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社会問題

若年性認知症に備えよ

相談件数が年々増加中

小長谷陽子(認知症介護研究・研修大府センター研究部長)

 2017年9月、東京都中野区が若年性認知症の実態調査に乗り出すことを発表した。市区町村が独自にこの病気の調査を行うのは初めてのことで、背景には働き盛りで子育て世代の人が発症し、職場や介護現場などで問題化している、といった事情がある。単なる物忘れ……ではすまされない若年性認知症という病気が持つ問題点について、全国を対象とした唯一の相談窓口である「若年性認知症コールセンター」の小長谷陽子医師が解説する。

65歳未満で発症する認知症

 認知症は“物忘れ”を起こす病気で、一般的には高齢者に多いのですが、年齢が若くても認知症になることがあり、65歳未満で発症した場合には「若年性認知症」と言います。働き盛りの世代であり、家庭や社会で重要な役割を担っているので、病気によって仕事ができなくなると、本人や家族だけでなく、社会的に大きな影響があります。
 原因としては、日本では脳卒中(脳梗塞や脳出血)による血管性認知症の割合が約40%となっています。脳出血、脳梗塞、くも膜下出血に起因するものが多く、高齢者の血管性認知症の多くが脳動脈硬化症による多発脳梗塞に起因するのに比べて特徴的です。一方、高齢者に多いアルツハイマー病は、若年性認知症では全体の4分の1程度であり、頭部外傷やアルコール性認知症など原因疾患が多様であることも若年性認知症の特徴です。

 09年3月、厚生労働省から発表された調査結果によると全国の若年性認知症の罹患者数は約3万7800人で、人口10万人当たりでは47.6人でした。男性は人口10万人当たり57.8人、女性は36.7人と男性のほうが女性より多く、発症年齢は平均51.3歳で、50歳未満で発症した人の割合は約3割でした。
 日本で65歳未満といえば、まだ働き盛りの世代で、家庭や社会で重要な役割を担っている人がほとんどです。そうした人が認知症になると、仕事に支障が生じ、結果的に失職して経済的に困難な状況に陥ります。代わりに家族の者が働こうにも、認知症は介護の必要があるので仕事に専念するのが難しい場合もあるでしょう。子どもが成人していないと、親の病気が子どもに与える心理的影響が大きく、教育、就職、結婚などの人生設計が変わることにもなりかねません。また、この世代では本人や配偶者の親の介護などが重なり、負担を増大させることもあります。

生活のめどが立たなくなる

 経済的な不利益ばかりではなく、働く場を失うと社会から取り残された気持ちになり、自分自身の存在意義をも失ってしまうことになりかねません。行き場がなくなり、いわゆる「閉じこもり」になってしまう人もいます。40歳以上であれば介護サービスを利用できますが、現状のサービス事業所は大半が高齢者向けです。そのため65歳未満では違和感を覚えることが多々あり、行きたがらない人もいます。
 また認知症と診断されると、法律で禁止されているので車の運転はできません。仕事上、車の運転をする人や車で通勤している人の場合、どのように対応するのかは、本人にとっても家族にとっても悩みの種です。いつ事故を起こすかわからない、迷子になるかもしれないなど、家族の心配はつきません。運転ができないと説明されても理解できず、すぐにやめる人ばかりではありません。運転させないようにする工夫、本人を納得させる方法とともに、代替の移動手段についても考慮する必要があります。
 初期の段階であれば、体力も十分にあり、認知機能が低下していても、何らかのサポートがあればできることが多く、仕事をしたいと希望する人もいます。このような社会復帰への願望は高齢者に比べ、若年者ではより強いと考えられます。働き盛りで、社会的にも重要な役割を果たしている人が、病気により退職したり、家庭での役割を全うできなくなることは、社会にとっても大きな損失です。しかし、経済的な理由で何とか仕事を継続していたが、最終的には退職となった若年性認知症の人に話を聞くと、「(後から振り返って)仕事をしているときはつらかった、十分に仕事ができないし、何をしていいのかわからず、周りに迷惑をかけていると思うといたたまれなかった。でも妻子のことを考えて我慢していた、辞めてほっとした」と話されました。

国の対策はどうなっているか?

 厚生労働省では、08年7月に「認知症の医療と生活の質を高める緊急プロジェクト」をまとめ、認知症対策の五つの柱を掲げ、若年性認知症対策もその一つに挙げられました。その中の短期的対策の一つとして、全国を対象とした唯一の若年性認知症相談窓口「若年性認知症コールセンター」が09年10月に愛知県大府市の認知症介護研究・研修大府センター内に開設されました。
 コールセンターの目的は、(1)誰でも気軽に相談できる、(2)早期に認知症疾患医療センターや地域包括支援センター、障害者就労支援機関等へのつなぎ役になる、(3)定期的な情報提供、(4)利用促進のための普及・啓発、です。そのための相談員は、看護師、准看護師、中学・高校教員、介護支援専門員、認知症介護指導者などで、専門的な研修を受けた10人からなり、3~4人が交替で相談に対応しています。開設後も随時、研修や現場見学を行い、若年性認知症に関する知識や情報収集に努めています。
 コールセンターへの相談件数は開設当初から毎年増加しており、13年からは年2000件以上となっています。しかし16年には2000件を割りました。これは各都道府県に相談窓口が置かれるようになったことによる影響かもしれません。電話相談の特徴としては、以下のようなものがあります(2010〜12年報告書より)。
  ●男性からの相談が多く28.4~39.1%
  ●本人からの相談が多く26.8~40.0%
  ●傾聴だけでなく情報提供や経済的な問題に関する相談が多い
  ●介護の対象者は男性が52.6~61.0%

コールセンターに届いた相談

 具体的な事例として、コールセンターに寄せられた相談例をいくつか挙げてみましょう。
 金融機関で働いていた56歳の男性は、職場で立ち居振る舞いや言動に強引なところがあり、客からクレームが来るということで職場から妻に連絡がありました。精神科を受診し、うつ病と診断されて薬を飲み始めましたがよくなりません。数カ月後、別の病院で頭のMRI等の検査を行い、前頭側頭型認知症と診断されました。これは認知症の原因疾患の一つで、記憶障害は比較的軽いものの、反社会的行動を起こしやすいタイプです。
 会社に伝えると、仕事は続けることはできるがクレームが続くようなら退社してほしい、配置転換はできないと告げられました。顧客相手の仕事では、就労継続は難しい場合が多く、相談員は傷病手当金や退職後の健康保険、障害者の福祉サービス等、若年性認知症の人が利用できる制度を案内しました。
 自営業を営む63歳の男性は、4、5年前から物忘れや、妻に対する暴言・暴力が始まり、専門病院でアルツハイマー型認知症と診断されました。自営業で、若いときは両親を介護していたこともあり、国民年金をほとんど掛けていません。妻も働いていましたが、夫を家に残しておけず退職しました。生活のため貯金を取り崩しており、息子の援助を受けています。住宅ローンの支払いもあり、この先の生活が心配とのことです。
 相談員は時間をかけて相談者の訴えを聴き、共感を示すとともに、住宅ローンに関しては金融機関に相談し、返済額の軽減や息子への名義変更が可能かを確認すること、最終的には住宅の売却、生活保護申請、生命保険の高度障害認定による保険料支払い免除などの方法があることを案内しました。
 ある会社の健康管理部門の保健師からの相談は、仕事にミスが多くなり、1カ月ほど前に若年性認知症と診断されたばかりの50歳代半ばの男性社員についてでした。本人から会社への報告はありません。この病気を理解する上司が陰ながら仕事のフォローをしていますが、ミスが多いことで同僚などから不満が出始めています。病気のことを周囲に伝えたほうがいいのでは? と思っても、本人にはまったく自覚がなく、どうしていいかわからないという相談です。
 診断名を会社に言わないのは、そのことによって仕事を辞めさせられるのではないかといった不安があるからです。仕事のミスで、同僚や上司に迷惑をかけていることは本人もわかっていると思われますが、プライドがあって言えないのかもしれません。仕事を続けるためにも、病気について周囲の人に理解してもらうことが必要です。職場で勉強会を行うなどの方法があります。

認知症は予防できるのか?

著者情報

認知症介護研究・研修大府センター研究部長

小長谷陽子

こながや ようこ

1975年、名古屋大学医学部卒業。メリーランド大学(アメリカ合衆国)医学部神経内科客員研究員、JR東海総合病院(現名古屋セントラル病院)神経内科主任医長、同副院長を経て2004年より現職。医学博士。日本内科学会認定医、日本神経学会専門医・指導医、日本認知症学会専門医・指導医、日本認知症ケア学会評議員。日本医師会認定産業医。著書に「本人・家族のための若年性認知症サポートブック」(中央法規出版)など。

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