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2020年代に現れた「ローンウルフ型」ヘイトの背景を探る――ヘイトの変遷と今後の対策

朴順梨(ライター)

 2020年代以降、自ら差別的動機を主張する犯罪が立て続けに起きた。いずれも実行犯は20代で、ヘイトデモの多くを主催していた在特会(在日特権を許さない市民の会)や周辺関係者との繋がりはない、いわば「出自のわからない」人物だった。彼らを生み出した背景は、何だったのか。

「2020年代に現れた「ローンウルフ型」ヘイトの背景を探る――ヘイトの変遷と今後の対策」イメージ画像

ネットに突き動かされて、ヘイトクライムに走る

 2021年8月30日、京都府宇治市ウトロ地区で、放火事件が起きた。当時22歳だった無職男性が実行犯で、同年7月には愛知県名古屋市の在日本大韓民国民団関連施設にも放火している。
 2022年5月から6月にかけておこなわれた公判の場で、彼はヘイトデモなどには一切の参加経験がないこと、インターネットで1週間程度情報収集をした結果、「ウトロ地区に住む在日コリアンは不法占拠である」という思い込みを募らせ、「放火を通じてその地区の存在を世間に知ってもらう。ウトロ平和祈念館の開館を阻止する」目的で火を放ったと供述している。

「私のこの件、そして今後ふたたび起こるであろう同様、あるいはそれ以上の事件、何を背景とし、何を問題としているか、それを皆さま1人1人が考えていかなければ、さらに多くの罪のない人々が今度はさらに命を失うことになるかもしれません。この私の放火は、単なる個人的な感情だけに基づくものではない。そのことを改めて認識していただきたい」

 彼は公判の最後、類似犯罪が起きるとの予告とも受けとめられる言葉を放って法廷を後にした。傍聴していた私が、自分の耳を疑うほどの言葉だった。しかしこの不気味な予言は、ある種の現実となってしまう。
 2022年4月に、茨木市の韓国系インターナショナルスクールのコリア国際学園敷地内の段ボールに火を付けられる事件が起きた。当時29歳の、無職男性による犯行だった。

 在日韓国人や朝鮮人に対する敵意など、公判の場で自身の思っていたことを語った彼は、2021年5月から翌22年5月に逮捕されるまで、ほぼTwitterで情報収集をした結果、犯行に及んだという。
 2人ともヘイト街宣や運動の経験はなく、外国人を攻撃する排外主義者との繋がりもなかった。龍谷大学法学部教授の金尚均(キム・サンギュン)さんは、そんな彼らを「組織的な背景とか文脈を持たない、まさにローンウルフ」だと言った。

「一匹狼って言い方はかっこいいけれど、ネットで突き動かされた人たちが、気軽に大それたことをする時代に入ったと思います。ただこれまでの排外主義者も、烏合(うごう)の衆だったんですよ。しっかりした組織があるわけではなく、お互いに名前も仕事も知らない人たちがネットによって集まった。デモや街宣等によって集団化したんです」

龍谷大学法学部教授の金尚均さん。大学の研究室にて

龍谷大学法学部教授の金尚均さん。大学の研究室にて

 

ネットの書き込みから、路上の街宣へ

「ネット右翼」という言葉があるように、“保守”を標榜する人たちとインターネットは、2000年頃には非常に近い距離にあった。1999年5月に生まれた「2ちゃんねる」は、開設当初から在日コリアンや被差別部落を揶揄する言葉が目に付いたし、2002年の日韓ワールドカップ時には、すでに露骨な差別用語が書き連ねられるようになっていた。
 2006年末に在特会が組織され、2008~09年にはウトロ地区やフィリピン国籍の女性が通っていた埼玉県蕨(わらび)市の中学校前で、ヘイト街宣をおこなっている。2009年12月には金さんの子どもが当時通っていた京都朝鮮学校に押し寄せ、差別扇動をおこなった。
 2010年頃から週末になると東京都内や大阪市内、京都市内などの市街地の路上には、排外主義を扇動するデモ隊の姿があった。とくに新宿区の新大久保では、毎週末のように繰り広げられていた。
 特定の民族への敵愾心を煽る集団を、私が初めて目にしたのは2013年2月だった。「日本から出ていけ!」「韓国を火の海にするぞ!」。韓流グッズ店や韓国料理店が林立する新大久保で、旭日旗を掲げながら、差別や虐殺をも煽るヘイトスピーチが、堂々と叫ばれている。血が凍る思いだった。しかし彼らの悪罵は憲法21条の「集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する」の範疇にあるとされ、日本では止める法律は何もない。
 だが、差別は決して許される行為ではない。ヘイトスピーチに反対する人たちが抗議に駆け付け、時にデモ隊メンバーと衝突することもあった。

 ところが、2010年代半ばになると状況が変わる。2014年、京都朝鮮学校での差別扇動をめぐる民事裁判で、在特会側に対して約1200万円強の賠償金支払い判決が下された。そして、2016年5月、「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律」、いわゆるヘイトスピーチ解消法が成立する。在日コリアン集住地域である神奈川県川崎市の市民をはじめ、街から差別をなくしたい人たちの思いが、形になった瞬間だった。

「京都朝鮮学校襲撃犯が民事、刑事の両方で裁判を提起されたり、16年にヘイトスピーチ解消法ができたことで、在特会はこれまでの運動を続けられない状況になったと思います。そういった中で路線変更をしていくわけです」

 

路上から政治の場に、ヘイトスピーチの場が移る

 ヘイトスピーチ解消法の成立後、政治家や候補者による差別的な言動が増え始め、ヘイトスピーチの主戦場が政治の場に移る。
 2016年7月14日、告示された東京都知事選の候補者の中に、在特会前会長(当時)の桜井誠氏の名があった。桜井氏は豊島区池袋で街頭演説の第一声をあげたが、地域にある中華製品を扱う店を名指しし、
「あれがマフィアの巣窟なんです」
と、敵意をむき出しにした。彼は落選したものの、11万4000もの票を獲得。翌月、「日本第一党」を結党した。以降他党からも、排外思想を持つ立候補者が現れるようになった。
 たとえば2019年1月に渋谷区議選の自民党公認候補予定者が「反日国の外国人生活保護はやめましょう」などとSNSに投稿したことが問題になり、その後落選している。彼はプロフィールに「愛国者」と書いていた。また元在特会関係者がNHK党(当時)などから出馬し、選挙街宣の場で外国人留学生への奨学金制度について、「敵国のろくでなしに払う金はない」と発言することもあった。
 金さんは、京都朝鮮学校での裁判やヘイトスピーチ解消法と合わせて、政治の場にヘイトスピーチの主戦場が移ったことの要因として安倍政権の存在が影響したと見ている。

「僕の見方が正しいかはわからないですが、在特会は差別のある社会への基礎を作ったのだと思います。これまでの街宣右翼は特攻服を着て街宣車に乗っていたけれど、彼らは普段着で街を練り歩いたり、マンガを使ってソフトなイメージ戦略をして、一般の人を集めました。このようなヘイト活動の政治的受け皿となりながら、非常に強い愛国心と歴史修正主義的な姿勢を見せた安倍政権が右傾化した思想を広げていった。『中国は日本の土地を奪おうとしている。北朝鮮はミサイルを飛ばしてくる。これは大変だ』と危機感をあおり、被害感情と愛国感情を培っていったのです」

 

ネット右翼が耕した差別の大地を、政権が後押し

「日本を、取り戻す。」

 民主党政権だった2012年、自民党総裁だった安倍晋三元首相は、こんなキャッチフレーズを掲げ衆院選に挑み、政権を奪還した。誰から日本を取り戻すのか。この主語のない言葉は、自分たちは権利を外国人に奪われた被害者で、それを取り戻さねばと妄信する人たちの心に深く刺さった。

「安倍政権が受け皿になり、右翼的で保守的、そして排外主義的な愛国心で人々が団結していったのです。その結果、差別を受け入れやすい社会になり、また、差別はいけないと言えないような社会になってしまいました」

 そんな状況下で、差別扇動にいそしむのは安倍政権を信奉する40代以降と言われていた。だがウトロもコリア国際学園の事件も、当時20代だった青年が起こしている。

「今までは定年後に初めてインターネットを見るようになって、それで『ネットで真実を知った』と騒ぐのは中年や老人男性ばかりでしたよね。でも僕もウトロとコリア国際学園の事件で、若年化が進んでいるのではないかと気付きました。彼らは自分のしていることの実感が非常に希薄で、非常に軽いように見えます。そしてこの社会の中で不遇な目に遭っているという被害者意識を持っていて、同時に、そこから生まれる正義感情も持っていると思います」

著者情報

ライター

朴順梨

ぱく すに

1972年、群馬県生まれ。早稲田大学卒業後、TV制作・情報誌編集を経てフリーライターとなり、「AERA」等に寄稿。元・在日韓国人三世。著書に『奥さまは愛国』(北原みのりとの共著、河出書房新社、2014年)『韓国のホンネ』(安田浩一氏との共著、竹書房、2013年)『離島の本屋』(ころから、2013年)などがある。

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