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探究

社会問題

「家族は助け合うべき」は本当に“美しい”のか?

貧困や生活保護をテーマに漫画を描く意味を聞いた

さいき まこ(漫画家)

(構成・文/仲藤里美)

漫画家さいきまこさんの作品は、生活保護や貧困といった社会的な問題から起こる人間模様をリアルに描き出している。読者に「私にも起こるかもしれない」と切実な思いを抱かせる。最新刊『助け合いたい』のサブタイトルは、なんと「老後破綻の親、過労死ラインの子」である!! こんな作品を生み出すさいきさんとは、どんな人なのだろう? お話をうかがった。

 

  『助け合いたい』©さいきまこ 秋田書店 2017年

 

生活保護への偏見は、私自身にもあった

──さいきさんは、家族の病気が原因で経済的に追い詰められた一家が生活保護によって暮らしを立て直すまでを描いたコミックス『陽のあたる家』(2013年、秋田書店)など、生活保護や貧困をテーマにした作品を連続して発表されています。こうした社会的な問題を漫画で描こうと思われたのには、何かきっかけがあったのでしょうか?

 私は、新卒で入った会社を結婚退職して、フリーで雑誌編集などの仕事をしたあとに、漫画を描き始めました。経済的にはずっと不安定だったのです。それでも正直なところ、生活保護については「自分とは違う人たちが受けるものだ」という強い偏見を持っていました。
ところが、出版不況が厳しくなってきた10年ほど前、フリーランス仲間のメーリングリストに『あなたにもできる! 本当に困った人のための生活保護申請マニュアル』(湯浅誠著、2005年、DO BOOKS)という本が紹介されていたのです。書評としてではなく、「自分たちも該当するのでは?」という切実な理由からです。その紹介文には、生活保護の受給要件も書かれていて、自分も保護の対象になる可能性があることが分かりました。
当時の私は、その数年前に離婚を余儀なくされ、貯蓄もほとんどなく、老後の備えは国民年金だけという状態。病気になったり年を取ったりして働けなくなったら、生活保護を利用するしか手立てがないな、と考えるようになりました。つまり、生活保護を利用しなければ生き延びることはできない、と気付いたのです。

 その後2012年に、いわゆる「生活保護バッシング」が起こりました。あるお笑い芸人の母親が生活保護を利用していることが明らかになったのが発端でしたが、法的には何も問題のないケースだったにもかかわらず、「不正受給」という言葉が独り歩きして、まるで生活保護利用者の大半が「不正を行っている」「働きたくないから利用している」人であるかのようなイメージが広がってしまった。さらに、政治家からは「生活保護を利用することが恥だと思わなくなったのが問題だ」という内容の発言まで飛び出しました。
「生活保護は不正受給ばかり」も、「生活保護を利用するのは恥だ」も、どちらも全くの間違いなのに、その二本柱で一気にバッシングが進んでいく。しかも、バッシングしている人たちは、自分もいつ生活保護を利用するようになるかもしれないのに、自らの権利を自らの手で叩きつぶそうとしている! この状態は本当にまずいんじゃないかと思いました。それで、自分の仕事である漫画を通じて「それは違うよ、本当はこうなのよ」と発信できないだろうかと考えたのが、生活保護を扱った一作目『陽のあたる家』を描こうと思ったきっかけです。

 

それぞれの作品で伝えたかったこと

──最初に掲載した雑誌は女性向けの漫画雑誌ですが、企画を持ち込んだ時の編集部の反応はどうだったのでしょう?

 最初は「生活保護って不正受給だらけなんでしょう、どうしてそんな人たちの漫画を描くの?」というものでした。まさにバッシングのさなかでしたし、「生活保護」イコール悪というイメージで、その単語が出るだけでダメという感じだったのです。
 いくら「そうじゃないんです」と言葉で説明しても分かってもらうのは難しいなと感じたので、先に漫画の詳細なストーリーを作ってしまうことにしました。そこに生活保護の制度についてや、「どういう誤解があるか」ということを織り込んで再度プレゼンをしたら、編集者から「やってみましょう」と言ってもらえて。私自身も、ストーリーの力というものを実感したし、もしかしたら読者にも受け入れてもらえるんじゃないか、という手応えを感じました。
 実際、発表後もバッシングのような反応はほとんどなくて、「身につまされる」「生活保護ってこんなに大事なんだと分かりました」という声をたくさんいただきました。雑誌の読者層と重なる「主婦」が主人公だったこともあり、「自分もいつそうなるか分からない」と感じてもらえたようです。
 ただ、まずは生活保護とはどういうものかを伝えることを優先するために、『陽のあたる家』ではあえて、誰から見ても「助けなきゃいけない」と思えるような「清く正しい」家族を主人公に設定していました。そのため「こんな人たちばかりじゃないでしょ」という批判はある程度織り込み済みでしたが、これだけで終わってしまったら、「この漫画に出てくるような『本当に困ってる人』は助けるべきだけど、健康そうなのに仕事もせずに暮らしている、『自己責任』としか思えない人は助ける必要ないでしょう」といった発想につながりかねないという懸念が残っていたのです。
 だから、次の作品では「自己責任のように見えても、そこにはいろんな事情や背景があるんだよ」ということを伝えたいと思いました。それで、「子どもの貧困」をテーマにした二作目の『神様の背中』(2015年、秋田書店)では、小学生の娘の面倒も見ずにお酒を飲んで遊び歩いている、全く「かわいそう」には見えない母親を登場させることにしたのです。

 

──他の作品も含め、さいきさんの漫画は登場するエピソードが非常にリアルで「自分の身にも同じようなことが起こるかもしれない」と考えさせられるのが大きな特徴だと思うのですが、実際にあったエピソードなどを取材されているのでしょうか?

 当事者やその支援団体、ケースワーカーなどに取材をしています。取材に協力してくださった方々のプライバシーの問題があるので、お話しいただいたエピソードをそのまま使うことはほとんどありません。それでも一つだけ、許可をいただいて、作品に盛り込んだエピソードがあります。
 母子家庭に育ったある高校生の話です。その子は卒業後に就職が決まっていたのですが、「自分はこれからもずっとお母さんと同居して、面倒を見ていくつもりです」と言うんですね。さらに話を聞いたら、母親から離れて自分の将来を考えることに罪悪感がある、という言葉が出てきた。「なぜ?」と聞いたら、「今まで自分が出会ってきた人たちは、100人が100人みんな、『あなたがお母さんの面倒を見なきゃね、頑張ってね』という言葉をかけてきた」と言うんです。

 日本の社会が貧困や福祉に対してどう向き合ってきたのか、この話に端的に表れていると感じました。困難が生じた時には家族が助けるべきという風潮の下、問題を当事者だけに押しつけて放置する。「家族で助け合うべき」という規範意識は一見美しいですが、そのために貧困という問題は解決されることなく、世代を超えて連鎖していきます。
この問題意識は、「家族」をテーマにした第三作、『助け合いたい』(2017年、秋田書店)にもつながっています。

 

 

              「家族なんだから支え合わなくては」という思いが、逆に歯車を狂わせ、主人公一家をさらなる苦境に追い込んでいく

『助け合いたい』©さいきまこ 秋田書店 2017年

 

自分の中の矛盾や差別意識と向き合う

──『助け合いたい』では、貧困そのものだけではなく、過労死やジェンダー、非正規雇用、精神疾患など貧困とつながるさまざまな問題にも触れられていますね。

 読者からの感想を見ていると、「ここが身につまされました」「この部分が心に刺さりました」と言っていただく部分が、本当にそれぞれ違うんですね。もともと、どんな人が読んでもどこか思い当たる節があるように描いたつもりではいましたが、結局、貧困やそれにつながる困難というのは、もはや世代とか性別といった属性にかかわらず誰も逃れられないことなんだな、と改めて感じさせられました。
 また、こういった作品を発表するようになってから、周囲の人に「うちの息子がうつ病で……」とか、「実家の妹が引きこもりで……」とか、「実は自分の家族も苦しんでいる」とか打ち明けられたことが何度もあります。逆に言えば、今の社会がそういうことをいかに外に向かって話せないかということですよね。貧困や障害は「恥だ」という意識が強くて、家族の内だけに封じ込めてしまっている人が多いことの表れだと思います。

 この国の社会保障制度がまだまだ不十分なのは、そうした不満や苦しみをみんなが家族だけで何とかしようとして、隠しているからという面もあるんじゃないでしょうか。「自分たちは困っているんだ」と声を上げる人がいないのに、行政の方から「あなたたちは大変そうだから助けてあげましょう」と動いてくれるなんていうことはまずありません。みんなが「困っている」ことを隠して、「いい家族」であるかのように取り繕っている間に、どんどん社会保障費は削られて、個人や家族の負担が増大していく。世の中はちっとも良くならない、という感じですよね。
 だから、「実は……」ではなくてもっと普通の会話の中で、「うちも困っていて」「じゃあ、行政になんとかしてもらおう」という話をオープンにできるような空気があればいいな、とは思います。ただその一方で、当事者ではない人が「もっとオープンにしろ」とか「生活保護は恥ずかしいことじゃないんだから隠さないで」とか言うようなことがあってはならないとも思う。

著者情報

漫画家

さいき まこ

さいき まこ

フリー編集者などを経て、2000年に集英社「YOU」で漫画デビュー。最近は雑誌「月刊フォアミセス」(秋田書店)で活躍。著作に『陽のあたる家 ~生活保護に支えられて~』『神様の背中 ~貧困の中の子どもたち~』『助け合いたい ~老後破綻の親、過労死ラインの子~』(すべて秋田書店)など、生活保護や貧困、家族の問題などをテーマにした漫画作品がある。『陽のあたる家』で「2014年貧困ジャーナリズム大賞」特別賞を受賞。子どもの貧困や生活保護問題をテーマに、各地で講演活動も。

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