な月探査と月面基地の建設

 アメリカの新たな有人月探査は、恒久的な月基地を建設し、継続的に月に人間を滞在させることを目指している。06年10月には、月面基地の建設地として、月の南極にあるシャックルトン・クレーターの縁が選定された。クレーターの底には、月面に衝突した彗星の水が凍り付いて存在する可能性が指摘されている。また高台のクレーターの縁は、地平線方向に太陽電池を向ければ、途切れることなく電力を供給可能だ。
 有人月探査に先立って、アメリカは月の詳細な無人探査も実施する。08年には、無人探査第一弾のルナ・リコナイサンス・オービターLRO 月探査機)を打ち上げる。LROは細かい物体を判別可能なカメラを搭載しており、月全面の詳細な地図を作成する。またLROと同じロケットで、月面へ突入する探査機LCROSSエルクロス)も打ち上げる。LCROSSは、月の南極地域の「永久影地域」に突入する。月面への降下の間、月面の詳細観測を行うと同時に、突入で巻き上がる物質をLROで観測し、水の存在を確認することを狙う。
 計画は順調のようだが、実際には何度もの変更を受けている。また国際的にもアメリカには、ISSの開発で態度を何度も豹変させた「前科」があり、国際協力といっても、ヨーロッパやロシア、日本など、計画参加の可能性がある各国は「アメリカの言うがままに従属させられるのではないか」という、疑念を感じている。

日本の宇宙計画の現状と課題

 日本の宇宙探査は、07年現在、大きな転換点に来ている。
 これまで、日本の宇宙科学を担ってきていた宇宙航空研究開発機構JAXA)・宇宙科学研究本部(ISAS)とは別に、07年4月にJAXA内に月・惑星探査推進グループJSPEC)というセクションが設立された。
 月やそれ以遠の探査は、有人月・火星探査と合わせて、JSPECが担当することになる予定で、07年度いっぱいをかけて組織作りを行うことになっている。このような組織改変が行われた理由は、まず第一に、アメリカが打ち出した国際協力による有人月探査に対応する必要があるためだ。
 より現実的な理由として、借金漬けの国家財政の中で、今後、宇宙科学への支出が増えることはなく、むしろ減少傾向になるだろうとの見通しがある。縦割りの予算体制の中で、宇宙科学への投資が減るならば、宇宙科学から、月・惑星探査を分離し、別途に大義が立つ国際協力の有人月探査とまとめ、予算を確保して宇宙探査を続行する必要があるという判断である。
 2007年9月現在、日本の月・惑星探査は、07年9月の月探査機「かぐや(SELENE)」を皮切りに、金星探査機PLANET-C」(10年打ち上げ)、ヨーロッパと共同の水星探査機「ベピ・コロンボ」(打ち上げ13年)、小惑星探査機「はやぶさ2」(同11年頃)が動いている。これに加えてJSPECでは、月着陸機「SELENE2」と、はやぶさ後継の「はやぶさmark2」(ともに10年代後半を想定)の検討を行っている。「mark2」ではヨーロッパとの協力も視野に入っている。
 この他、ISAS内部で検討が最終段階に入り、実施可能と判断される宇宙機として、電力ソーラーセイルという新たな推進方法で、木星と軌道を一にするトロヤ群小惑星に到達する「電力ソーラーセイル実証機」構想が存在する。

注目される中国とインドの月探査計画

 台風の目となる可能性を秘めているのは、中国とインドである。両国とも宇宙開発全般に積極的な姿勢を見せており、近年宇宙関連予算を大幅に増額してきている。中国は最初の月探査機「嫦娥1号」を、07年秋に打ち上げる予定だ。嫦娥(じょうが:チャンウー)は、伝説の天女の名前である。嫦娥1号は、月上空200kmを周回する軌道に入り、主に月の鉱物資源の探査を行う。月資源探査を全面に押し出しているのは、中国の月探査の大きな特徴である。
 嫦娥1号に引き続き、12年には月着陸機を打ち上げる。着陸地点の選定も始まり、いくつかの候補が挙がっている。着陸機には中国初の無人月面探査車を搭載しており、月の3日間、すなわち約3カ月にわたって、月面の探査を実施する。さらに17年には、月の土壌サンプルを採取して地球に持ち帰る、サンプルリターンを実施する。次段階としては、17年頃から月有人飛行に向けた計画を開始し、24年に有人月着陸を実施するという構想が存在する。
 月以外では、火星探査計画がすでに動き出している。07年3月、胡錦濤主席のロシア訪問時、プーチン・ロシア大統領との間で火星探査に関する協力関係を結ぶことで合意した。09年10月にロシアは、火星の衛星フォボスに向けて探査機を打ち上げる計画を進めている。中国はこの時、重量110kgの小型探査機「蛍火1号」を同じロケットで打ち上げる。この衛星サイズは、日本が1998年に打ち上げたものの、火星到達に失敗した火星探査機「のぞみ」(重量260kg)の半分以下である。蛍火1号は、10カ月の飛行の後、火星周回軌道に入り、火星本体の観測を行う。
 インドは最初の月探査機「チャンドラヤーン1号」を、2008年に打ち上げる計画だ。チャンドラヤーンは、サンスクリット語で「月の乗り物」を意味する。重量500kgの中型探査機で、月上空100kmの軌道から、表面の元素分布を調査することを目的としている。インドも中国同様、12年前後に月着陸機、17年前後にサンプルリターンを実施する意向を明らかにしている。さらにまた、10年代の実施を前提に、火星探査機の開発と打ち上げを検討している。

世界の太陽系探査計画

 世界の太陽系探査は、2000年代後半に入り、参入する国が増え、新たな展開を見せている。今やアメリカ、ロシア、日本、欧州に加え、中国、インドが探査計画を進めるほか、韓国が参入の意思を表明。さらにヨーロッパでは欧州宇宙機関(ESA)とは別個に、イギリスとイタリアがそれぞれ独自の探査機を検討していることを公表した。
 イギリスは長年、宇宙開発に冷淡な態度を取ってきたが、ESAの火星探査機「マーズ・エクスプレス」に搭載した小型火星着陸機「ビーグル2」で宇宙探査に参入した。マーズ・エクスプレスは03年に火星に到着し、ビーグル2を火星表面に降下させたが着陸には失敗した。
 さらにイギリスは、月面に槍状のペネトレーターという観測機器を投下する探査機「ムーンライト」を2010年に打ち上げる計画を進めている。その後には、月面に軟着陸する「ムーンレイカー」という探査機構想も検討している。
 イタリアと韓国は、それぞれ月や火星の探査を検討しているという段階だ。一般に探査機の開発には5年程度かかることを考えると、2010年代半ばには、最初の探査機を打ち上げるものと思われる。()(

著者情報

科学ジャーナリスト

松浦晋也

まつうら しんや

1962年生まれ。慶應義塾大学理工学部卒。同大学院メディア・政策研究科修了。日経BP社勤務(航空宇宙、コンピューター、情報通信などの分野を取材)を経て現職。著書に『国産ロケットはなぜ墜ちるのか』(2004年、日経BP社)『エルピーダは蘇った』(06年、日経BP社)『コダワリ人のおもちゃ箱』(07年、エクスナレッジ)『恐るべき旅路』(07年、朝日新聞出版)『スペースシャトルの落日』(増補版、10年、ちくま文庫)『飛べ!「はやぶさ」』(11年、学研教育出版)『のりもの進化論』(12年、太田出版)、『小惑星探査機「はやぶさ2」の挑戦』(14年、日経BP社)、『はやぶさ2の真実』(14年、講談社)、『母さん、ごめん。 50代独身男の介護奮闘記』(17年、日経BP社)など多数。

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