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新しい結婚のカタチ、「友情結婚」とは?(後編)~成婚者に聞く、夫婦生活の実態とメリット・デメリット

黒川祥子(ノンフィクションライター)

 恋愛なし、性行為なしの「友情結婚」のためのマッチングサービスを提供する結婚相談所「カラーズ」では、カップルが成立すれば「成婚退会」となります。ただし、これは入籍を意味しているわけではありません。「ご成婚おめでとうございます!」と送り出した先、その後のカップルたちはどのように暮らしているのでしょうか。
 実際に入籍し、夫婦生活を送っている友情結婚当事者3組、4人の方々から、それぞれの暮らしについてうかがいました。

【「カラーズ」設立の経緯やマッチングの流れを紹介する前編はこちら!】

●ケース1:ケンさん

「自分がどうしたら生きやすくなるか、幸せになるかを考えた時、その選択肢の一つとして、友情結婚があることを知ってもらえればと思っています」

 友情結婚の当事者であり、日本で唯一の友情結婚のための結婚相談所「カラーズ」スタッフでもある、「ケンさん」(仮名)は友情結婚への思いをこう語る。
 ゲイであるケンさんが異性との法律婚をしたいと活動を始めたのは20代前半、今から15年ほど前のことだった。

「まだ友情結婚という言葉すらありませんでした。mixiのコミュニティの中にそのような活動をしている人たちがいることを知り、オフ会に参加したのが始まりです」

 ほどなく友情結婚という言葉が広がり、数年後にオフ会の幹事が結婚したことで、友情結婚という新たな結婚の形が現実のものとなった。活動を始めて5年後、ケンさんはレズビアンの女性と出会い、結婚。以来、結婚生活は10年に及ぶ。
 この女性と友情結婚をするに至った、決め手とは何だったのだろう。

「もともと結婚相手は、レズビアンの人がいいと思っていました。恋愛自体に興味がない人よりも、人を好きになったり、嫌いになったりする感覚を持っている人がいいと。彼女とは、一緒に喋ったり飲んだりするのが楽しいという最低限の相性がありました。その中で決め手となったのは、感情的にならずに、ちゃんと話ができる相手だったということです」

 当時は今のカラーズが提示する「話し合い冊子」(結婚に向け、条件などをすり合わせるためのガイドライン)はない。ケンさんたちは結婚に向けて、手探りで確認していった。

「言いにくい話をちゃんとしようと、まず、お金の話からしましたね。年収はいくらで、1カ月どのくらいでやりくりしているか。生活レベルがあまり違わないというのが、相手を選ぶ上では結構、大事なことでした。例えば飲みに行ってどのくらいの金額を使うか。お金の感覚は生まれ育つ中で培ってきたものなので、変えるのはとても難しいですから」

 住まいはそれぞれ個室があるのが前提で、食事をとるスペースを考慮し、2LDK以上の間取りに決めた。

「基本、(どちらかが)専業主婦(主夫)になるという考えはなかったので、お互いの仕事やキャリアを変えずに生活できる場所で物件を探しました。家計の共通費用は、共通の口座をつくって決まったお金を入れて、自分の財布は自分で管理するというのも、結婚前に取り決めました」

・なぜ、友情結婚なのか
 ケンさんは婚活を始めた当初から、友情結婚以外の考えは持っていなかった。

「実家がある地方では、結婚するのが当たり前、子どもがいて一人前みたいな強固な風潮があって、結婚するべきという圧が半端なかったですね。世間体もありますが、“普通”の結婚をすることで、親を安心させたかった。友情結婚をしたおかげで、面倒くさいことを言われなくなって、効果があったと思います。職場では女性と割と仲良くなれるせいか、『ゲイなのでは?』という噂が流れそうになっていましたが、結婚したことでそれもなくなりました」

 カミングアウトをするかしないかは、個人の自由だ。自分がゲイであることは、絶対に人に知られたくないとケンさん。その思いは一切、ぶれることはない。

「今の日本社会で、自分にとってはゲイであることを知られることのデメリットのほうが、格段に大きいと思います」

・友情結婚の実際は
 ケンさんには、恋人のパートナーがいる。これも結婚前に、「お互い、パートナーをつくってもいい」と確認したことだ。当初は二人とも子どもを希望していたが、ある時期に話し合って、子どもは持たないという選択をした。
 実際に同居して2~3年は、もめることが多かった。

「生活リズムが違うので、最初の頃は、戸惑いましたね。自分の親のような夫婦関係をイメージしていたので、一緒にご飯を食べるものかなと思っていたのですが、彼女はそうは考えていない。なので、今は食事で縛ることはなく、ただ最低、月に1回は、外食を一緒にすることにしています。それがルールです。盆と正月、冠婚葬祭はお互いの実家に行くので、最低限のコミュニケーションを取りましょうということです。我々は、これを“業務連絡”と呼んでいます」

「業務連絡」は、日常生活で感じた相手への不満や、改善してほしい点などを話し合う場でもある。

「自分は料理をするのですが、一人分って作りにくいものなので、多めに作って冷蔵庫に入れておいていました。最初の頃は冷蔵庫にあるものは何でも自由に食べていい決まりにしていたのですが、『あれがある』と思って帰ってきたのにないことが続くと、つらくなってきて、話し合いをしたことがあります。相手もそうだと思うのですが、不満を言うタイミングが難しい。なので、月に1回の業務連絡に向けて、不満などを整理して、冷静に話し合うようにしています」

 結婚生活と言っても、彼女とはほとんど顔を合わせることがないのが日常で、それで特段、困ることはなかった。

「結婚前と同様に、友達と飲みにも行くし、パートナーと旅行にも行きます。もちろん、仕事も大事です。今も結婚を続けているのは、結婚しているという事実が、自分として生きやすい状態をつくってくれているからだと思います。職場などで結婚歴10年で夫婦関係が悪化している人の話を聞くと、うちは“普通”だなあと思っています」

・ふたりは「運命共同体」
 ケンさんにとって結婚相手はパートナーや家族というより、「運命共同体」だと言う。

「どちらかのセクシャリティがバレてしまうと、相手のこともバレてしまう。自分たちのセクシャリティが親族にバレたら離婚、ということは決まっています。また、お互いが離婚したほうが幸せだねと思うようになったら、離婚しようとも決めています」

 その意味での「運命共同体」なのだが、では恋愛感情を持たない他人と、一緒に住むというのはどういうことなのだろう。

「家の中に、他人がいるのがダメな人は難しいと思います。自分は大丈夫なのですが、そうは言っても、一人のほうがラクですよ。それを捨ててでも、メリットがあるのかないのか、それはその人次第だと思います」

 メリットを重んじるから、ケンさんは結婚生活を続けている。
 この経験が、カラーズの成婚者たちに生かされている。“結婚して終わり”ではないことを、身をもって体験している、友情結婚の先駆者として、ケンさんの存在は非常に大きい。 
 ケンさんは世間の常識を逆手に取り、世間の偏見や差別的な白眼視から身を守る“シェルター”を友情結婚で手に入れた。そのシェルターで運命共同体同士、それぞれが、自分らしく暮らしている。ケンさんにとって友情結婚とは、自分らしく生きるためのものだった。

 次に紹介する女性は、ケンさんとは異なり、その“シェルター”を手放してもいいと思っている。セクシャルマイノリティのひとつ、恋愛と性行為に対し興味を持たない“アセクシャル”の女性、である「ナナさん」(仮名、女性)の友情結婚は、どのようにはじまり、どう変わっていったのだろうか。

●ケース2:ナナさん

「私は30歳の頃に、自分がアセクシャルだと気づきました。それまではいつか“普通”の恋愛ができると思って、男性と付き合おうと頑張って、ホテルまで行ったこともありましたが、絶対に無理って直前で逃亡。『いつか、いい人が現れるよ』と言われてかなり迷走したし、レズビアンかもと思って出会いを探したこともあるけど、全部ダメで。インターネットで同じような人がいないか検索して、アセクシャルという言葉に出あって、ああ、これかー!と思ったんです」

 恋愛ができないとわかったナナさんは、ショックだったと言う。

「私はこれから結婚することなく、一人で生きていくんだって思い知らされました。周りの友達がどんどん結婚していく中、孤独感を感じ始めて、ネットを検索して見つけたのが、友情結婚でした」

著者情報

ノンフィクションライター

黒川祥子

くろかわ しょうこ

1959年福島県生まれ。東京女子大学文理学部史学科卒業。業界紙記者などを経てフリーライターとなり、家族の問題を中心に執筆活動を行う。2013年、『誕生日を知らない女の子 虐待――その後の子どもたち』で第11回開高健ノンフィクション賞を受賞。著書に『熟年婚』(河出書房新社)。 また、橘由歩の筆名で『「ひきこもり」たちの夜が明けるとき』(PHP研究所)、『身内の犯行』(新潮新書)、『セレブ・モンスター』(河出書房新社)、『全国ごちそう調味料』(幻冬舎)、『県立!再チャレンジ高校』(講談社現代新書)、『PTA不要論』(新潮新書)、『8050問題』(集英社)、『心の除染』(集英社文庫)、などがある。息子が二人いるシングルマザー。

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